幽霊の柳くんは成仏したい
柊 吉野
第1話
俺には何の記憶もない。ただ覚えていることは俺が柳ということだけだ。年齢も好きな食べ物も何も覚えてない。この状況は何だろう?まぁいっか、なんとかなるっしょ!
「キャァァァァァァァ!あんた誰よ!何でこんなとこいるのよ!」
昼寝ていたのであろう彼女は目が覚めて俺を見るなり突如奇声を上げた。まぁ仕方がないだろう。目の前に知らないやつがいるのだから。
「おい、ちょっと待て、その振り上げた拳を一旦下げるんだ。落ち着いてくれ。俺がおかしくなっちゃう」
「はぁ、何言ってんの、アンタ!知らない男がこんなか弱い女の子の部屋に勝手に入って来といてホント何言ってんの?」
「本当に何で俺もここにいるのか分からないんだ。もっと言えば俺は何者なのかも分からない」
「アンタ、さっきから何訳分かんないこと言ってんの?そんなの信用しないわ!さっさと出ていきなさいよぉ!」
彼女は男に腹パンを繰り出した。
「あぁ、そんなことされたら、あぁ、めっちゃ気持ちいい」
「「あれ!??」」
「ん?いつまで待ってもこないんだけどこれいつまで待てばいいの?え、もう目開けていいの?折角楽しみにしてたのに…。え、これってこうゆう焦らしプレイだったりする?」
「ちょっと、アンタこれどういうことよ。なにがどうなっているの?」
相手の女の子が戸惑っているので、俺は自分の体を見下ろす。
「えええええええええ!なんだこりゃぁぁぁぁぁ!俺の体どうなってんだぁぁぁ!」
「私が聞きたいわよぉ!」
「ちょっと落ち着いてくれ…。いったいこれはどういうことだ…」
「何言ってんの?一番落ち着いてないのアンタじゃないの?」
「何故俺は何も触れることが出来なくて、誰からも触れられないんだ……」
「私も初めて見たわ。これはいわゆる幽霊ってやつでしょ。本当にいたんだ」
「なんだと。幽霊とは、幽霊とはなんだ!人を勝手に幽霊呼ばわりは失礼じゃないか!」
「アンタ何急に真面目ぶってんの?さっき私が殴ろうとしたとき気持ちいいみたいな意味分かんないこと言ってたじゃん」
「気持ちいいと感じるんだから、仕方ないだろ⭐︎ところで先程の幽霊宣言を取り消してもらおうか。俺は人間なのだ!」
「何そんなにそこ気にすんの?あんたその体で何言ってんの?足元見てみなさい。足元。それはどう見ても人間じゃないでしょ。幽霊でしょ」
そう言われて、俺は足元を見る。
「ギャァァァァァァァァ!なんだごれーーーーー!これはどういうことだ、俺はどうなってしまったんだ。これじゃ本当に幽霊だ。まぁいっか」
「え、ええ、それだけ?あ、ま、まぁ、そういうことなんじゃないの?」
「いったい、俺が何をしたというのだ。これでは……」
「これでは?」
「もう二度と腹パンを受けられない…」
「はぁぁぁぁ!アンタ本気で言ってんの?幽霊になってショックなのそれって……………。キモ」
「はぁぁぁぁ、あぁぁぁぁゾクゾクするぅ。その刺すような目線、冷たい声色から発せられる言葉、たまらないぃ。そうか、それがあったのか!?身体では何も感じれなくても、心でなら感じれるんだ!ならば俺はまだ死んでないぞ!俺にはまだ生きる意味がある!」
「はぁ、こりゃだめだ。正真正銘のバカだ」
「っていうか、アンタいつまでここにいるのよ!いい加減出て行きなさいよ!」
「待て、一つお願いがある。もうそろそろアンタを変えてくれないだろうか?俺にはれっきとした柳という名前があるのだ。まぁ、それしか覚えてないんだけど…」
「はぁ、アンタって何か、ホントバカな感じがプンプンするわね。よく何も覚えてないのにそんな元気でいれるわね。まぁいい、名前くらいならそうよんであげる。柳」
「おお、そうしてくれ、ありがたい。ところで君の名前も聞きたいのだが、教えてはくれないか?」
「嫌よ。そんなことより早く出て行って!こんな男が私の部屋にいるのが嫌!」
「大丈夫、君には興味ないから」
「「……………………………」」
「何それ!そんな本気で言うこと?なんかギャグに柳にそんなこと言われたらショックなんですけど、悲しいんですけど!べつに私、胸も小さいわけじゃないし、顔もそこそこいけてると思うんだけど…。っ!!ってそんなことより早く出て行って!」
「待て待て!そんな急に押さないでくれよ。君は何独り言言って恥ずかしがってるんだい?」
「な、なんでもいいじゃない!」
グーグー、彼女は俺のことを押して、部屋からから出そうとする。
「「え!????」」
「てあれ?何で君、俺に触れてんの?」
「え、なんで?あれ?分かんない」
彼女の部屋から出ようとすると見えない壁に阻まれて出ることができなかった。
「ちょっと、これどういうことよ!もしかしてこの部屋から出れないの?」
「いや、全然俺もこの状況が理解できないんだけど、これどうなってんのぉぉ?」
ふと足元を見る。俺に足はなく半透明の不思議なひらひらしたものがついているのだが、それが先程は普通だったのに、彼女に繋がっているように見える。彼女もそのことに気づいたようだった。そして彼女は言う。
「え、もしかして触れるようになったのも、部屋から出れないのもこれのせい?まさか!………。ちょっとついてこないでよ。外、出てくる」
彼女は部屋を出て行く。すると何故か俺は動く意識をしていないのに、彼女が向かった方向に引っ張られるように移動していく。外に出た。急に太陽に当てられて眩しさにびっくりした。だけど体に何の異常もなさそうだった。よかった。今までずっと目の前にいた彼女と少し離れている。8メートルくらいだろうか。彼女は後ろを振り返らないので俺がついてきていることに気づいていない。彼女との距離が10mくらいになったとき急に飛んだような感覚になって気がつくと彼女の目の前にいた。
「へ?」
「へ?って、なんであんたがいるのよ!」
「いや別についていこうと思ったわけじゃないよ。体が引っ張られたんだ。まるできみについていくかのように」
すると彼女はまた歩き出した。俺はそれにつられて動き出す。彼女もこちらを見てそれに気づいたのか、こちらを後ろ目で見ながら走り出す。二人の距離が10メートルくらいに差し掛かったときまた変化が起こった。飛ぶような感覚とともに気づけば彼女の目の前にいた。このとき二人ともこのことを理解した。どちらもとても焦っていただろう。状況を理解して俺は問う。
「あの、名前教えてくれる?」
「え、あっ、はい。凛です」
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