第8話 馬車
「すまない、注意ありがとう。 大切なお金なんだ、返してくれないか?」
少年はこちらを少し見たあとに、金を手放した。
じっと、透き通った青い瞳でこちらを見ている。
「お前、機械はどうした。」
俺の右手、指輪がついている方の手をアゴで指しながら言っているので、
炊飯器をなぜ連れていないのか、という質問だろう。
「登録がまだなんだ。 これからしにいくところでさ。」
にこやかに答えたつもりだったが、あまり良い顔をされなかった。
「まさか、この村の継承戦に出るんじゃねぇだろうな?」
イケメン少年にすごまれた。
(少年といっても、多分、この世界では俺の方が年下だが)
眉間に力を入れて、顔を10度ほど傾けている。
俺も田舎育ちなので少しわかるのだが、若いのにちゃんとしたヤンキー仕草だ。
この地域ではまだヤンキー文化が若者にも残っているのだろうか。
嘆かわしいことである。
「いや、すまない。気に触ったなら謝る。 継承戦も出てほしくないなら出ないよ。」
俺はヤンキーが苦手だ。なるべくなら関わらないに限る。
継承戦がなんなのかわからないが、とりあえずこの場で喧嘩はしたくない。
サクっとこの場しのぎで嘘もつきかねないのが、おっさんの汚いところである。
だが、答えはあっていたようだ。
「そうかぁ? ならいいんだけどよ。」
少年は少し笑顔を見せ、ベンチを回り、隣に腰を下ろした。
「おめぇ、どのタイプの機械にするんだ?」
何を言っているんだろう、洗濯機の中に選択肢があるのか。
「わからない、タイプがあるのか?」
と答えると、
「ガキィ、おめぇ異世界人か? なんも知らねーんだな!」
嬉しそうに後ろのポケットから紙を取り出す。
戦闘機のパンフレットのようだ。
何種類かの戦闘機が掲載されている。
脚の生えていない炊飯器も乗っていた。
「俺のオススメは、汎用型継承戦戦闘機だな。」
「なんせ、リリーねぇさんとおんなじモデルだからな。」
パンフレットの炊飯器を指さしながら、少年はしゃべった。
炊飯器の下には、「汎用型継承戦戦闘機(拡張性特化モデル)」と書かれている。
中には、空を飛べそうなモデルも載っている。
この中から選べるのか、ワクワクするな。
それにしても、こいつ、リリーと知り合いだったんだな。
「あ、そろそろ馬車が来るみてぇだ。」
「町につくまでに他の種類も解説してやるよ!!」
ほう、少年、町までついて来てくれるのか。心強い。
しかも解説までしてくれる。
仲間になったヤンキーより頼りがいあるやつもいないよな。
これからよろしく頼むぜ! と思っていると、
俺も近づいてくる足音に気づいた。 馬車の足音だろう。
馬の「パカラッパカラッ」というよりは、「ドドドドド」といった感じだ。
少し異世界なので馬の種類が違うのかもしれないが、
実際の馬の音には詳しくないので、あんな感じだったのかもしれない、と思った。
音のする方を探すと、音の正体が家の角を曲がるところだった。
現れたのは、3メートルのトーテムポールだった。
トーテムポールからは6本の鉄の足が生え、すごい勢いで走ってくる。
これは、なんなんだ。
後ろには、西洋風の客車が連結されており、素敵な意匠がほどこされている。
これが馬車と呼ばれているもののようだ。
だが、6本足で走るトーテムポールを「馬」と呼ぶのは、何かが間違っている気がする。
この世界ではこれが馬なのだろうか。
俺は「神」の翻訳ミスを疑った。
トーテムポール本体には、10個ほど縦に顔が連なっており、それぞれ違う向きを見ながら別の表情をしている。
顔は動いており、生きているように見えた。
馬車停にトーテムポールが到着した。
こちらを向ている顔の一つが、俺を疑うような表情で、じーっとこちらを見続けている。
とても居心地が悪い、早く客車に入ってしまいたい。
客車は、少し高い位置にドアがついており、梯子で登り降りをするタイプの乗り物だった。
ドアが開き、背の高い男が梯子で後ろ向きに降りてきた。
タキシード姿の紳士のようである。
運転手がタキシードなのだとすると、この世界で馬車は高級品なのだろうか。
(これを馬車とは認めてはいないが)
早く客車に乗せてほしかったので、紳士に近づいて待機する。
梯子を下りた紳士がこちらを振り返ると、そこには俺が想定していた顔はなかった。
頭の大きさは10センチほどしかない。
そしてその小さな顔が縦に4つ連なっている。
俺は真剣に、歩きで町に向かうかどうかを考え始めた。
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