第5話
ミーンミーンミーン
近頃セミが鳴くようになってきた、もう夏の到来だと知らせてくれる。
「あー、あちー何でこんなに暑いんだよ。ってか何で俺は寒暖を感じれるんだよ!これはあれか多少の人間らしさは残してあげましょうっていう神様からのプレゼントなのか?そんなご都合主義いらないんだよなぁ!」
「もう過ぎたことでしょ。そんなこと言ってないで行こー!」
「「イヤッホー!海だ!!!」」
俺たちは凛ちゃんの両親に連れられて、というか俺は凛ちゃんに一方的に連れられて海にやってきたのだ!
「あぁ、最高だ!海、スイカ、水着、お姉さん、これぞ夏!って感じだな。こんなに気持ちいいのはいつぶりだぁ!」
「ホントそれよね!柳。水着とかお姉さんは意味分かんないけど、夏最高!いやー最近暑過ぎじゃない!?35°超えなんてもうしょっちゅうあるじゃん。異常気象だよ」
「その異常気象に負けてはならないのだよ。ならばやるべきことは一つ、行くぞ!凛ちゃん!こんなに暑いんだ!今こそは海に入らんとす!いや、待てよ。だがここで一つ疑問が生じる。俺は果たして水に入るという概念があるのかどうか…」
「確かに、それは見落としてたね。まぁ何とかなるでしょ!あとここでも言っとくけど周りに人がいるときは話しかけないでね。もし答えちゃったら周りの人に変な人扱いされちゃうから」
「実際、変な人なんだしいいじゃん」ボソッ
「あ!?何か行った?」
「いやー何にも言ってないよぉ。ハハッ、気のせいじゃない?」
「じゃあそうゆうことにしとくね。今回はね!」
おっし行こうか。
「お母さーん、お父さーん。泳いでくるねー。」
「凛、あんまり遠くに行きすぎないでねー」
「うん、分かった!行ってくる」
俺たちは砂浜で陣取った場所を出て、海に飛び込んでいく。
「うわ!冷た!思ったよりも冷たいよ。なにしてるの、柳。早くおいでよー」
「う、うん。分かってるよ。この緊張の局面なんだ、ちょっと待ってくれ。スゥゥゥハァァァ。よし、大丈夫だ。俺なら入れる、俺なら入れる」
俺は恐る恐る足というかヒラヒラを海に入れていく。
「あ、冷たいぞ。やったー!俺は海に浸かっても感じれるぞ!よっしゃぁぁぁぁ!あ、俺寒暖は感じれるんだった。クソォォォ!俺は何で見落としていたんだ。冷たいのを感じれるのはもう分かっていたじゃないか……。なんて俺はバカなんだ……」
「はぁ、柳がバカなのは今に始まったことじゃないんだし、海入れるならもう行こうよ。」
「ま、そっか。じゃあ行こっか」
ボバババ!
