メカ ザット ユーズ ウェポンズ

まだ2話あるよ!


★★★★★★★★★★★★


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 我々の残りは二機。

 あの後少数のグライドが地中から出てきて奇襲を受けた。初手で二機が破壊。三機で殲滅する余裕はなく辛うじて脱出には成功したが……


『い、いやだ!死にたくない!俺はまだ……彼女に……』


 徐々に粗くなっていく無線だが、その奥からは絶叫とも呼べる懇願と悲鳴があった。


『誰か、助けて、死にたくっ───』


 ついに無線の範囲外に出た。最後に見えたのはグライドに追いつかれ、その質量で地面に組み敷かれ、大型種に装甲を砕かれ中型種と小型種にあちこちを噛み砕かれていく戦闘機の姿だった。


「副長、我々だけでも生き残るぞ」


『はい。何としても先程の通信を伝えなければなりません』


 若い青年の副長はどこか決意した声音で応える。

 その通信は奇襲を受ける直前。本部から衛星を無理やり介した通信が来ていた。

 

 海岸線まで残り数km。ここからは速度を上げて大型種の攻撃に備えなければならない。さらに先程のグライドの集団。どのルートを通ったのか姿が見えないが……


『隊長、艦隊との連絡が取れません』


「なに?」


『返答がありません。そもそも通信を受けているのかどうか……』


 なるほど……しかしこの状況では無理に艦隊を目指すというのは愚策か。それにもはやその艦隊が存在していないとするならば?

 

「副長、予定変更だ。ここから海岸線を東進すれば同盟軍の基地があったはずだが?」


『はい。30km先に。補給用基地として仮設ではありますが、連絡も取れます』


「よし、ならばそちらへ向かう。副長、連絡を頼む。艦隊への連絡は私が受け持とう」


『了解』


 その不安を確信に変えるべく、衛星を介した映像通信に切り替える。数秒のラグがあるが戦況を見るには特に問題ない。

 が、そこに映ったのは何も無い大海原。座標を間違えたか?


『隊長、連絡取れました。そちらの基地に戦闘機一機が向かう。受け入れ許可する、と』


「うむ……うん?どういうことだ」


 何か含んだ様子の声音に不信感を抱く。


『ははは……実は先程までの戦いでスラスターユニットがイカれてしまいまして。もう動くのがやっとなんです。ですけど、さすがにガタが来ちゃいました。ここからは隊長一人で行ってください。後を追う奴らは食い止めますんで』


「副長?……無茶を言うな!あと数十kmだ。それだけでも何とか……」


『無理です。相手の基地も余裕が無い。隊長一人でも生き残ってくれれば我々は良いんです。そもそもこの部隊は隊長がアブれてた俺たちを集めて使えるようにしてくれた部隊だ。こんな俺たちでも家族を守れているんだって。だから副長じゃなくて死んでいった全員の代表でここで貴女を守らせてください』


 レーダーを見ると少なくはないグライドの集団が海岸へ向けて進行してきていた。


『早く、巻き込む訳にはいきません』


「くっ……分かった。副長、いやクロン・ベルト少尉。貴官は勇敢に戦い、国の盾として戦場で散った。しかしその命は我ら戦士の英霊として護国の礎となるだろう……副長、二階級特進だ。言い残すことはあるか?」


『俺には家族もいませんからね……ああそうだ。基地近くの東街のネコチャルって店の酒、ボトルであるんですがほとんど飲まずに終わっちゃいました。隊長、飲んでください』


「……わかった。健闘を祈る」


 それが最後の通信だった。

 隊長機は東に向けてスラスターを全力起動しグライドの群れに呑み込まれないよう高速で移動する。それに対し副長機は静かにそこに佇み、既に弾切れを起こしている機関銃をパージし、背部のウェポンラックに懸架されている戦闘機専用の長剣を肩越しに展開、前腕部の装甲が変形し右手のマニピュレータと長剣が直接接続し、装甲がそれをロックする。


