第6話 第三王子アルド①
「あなたが僕をっ……、僕を、こんな目に合わせている張本人ですか……!」
怒りを抑えたつもりだったが、どうしても言葉に苛立ちが混ざってしまう。
だが、当のアルド王子は堂々と語った。
「記憶喪失については知らんがね。少なくとも君のその傷も、骨折も、死にかけたことさえも私が仕組んだことには違いない」
王子のそんな態度に僕はどうしても苛立ってしまう。
訳も分からず監禁され、戦わされ、殺されかけた。そんな僕の気持ちをこの人は知っていたのだろうか? 苦しむ僕を見下ろして笑っていたのだろうか?
「なぜそんな事を……!! 何でこんな目に合わないといけないんだ!!」
突然の黒幕の登場に、想いが口から溢れてしまう。
ずっと、ずっと思っていた。励ましてくれるスミスの前ではとても出なかった悲痛な叫び。
アルド王子は僕の叫びを聞いて、一瞬目を丸くして、にこやかだった表情から笑みが消える。
彼は椅子から立ち上がると、悔しさに喘ぐ僕の前にどっしり座り込んだ。
「明確にお答えしよう。君が奴隷で、私が君を買ったからだ。奴隷には自身のための選択の権利はなく。生成与奪、生きるも死ぬも、全ての権利は全てその主人にある」
アルド王子は僕に目を合わせ、あまりにも誠実な口調で冷酷な事実を語った。
「残念ながら君自身にはどうしようもないことだ。奴隷商人との取引は完了してしまっている」
「なら、なぜ僕を殺そうとするのですか?」
当たり前の疑問だ。殺そうとするならなぜ僕を買い取ったのか?
「知っていたかな? 君は元々死刑になるところを脱獄しているんだ。私はそんな君をたまたま奴隷市場で見つけ、剣闘士として買い取ったのだよ」
「死刑!?」
新しい事実に僕は驚愕を隠せない。
スミスも知らなかった様子で、驚いた表情を僕に向けている。
「当初は君にも武器を与えて平等な試合をしてもらう予定だった。しかし、父上に君のことがバレてしまってね。そういう訳にはいかなくなった。宣伝はすでにしてしまっているし仕合を中止にする訳にはいかなかった……」
目の前で、地べたに座っている王子の瞳には僕の姿がしっかりと写っている。
さらに王子は続けた。
「そこで、この闘技場で処刑するということで、父上には納得してもらった。それで何とかチケット販売までこぎつけ、そして仕合としては成立させながら、君が確実に死ぬよう手を回したという訳だ」
王子の誠実さを感じる姿勢に僕はすっかり呆気に取られてしまった。
だからといって未だ怒りは拭えきれないが、そんな王子の正直さに、僕も平静を取り戻してきた。
それに、王子のセリフの中に気になることがいくつかあった。
(父上とはまさか国王のことか? 国王が何故僕の死を望んでいるのか? この人に聞かなければ……)
何故僕は記憶を失う羽目になったのか。
スミスも知らない真実がそこにはあるはず。
「分かってくれたかな? ここまで正直に話したのは、君の状態を確認したかったからだ」
王子はひとしきり話終えると、有無を言わせず僕に問う。
「次の試合も勝てると思うかね?」
「……無理だ……。僕が勝ったのは偶然だ……」
どうやってローグを倒したのかも分からない。ましてや魔法や武器もない。
次やれば僕は確実に死ぬだろう。
「偶然とはどんな偶然かね? 君はこの闘技場のチャンピオンをたった3発で倒したのだよ? であれば、次も倒せる可能性だってあるじゃないか」
「3発……!? だとしても……あの時は死に物狂いで意識もなかった。どうやって倒したのか分からないんだ……」
「フム。であれば明日の仕合で君は死ぬだろうな」
先ほどまでの誠実な口調が突然、非情なものになった。
「そんな! しかも明日だなんて……!」
今日の様な仕合を明日も。しかも、この重症の体で行わなければならない。
僕は絶望を隠しきれなかった。
「君に投資した金額を回収するためさ。1仕合だけではどうも利益が低かった。もう1試合やってくれるだけでも助かるよ。ありがとう」
答えにならない答えが、どうしようもない現実を物語っていた。
『奴隷に選択の権利はない』先ほどの王子の発言が頭の中で響く。
「くっ…………」
僕は何も言い返せず、かと言って、あまりの不条理さに絶望することしかできない。
「ちょっと待った! アルド王子! 発言しても良いですかい?」
牢屋の中に声が響く。
そっと手を上げているのはスミスだった。
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