夏休みの期間に受験生の俺と妹の距離がなんだか縮まったんだが!?

脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー

夏休みの期間に受験生の俺と妹の距離がなんだが縮まったんだが!?

   ミーンミーンミーンミーン


   ミーンミーンミーンミーン


「あぁ、うるさいな。もうっ……」


 いかにも夏を感じさせるセミの鳴き声を高三の受験生である俺こと蒼翔あおいしょうはペンを走らせながら、悪態をついた。


 室内にいるのに毎度毎度ミンミンミンなんなんだ。カーテンを閉め切ってるのに聞こえてくるなんて厄介にも程がある。


「防音材でも買っとくべきだったか??

 いや、でも……まぁいいや。勉強しないと……」


 独り言を言いながら俺は、問題演習をしていく………が


「くそっ、やっぱし集中できねぇ。休憩だ、休憩!!」


 そう言って俺はスマホを取り出しSNSを確認する。


「はぁ? 彰人のやろう。彼女出来た、だと? この時期に彼女なんて落ちるぞあいつ」


 歯を食いしばりながら、俺はスマホ画面を睨みつけた。


 俺の目に写っているのは、親友の彰人と見知らぬ女子だった。SNSにほんの数分前に投稿された写真であったが、羨ましくて仕方が……いや、あいつが志望校に合格できるのか心配で仕方がなかった。


あいつも、俺も志望校は違えど判定はいー判定であるE判定だ。用は論外レベル。足切り食らうレベルということだ。


 まぁ、俺もあいつも世間体で見れば難関大学を目指しているから判定が悪く出るのは仕方がないのだが……。


 はぁ、と深いため息をつきながらスワイプして画面をかったるそうにみつめる。


 ガチャッ


 背後から嫌な音が突然耳に届いた。まずいと思ったが時はすでに遅し。


「はぁー、お兄ちゃん。私が来るたびいつもスマホを弄ってるけど、そんなんで合格できるの?」


 振り向けば、愛しい妹であったので俺は心底ほっとする。母さんだったら確実に詰んでたからな。


「ほっ、大丈夫だよ。ちょうど休憩してたとこだから」


「その台詞、5億回も聞いてるけど?」


「奇遇だな。俺もその台詞5億回聞いたぜ」


「はぁ……。駄目だこりゃ。お兄ちゃんよくそんなドヤ顔で言えるよね。最近スランプ気味なの? なんか、勉強身に入ってないみたいだけど」


「いや、そんなことはないことはないかもしれない……」


「なら、聞くよ? 悩みでもあるんじゃないの? 受験生の張り詰めた感じとか私も一度経験してるから分かるよ?」


 優しい口調で語りかけながら、由美ゆみは俺のベッドに腰を掛けた。


「そうだったな。由美も一応俺と同じ高校の高校一年生だったな」


「一応って何よ。私だって立派な高校生なのに……」


「分かってるよ。由美は立派なだもんな」


「うん、そうよ。私は立派な高校生!」


 えっへん、偉いでしょ。みたいな感じで胸を張る由美。まるで子供みたいに可愛くて優しくて、その……輝いてる姿が眩しくて…。


「どうしたの? お兄ちゃん」


 下を俯いた俺を妹が気づいて声をかける。


「いや……何でもない……」


「もうっ、仕方ないお兄ちゃん……なんだから」


 優しい声でそう言った後、俺の背後に回り込んだ由美は、俺の頭を優しく撫でてきた。


「張り詰めてるなら、吐き出していいんだよ、お兄ちゃん。何かあるんでしょ?」


「な………い」


 気づけば、俺の声は震えていた。くそっ、なんでだ、どうして涙が溢れてくるんだ。


「強がらなくていいよ。お兄ちゃん。今は特別夏休みキャンペーンで妹の私が寄り添うから」


「お、、俺は」


「うん」


 妹の甘く優しい声に俺は歯止めが効かなかった。思いがはち切れてしまった。


「怖いんだよ。E判定で、この先成績が上がる……保証もない。そんな状態なのに勉強を頑張り続けて、落ちたら俺はぁ、俺はぁ」


「うん」


「それに、周りはどんどん青春を謳歌してる

……。高校生活の最後として、彼女作ったり友達と遊んだりして……」


「うん」


「そいつらが、合格して俺だけが合格しない未来が怖いんだ……。勉強をがんばった俺がそれ程頑張ってないやつに負けて落ちてしまうことが……たまらなく怖いんだ。SNSを見れば見るほど周りは青春をしてる。俺はこのまま勉強を頑張って合格を掴み取ることができるのか、それだけが不安で怖くてたまらない……」