「そうです、隊長。言い残すことと言えば、俺……いえ隊の皆は隊長が大好きだったんです。正直俺は貴女の夫になりたいと思ったこともありました……」


 とうとう視界にグライドの上げる土煙が入る。


「ですけど、それも叶わない。ただ叶わないなら向こうに行っても皆に笑われるだけで済みます。殴られんのは嫌ですからね」


 巨大なワームの大軍が不快な音を立ててこちらへと突進してくる。


「だから、これから貴女が生き延びた先……もしも数十年も後に貴女の隣に誰かいるのであれば、彼か彼女かはわかりませんがそいつに伝えたい」


 壊れたスラスターとブースターを用いて無理やり機体を動かし、長剣を振るう。赤い体液が飛び散り機体を濡らしていく。


「絶対に隊長を、ミヤさんを幸せにしろっ!それは俺たち、過去からの命令だ!」


 振るわれた長剣は一体の大型種の頭部を撥ね飛ばし、同時に大型種の牙のような部位に機体の腹部は貫かれる。


「まだだっ!」


 機体を貫かれながらも長剣を手放すことはなく、動かせる部分だけで剣を振るう。同時にコックピット内では椅子の下のレバーが引かれていた。

 そのレバーには彼らの言語でとある文言が、書かれていた。それをリュウがよく知る言語に直すとしよう。すると、こう書く。「Self-destruct switch」と。


「ジェネレータ出力……臨界点……くくっ、犬死じゃねえ。これは、誉ある死だ!」


 計器が振り切り、モニターにはいくつものアラートが表示される。

 徐々にコックピット内の温度が上がり額に汗が浮かぶ。

 甲高い吸気音とは別に何かが擦れるような金属音が聞こえ始め、戦闘とは別の振動が襲う。


「隊長、お世話になりました。みんな、今行く」




 その時、とある星系のとある惑星の名も無き戦場で青白い光と共に海岸線の一部が大きく抉れる程の爆発が起きたのだった。




「臨界爆発……」


 背後で起きた爆発をレーダーは察知していた。

 アークチェンジャー・ジェネレータの粒子加速のエネルギー均衡をわざと崩すことによる爆発はリュウに言わせるのならば核爆発と言っただろう。


 彼女は一瞬目を閉じて副長に感謝とその冥福を祈る。


「そうか……副長、感謝する。……基地までの距離は残り10km、ただ負荷を掛けすぎたか」


 スラスターユニットの片方に異常が起きていた。大電力を用いたモーターによるジェットエンジン構造が基本となっているスラスターユニットの構造はそこまで複雑な訳では無く、戦場でも耐えられるよう作られている。ただ、この戦場での長時間の高負荷はそれさえも上回ってしまった。

 幸いなのは片方のみということ。そしてブースターはまだ通常駆動が可能だということ。スラスターユニットはアークチェンジャー・ジェネレータによる粒子変換発電の副産物めある加速粒子の放出による反作用での加速機能も搭載されているから片肺でも高速の戦闘機動で無ければ飛行することは出来る。


 ただ、片肺ということは一つに相当の負荷が掛かるということ。損耗状態を確認出来ないので、残るスラスターユニットがいつ壊れるかわからなくなってしまったのだ。

 一時的にでも高機動状態が発揮出来るスラスターユニットは失う訳にもいかず、万一のために温存が必要だ。


「艦隊とも連絡は付かない……グライドに襲われて壊滅したか」


 グライドが海を渡るというのはかなり初期から知られていた事実だ。そして食料を求めて襲ったのなら連絡が付かない理由が出来る。

 粒子金属煙幕、原料は金属だ。奴らを誘導するために使われるが、使用されていない状態ならばただの餌にしかならない。そういうことだ。


「はあ、はあ、はあ……」


 機体の調子を映すモニターは大半が赤くなり網膜投影のディスプレイにも様々なアラートが表示される。

 スラスターユニットを万一のために温存するため機体は現在歩行状態。各部のアクチュエータを鳴らしながら砂と土の混ざる柔らかい地面をゆっくりと進んでいく。

 体高20m近くもある機体だから一歩は大きいが、歩行を前提としない戦闘機の歩みは遅い。そもそも戦闘機の形状は身体至高論によるある種の強迫観念において製造されているが、実は様々な環境でも自分たちと同じように動けるように、がコンセプトにある。だがそれが活かされているのは主に腕部のみだ。