結論を言おう。どうやら俺は泳げないみたいだ。何でなんだよ!こんなに楽しみにしてたのに……。水泳もできないとか情けな俺。どんなやつだったんだろうな。そんなこと考えてても仕方ないか。まだ何にも思い出せないし……。
せっかく泳ごうと思ったけど俺たちはトボトボと荷物を置いている場所に向かう。浮き輪を取って出直すつもりだ。
「柳、泳げもしないなんてホントダサい。運動もできなくて、バカで、ドMってどこに需要あるの?生きてるころの柳を見てみたいよ。周りの人からどんな風に思われてたんだろうね。でもさ、柳って正直生きてたかどうかも分かんないよね」
グワっ!閃いた!俺の顔はとても変になっていただろう。せっかくの俺のカッコいい顔が台無しだな。
「それだ!それしかないでしょ。俺は宇宙人なんじゃね?だって泳げないし、何も覚えてないし、地球人にはいないくらいイケメンだし、今考えるとそれしかなくね!?きっとその惑星に泳ぐ水ってのがなかったんだよ。」
「それはないでしょ。ただ泳げないだけだし、顔だって上の中くらいで別に他にいないことはないでしょ。それにじゃあなんで日本語理解できて、話せてるの?有名な本のタイトルだって知ってるって言ってたじゃん。そこまで日本色に染まっているのに今更宇宙人?ないない」
ハッ、そうなのか、そういうことなのか……。確かに言われてみればそうだ。凛ちゃんの言うことには納得させられる。あーあ、俺泳げない説なんとか払拭させたくてでっち上げたんだけどなぁ。論破されちゃったよ。ただでさえダサかったのに余計目立っちゃったな。こんな女子高生にあっさり論破されるなんてお兄さん悲しいよ。
俺は凛ちゃんと浮き輪でしばらくプカプカした後、屋台で焼きそばを食べる彼女を眺めているだけだった。見てるだけっていうのはなんだかイライラするもんだね。この姿になってから空腹は来ないけど、やっぱり美味いものが食いたい。
「お祭りでもそうだけど、やっぱりいつもと違う場所で食べたら美味しく感じるよね!」
「俺に共感を求めるなぁぁぁ!!俺はな美味いもの食べたくても何も食べれないんだぞ!それは嫌味か、何も食べれない哀れな男へ向けられた嫌味なのか?くぅぅぅ!悔しいです!」
「柳は面白いこと言うね。そのテンションの高さはすごい。ププッ。別に悪気があって言ったんじゃないけど、そんな反応されたらイタズラしたくなっちゃうなー。あーホントこれ美味しーな。あーん」
「くぅぅぅ。俺も食べたい!くれよ!」
「柳何も食べれないじゃん。透けちゃって。ハハハハ」
俺はこんな地獄の時間を味わっていたのだ。その光景を見ているだけで何もできないのは修行だ。とても長い時間に感じる。俺はもう極地に達してしまったのかもしれない。ある意味成仏したと言ってもいい。悟りを開いてもう仏になってしまったかのように思える。こうして俺は長い修行をえて仏になった。〜完〜
「柳、何賢者みたいな顔してるのよ。キモい」
おっとすまない俺は勝手に目標を達成したと思ってしまっていたよ。まだだったようだ。
「え、そう?ごめんごめん、一人で旅立ちそうになってたよ」
「よく分かんないけど、確かに旅立ちそうな顔してたよ。いやー、でもここの海いいな。綺麗だし、人も少なめで泳ぎやすいし、柳ともこうやって話せるしね」
「あ、やっぱり凛ちゃん、俺と話したいんだ!一人だと寂しいもんね!ならそう言えばいいのに、変なところで照れ屋なんだから。もう、凛ちゃんたら!」
「そ、そんなんじゃないから!柳とは積極的に話して、色々な情報もらっていかないと、分からないし、成仏できないんだよ?」
「分かったよ、そうゆうことにしといてあげる。もう一回浮き輪持って泳ぐチャレンジしたい」
「私ももう一回泳ぎにいきたいし、いいよ!いこっか!!」
「ウェーイ!次こそはやってやんぜ!」
昼食を終えた凛ちゃんと何も食べれなかった俺はもう一度海にいく。
「あー、やっぱり冷たーい。さっきので慣れたと思ってたんだけど結局冷たく感じるんだね。」
「ガッハッハ!海が俺を待っている!今から行くぞ!見ていろ!」