「うん」


「なぁ、由美ぃ。俺はこのまま勉強を頑張り続けたとして合格できるのか? 合格出来なかったら俺のがんばった意味は何も……」


 歯を食いしばりながら、俺は良からぬ未来を想定してしまう。


 恋愛、スポーツ、青春。


 それをたくさんしてきた彰人を含む人たちが合格して自分だけが合格出来ない未来を。


 それなら、俺もいっそ……青春をした方が……



 そう思った矢先。


「お兄ちゃん。頑張ったことに意味がないことなんてないんだよ」


 妹がはっきりと強い言葉で言い切った。


「たとえ、合格できなかったとしても頑張り続けたことに意味は必ずあるんだよ」


 そんなのは詭弁だ。落ちたら地獄。合格したら天国。その二択に変わりはない。この世の中は過程ではなく結果が問われる。


「そんなのは、ねぇよ」


「あるよ、お兄ちゃん。たとえ、周りで遊んでる人が合格して勉強を頑張ったお兄ちゃんだけが落ちたとしても、ね」


「根拠はあるのか??」


「うん、あるよ。だってさ、お兄ちゃん。頑張ってる人ってすごーーーくカッコよくない??」


 は? の一言だった。そんなのは根拠でも何でもない……。


「俺は頑張り続ける意味を聞いてるのであってカッコよさなんて聞いてないんだが……」


「うん。でも、ね。お兄ちゃん。頑張ってる人間って結果なんて関係なしにカッコいいんだよ……。何かに向かって頑張ってる人程輝いててカッコいい人はいないよ??」


「それは、そうかもだけど……」


「それに、お兄ちゃんがもし頑張り続けて落ちてしまうことがあっても」


「あっても?」


「頑張り続けたお兄ちゃんは、誰よりもカッコいいお兄ちゃんなんだって私がその意味を肯定する」


「何を、言って……るんだ?」


「だから、ね。お兄ちゃん。今のお兄ちゃんじゃ到底凄く頑張ってるとは言えないけど、もし死ぬ程勉強してそれで落ちちゃったとしても、頑張ったお兄ちゃんを私だけは認めるって言ってるの」


 そう言われた途端、再び涙が一筋流れた。


「え、急にどったの? お兄ちゃん」


「私だけは認める」この言葉が胸に突き刺さったのだろうか。頑張る意味が見出せたそんな気がした。


 いつだって、俺の周り……いや、俺自身も結果を重視し続けた。頑張ったと言っても、過程はどこまでいっても過程でしかないのだ。

 結果が伴わなければ、無意味なものになってしまう。それが、妹の言葉でなんだか救われた気がしたのだ。


 認める、肯定する。


 こんな安っぽい言葉で心を突き動かされるなんてと、俺は自分のちょろさに自嘲する。


 でも、なんだかモヤは取れたな。


「ありがとう……。由美。お前のためなら頑張れそうだ」


「え? なんか急に顔色良くなったんだけど。お兄ちゃんって何。宇宙人か何か?」


「いや、それ酷くね?? さっきまで泣いてたのに……」


「ふふっ。冗談冗談。でもお兄ちゃん、私のために頑張ってくれるのは嬉しいけど自分のことなんだから、自分のために頑張ってよ?」


「そうだな。じゃあ、お前の一番の男になるという俺の目的を達成するために受験勉強がんばろうかな」


「うえっっ。シスコン気持ち悪いよ、お兄ちゃん」


「あぁ、そうだ。俺は気持ち悪い男だ。だからこそ、足掻いて、もがいて、みじめでも頑張り続けて我が愛しの妹を惚れさせるぜ」


「そっ。なら勉強頑張らなきゃだね、お兄ちゃん。次私が覗いた時、スマホ弄ってたら説得力なくなるよぉーー」


「あぁ、じゃあ勉強やりますわ」


「うん。なら私はこれにて……」


「おう、ありがとな。由美……」


「お互い様だよ、お兄ちゃん」


 お互い様?? その真意が読み取れず俺は首を傾げたが、由美は笑ってごまかして俺の部屋を飛び出していった。


   さて、勉強でもやりますか。



    ミーンミーンミーンミーン

    ミーンミーンミーンミーン



 気づけばセミの鳴き声が再び耳をくすぐる。鬱陶しさを感じていた鳴き声が何故か心地の良いものへと変化していた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あとがき


 休止中なのにすいません。夏休み勉強ばっかで苛立ってて、少しだけ趣味に走っちゃいました。


 一話完結で書きましたが、執筆にはそれ程時間をかけてないのでおかしな点があったかもしれないです。そこは、大目に見ていただけると幸いです。




 

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