 特に武器の扱い。前腕部の機構で武器の固定はされるが、マニピュレータによる保持が必要だ。また、武器の変更などでも五指のある手の形状は一時的保持の為に役に立つ。

 だが現在そのマニピュレータさえも小破または中破状態。満足には動かせない。


 だが、神は微笑むことも無く先の獣に足らずさらに試練を課す。



「■■■■■■■!」


「ま……さか……」


 巨大なワームのような見た目でありながら顎のある部分には巨大な牙が生え、それを振り回しながらこちらへと突進するその姿。

 もしもリュウがいたのならばこう言っただろう。まるでマンモスのようだ、と。


 そしてそれは戦場で出会ったのならば一対一は絶対に避けるべき、さらにこちらが手負いの状態ならば死を選べと言われるそれは……


「大型種破城級……」


 その顎が変形し巨大な牙を得たそれは恐るべき突進能力でこちらを串刺しにする。

 破城級の名の通りそれは要塞の壁をも易々と貫き、その突進で全てを均す。モ○ラの幼体もビックリな破壊をもたらすのだ。


「……」


 銃器はほとんど弾切れのため中に弾が僅かに残っている一つを除いて全て放棄、残る武装は背部に懸架される近接戦用長剣。

 グライドとの基本的戦闘状況である密集戦では銃器と共に有効とされる武装で、弾切れの心配がないという素晴らしい武装、またの名を産廃だ。

 使用者は隊の中だけでなく軍でも少なかった。長剣一本分弾倉などの所持数が減るわけなのだから。

 だが彼女はそれらの言葉を無視し続けてきたことにとても感謝をしていた。


「……はぁはぁ、右腕部、武装接続、機構、起動」


 長時間の戦闘と緊張状態による疲労で朦朧とする思考を奮い立たせ、知識としてしか持っていなかった音声操作機能を使い背部の長剣を装備する。


「たたが大型種一体、ここで切り伏せてくれる!」


 残るスラスターユニットを全力で動かし、機体を動かす………………








「今のは……」


 目を開け、横を見ると時計には朝の四時。いつも起きる時間まであと一時間半もある。


「またこの時の夢か……」


 昨日も似たような夢を見たせいであまり眠れていなかったのだが、今日もこんな時間に起きてしまった。

 昨日の続きの夢だ。いや、少しだけ時間は飛んでいたか。でも自分の記憶だ。全て鮮明に覚えている。かなり粗くも何を言っていたかは不明だが、通信で聞こえていた副長の声も。


 ああ、目が冴えてしまった。

 それにあの後は……そうだ、あの後私はスラスターユニット、ブースター、センサー類をいくつか、そして左腕丸ごとを破損しながらも辛うじて破城級に勝利を収めた。そしてその戦闘を確認していた基地の戦闘機がこちらに来て、私を保護した……というわけだ。


 破城級なんて久しぶりに思い出した。彼には言ってないが、グライドには体格による種類分けの他に形状による階級分けが存在している。階級分けが始まるのは大型種から上だけだ。大型種には破城級、狙撃級、重狙撃級、破砕級、通常級が存在する。それぞれ突撃能力、遠距離攻撃能力、近接破壊能力に特化している。そしてさらに超大型種が存在していると言うが、私は見たことがない。が、確実に今もどこかの部隊を壊滅させているのだろう。


 はあ、私はもう戦場からは離れたのだ。記憶は記憶だ。捨てることは出来ないが、一時忘れるため、もう一眠りするとしよう……


 ふふっ、傭兵か。彼にグライドについて話した以上彼もどこかで遭遇するだろう。自由に宇宙を行き好きなものを見聞きする。羨ましいものだ。軍にいた私には出来なかった……遅くは無いのだろうか。はあ、眠い……






 はい、俺です。現在戦闘機のコックピットの中だ。本物のな。そうそう、シミュレータはもう卒業して昨日初めて本物に乗った。バランサーが凄いのか、昨日は歩行訓練とスラスターユニットの使い方だったけど転ばなかった。操縦系統もそこまで難しい訳じゃ無くて本当にそうだけで動く。手元の操縦桿は飛行時の姿勢制御だったり武装使用時の操作に使うそうだ。シミュレータではただの支えだったんだけど。ミヤさんの方針で武装の訓練は実機で行うというものらしい。


『初めての戦闘機はどうだい?』


「いいですね、なかなか快適です」


 戦闘機のコックピットは昔イベントで見た戦闘ヘリのコックピット並に狭い。が、椅子とかはデカいマッサージチェアにキャノピーをくっ付けた感じだ。その内側に色々モニターなりあって情報が映されている。

 操縦桿は肘掛に当たる部分に少し内側に傾けて付けられている。そのため持ちやすい。着ているのがピッチリしたパイロットスーツとヘルメットというのもあるから体感的には少し窮屈だが、実際はベルトなんかを付けても案外ゆったりと快適な座り心地だ。狭いが、身体が常にどこかぶつかるほど窮屈では無いってことだな。


