第14話 黒い炊飯器

記憶を食わせる作業はすぐに終わった。


心電図のような貼り付け型の装置を頭につけて、5分もすると完了だった。


こんなので記憶を抽出出来ているのだろうか。



作業が終わると、黒い炊飯器に緑色のLEDライトが灯った。


まるで意識が目覚めたように感じる。


リリーの炊飯器はちゃんと(炊飯器らしく)白かったが、こいつは真っ黒なボディだ。


「個体差で色が違うんだよ」


博士が冗談なのかわからない解説をしてくれた。


「まだ計算が終わっていないから、動けないかな。 これ使っていいよ。」


4つのタイヤにシンプルな木枠だけで構成されたキャスターを渡された。


紐がついており、引っ張ることで荷物を運ぶことができる。



俺は黒い炊飯器をキャスターに載せて寒い地下研究室をあとにした。


外に出ると日差しが高く、少し暑かった。季節は夏だろうか。


空調の音が聞こえなくなり、外は静だ。セミの声はしない。



ふと、黒い炊飯器から、カタカタと計算音がしていることに気づく。


記憶を食わせる、と言っていたな。


俺の過去を学習しているのだろうか。


思えば、俺の大したことない過去を学習して、ちゃんと育つのだろうか。


自然と、リリーと自分を比較をしてしまう。


あいつはいい奴だし、きっと家族仲も良いだろう。


俺は、ごく普通に生きてきて、そこまで家族仲もよくなかった。



まぁ、その時はその時か。


まだ喋り出さない炊飯器を見て、少し不安になっているのかもしれない。


俺は少年を探しに教会の外へ向かった。



教会を出ると、少年がスクーターに持たれかかって待っていた。


「腹減ったよ、待たせ過ぎだぜ。」


時間にして30分くらいだろうか。


「ご飯食べに行こう、それ二人乗り出来るの?」


「出来っけど、その前にアレ」


少年が手を出す。


「馬車でもらったアレ半分寄越せよ。」


運転手からもらったまんじゅうを忘れていた。


大きめのまんじゅうをオーバーオールのポケットから出すと、2つに割った。


中には挽肉の炒めたものがはいっている。


肉まんだったのか。


これは空腹にききそうだ。


冷めているはずだが、香辛料の独特な匂いがしてきた。


ひとつを少年に渡して、2人でスクーターを椅子に食事タイムだ。


辛さと香りが強いので、冷めても食べやすいタイプの肉まんのようだ。


お茶が欲しくなる。



「リリーねぇさんと同じ型にしたのか! 黒くてかっこいいじゃねぇか」


少年に背中を叩かれる。


「汎用性は大事だからね」


肉まんをむせながら答える。


「しかし、こいつぁ足がついてねぇな。」


全く気づかなかった。


したから炊飯器を覗いてみると、ゴメスさんにあった足が出てくる穴がついていない。


ずっとキャスターで引っ張るわけにもいかない。


「どうすればいいかな?」


「改造ショップ行こうぜ!」


自我が目覚める前に改造するのも悪い気がしたが、歩けないのでは仕方ない。


俺達は改造ショップに向かうこととなった。

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