浮き輪に捕まった俺は凛ちゃんに引かれて少し沖へ出る。波に揺られるだけでこんなに気持ちいいんだ、泳げたらどれだけ気持ちいいのか分かったもんじゃない。それだけで成仏するんじゃないか。そんなことを考えてぼけっとしていたら、浮き輪からスルッと抜けてしまった。
オボボボボ!俺は何とか浮かび上がろうともがく。もがく。でも浮けない。上がれない。俺は死の淵にいるのか?辺りは真っ暗だ。上を向けば陽の光が入る海面が見える。手を伸ばしても届かない。凛ちゃんが俺に手を差し伸べているのが見える。ははっ君がそんな必死に俺を助けようとするなんてらしくないな…。口を開いて何かを言ってるみたいだ。やめときなよ、水飲んじゃうよ。それに何も聞こえないよ。どんどん下へ沈んでいく。何も感じない。誰の気配もしない。死ぬってこういうことなのかな?一人って寂しいんだね。成仏ってこういうことなのかな。怖いな、寒いな、甘くみてたなぁ。もっと凛ちゃんといっしょにいたかったなぁ。あぁもう意識が持ちそうにない。プクプクプク俺は意識を失った。
どれくらいたったのだろう。俺は目が覚めた。死後の世界なのかと思ったけど、なにも変な感覚はなく、目の前で泣いている凛ちゃんがいた。ここは紛れもない現実世界だといえる。だがこれは架空の空間かもしれない。俺の思いが作り出した幻想かもしれない。そんなことを考えていてもキリがない。今自分がいる場所は本当にリアルなのか答えは出ない。だから俺はそんな思考を放棄して現状と向き合うことにした。あれからあまり時間はたっていないようだ。そこはさっきも見た海の近くにある更衣室だから。俺は彼女をおどろかせようと声をかける。
「君、どうしたの?大丈夫?」
こちらを見た凛ちゃんは驚きの表情を見せる。目が真っ赤になっていて、ずっと泣いていたのだと思う。
「や、柳なの?」
いつになくかよわい声で言う。
「うん、そうだよ。よく分からないんだけど、気がついたらここにいたよぉ。また成仏できなかったみたいだ。ハハハハ。それにいつも成仏しろしろって言ってるから喜んでいるのかと思ったけど、そんなに涙を流してくれるなんて…。僕はがんどうしだよぉ。フフッ。」
いつもみたいに照れ隠しをしたり、強く当たってくるのかと思ったけど凛ぬまらちゃんの行動は俺の予想を超えた。俺に抱きついてきた。考えもしなかったその行動に俺はされるがままだった。
「もう、すごい心配したんだからぁぁぁぁ。もう会えないのかと思っちゃったぁー。こんな別れ方やだよ!」
どうやら凛ちゃんは本当に悲しんでいてくれてたようだ。こうやって本心を聴けるのは嬉しいな。あ、あのちょっと待ってくれます?だんだん抱擁が強くなってきている気がするのは気のせいですか?え、感情に任せてるから力がコントロールできないですって?ちょまじヤバい。殺す気か、そんなに強く絞められたら、あぁもうヤバい。久しぶりだなこの感覚。どこか心地よい。あぁ。ガクッ!俺は気を失ったのか今度こそ死んだのか分からないが、意識が途絶えた。
「ほら、起きて」
俺は凛ちゃんに揺さぶられて目を覚ました。ん?俺は何があったんだ?そうだ!こいつに首を絞められたらんだ。コイツめ!
「それにしても柳どうしたの?急に気絶しちゃったけど、私に抱きつかれて嬉しかった?息してたからほっといたらちゃんと家まで着いてきたんだよ!」
「あれ?もう家なの?」
「そうだよ!」
お前に絞め殺されそうになったんだと言いたいところだけど、俺はこうして生きてることだし、凛ちゃんもあんなに悲しんでくれてたんだから、もうスルーしてあげよう。二人の友情はまた一段と強くなったってことでいいんだよな?
「あ、そうだ!一つ訂正させてくれ」
「何よ?」
「俺は断じて凛ちゃんに抱きつかれて嬉しかったわけじゃない。凛ちゃんの胸なにも感じれなかったもん。残念だなぁ」
「ああ!それは禁句なんだから!」
ゴン!俺は最近頭を打ちすぎて記憶が戻りそうだよ……。
こうして俺たちの夏休みは終わり季節は移り変わり紅葉が美しい秋になっていった。
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