おまけ シスターの話②

「その国の創設者、正式な名前は今はには伝わっていません。」


「正式なリーダーや、組織名の存在しない活動だったとも言われています。」


「彼らは、自分たちの思想ごとに住む地域、適用法を選択出来る社会を設立する、と、宣言しました。 難しい言葉で言うと、真の社会契約論の実現を提唱することを目的とした集団だったと言われています。」


『分かり合うことが不可能ならば、せめて離れて暮らそう(争わずに生きていこう)』


「今でも使われるこの言葉は、彼らの発言が由来と言われています」


「公海上の小さな島をもって、政治信条を軸としたコミュニティを設立した、初めての人々と言われています。」



「彼らはすぐに歴史からも姿を消しています。 投獄されたのか、自ら姿を消したのか、あるいは滅ぼされたのか、理由はわかっていません。」


「ただ、公海上とは言え、近くの国にとっては内乱罪、独立行為に近い宣言だったので、国家にとってあまり面白い行為でなかったことは間違いありませんでした。」


「当時の国々や既存メディアは、混乱をおこさないために、彼らの情報を規制しようとしましたが、情報統制が効かなくなった社会において、完全に情報を消し去ることはできませんでした。」




「その後しばらくして、世界中でおかしなことが起こり始めます」


「公海上、あるいは地方の放棄地域において、同時多発的に、事実上の独立宣言が行われました。」


「それは明らかに、前述の『彼ら』に影響を受けた行動であることは明らかでしたが、集団間には思想的共通点はなく、連携をしていた痕跡はありませんでした。」


「国家は最初こそやっきになって、それら、独立宣言をおこなったコミュニティを制圧しようと頑張っていました。」


「『寛容』を是とする国家や政党にとっても、『そうではない』コミュニティが国内に成立するのは堪え難かったのです。」


「しかし、それぞれのコミュニティは粘り強く抵抗し、また、その数は少しずつ増えていました。」


「その結果、独立コミュニティをルール付きで承認しはじめるまでに、長く時間はかかりませんでした。」


「社会の分断による争いは元々長く長く続いており、国民も政治家も嫌気がさしていたことも、背景にあったのだと思います。」


「このコミュニティ自治のような仕組みは小規模型民主制と言われ、多くの国に広まりました。 今でもこの国の政治体制の元となっています。」


シスターは、こちらの中身が子供ではないということを知っているかのように、淡々と説明を続けた。


髪や目の色は少年と似ている。同じ民族なのだろう。


シスターからは、何かを隠すような甘い香りした。

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