 俺が乗っているのは軍の一世代前の訓練機。シミュレータのモデルになった機体とは違う機体だが、操作性などにはほとんど違いはない。

 機体の見た目?足はそれなりに太いな。あと長い。見た目は人型だから当然なのだけど。人型と一番違うのは腰の部分。かなりくびれた形状になっている。肩には装甲などが装着されてかなりゴツイ。それに頭部は肩や胴体に比べて小さい。だけどこの形状は戦闘機の基本的な構造として様々な機体で共通している。軽量級、中量級、重量級と三種に分かれているが大きく変わることは無いそうだ。


『よし、なら戦闘機を動かす前に昨日の復習だ。スラスターユニットとは何かはこの前聞いたが、スラスターユニットとブースターユニットの駆動方式は何か。昨日教えたし知識の中にもあるだろう?』


 ミヤさんが近くの建物から無線で指示を出してくれる。シミュレータとは違っているから通信関係のウィンドウにはミヤさんのコールサインであるライオンの文字が。軍にいた頃から使っているそうだが、本人曰く変えるのが面倒なのだとか。


「スラスターユニットの駆動方式は二つ。一つはアークチェンジャー・ジェネレータでの粒子反応による大出力発電。それによりモーターを回すタイプのジェットエンジンを使用。もう一つは粒子反応によって荷電状態となった粒子に余剰電力を当て、シンクロトロンの要領で加速し外部に高速で放出。放出時の反作用で爆発的に前に進む。ブースターはそのまま直結……これでどうですか?」


『パーフェクトだ。では改めて教える必要も無し……ならば今日の訓練だな。基礎訓練は実質今日で最後。では始めよう。今日は武装訓練。最初に訓練で使用するのは30mm突撃機関砲。操作はわかるだろう?』


「はい」


 30mm突撃機関砲。戦闘機の基本兵装であり、どんな機体でも扱えるようになっている。戦闘機用の銃器にも様々なバリエーションがあるが、この30mm突撃機関砲はその最小サイズである。


 俺は思考制御ではなくて手元の操縦桿で武装を装備する。現在30mm突撃機関砲、通称30mmは機体背部にあるウェポンラックに懸架された状態だ。ここから武装を外して手元に持ってくる方法は二つ。一つは肩越しに武装を受け取る方法。もう一つは脇の下を通して受け取る方法だ。

 今回は肩越しに受け取る。操縦桿に付けられたボタンを操作するだけで自動で背部のウェポンラックから指定した銃器が外され、専用のアームで肩越しに持ち手が掴めるようになる。

 それを操縦桿で右手を持ち上げて五指を再現したマニピュレータで受け取り、肘を曲げて銃口を前に向けた待機姿勢へ移行する。その最中に前腕部の装甲の一部と銃器本体に付けられたパーツが移動してそれぞれが合体。武装の本来の保持方法である前腕部のロック機構がなこれで成された。マニピュレータは一時的な物というわけだ。


『保持が出来たな。30mmは戦闘機ならば片手でも扱えるように反動制御などが設計なんかに組み込まれているが、今日は基本的な持ち方、左手を銃器の下に添える持ち方だ。図は頭の中に叩き込まれているはずだ』


 ミヤさんの声を聴きながら機体を左足を前にした半身に構え、指定された通りの動きをする。


『では、機体が動いたことでちょうど銃口の先には的があるはずだ。それを撃ってみてくれ』


 銃器の操作は簡単だ。思考制御で視界に見えている的に視線を向ければコンピュータが勝手にそれに向けて狙いをつけてくれる。後は操縦桿の引き金を引くだけだ。


 激しい音を立てて30mmに装填されていた模擬弾がホログラムで形作られた的を突き抜ける。

 今使っている銃器は型落ちで装填数は確か通常弾で1600発だったか。銃身に対して平行に差し込むマガジンと内部の機構、弾の形状などでそれだけの弾数を実現しているそうだ。


 他にも操縦桿で腕自体を動かして狙いを変える方法もあってそれもミヤさんの指示でやった。

 え、他の武装?ミサイルなんかの武装も基本は30mmと同じ操作みたいだからな。的撃って終わりだ。

 さて次は長剣なんだけど問題はこっち。


『背部の長剣を装備できたな?』


「はい、でも動かし方なんてわかりませんよ?」


 俺は銃はともかく剣なんて握ったことは無い。剣道の授業やったことを薄ら覚えているくらいだ。


 機体は背部のウェポンラックに銃器を戻して入れ替わるように十m近い長剣を手にしていた。前腕部でのロックはわからないが、ロボットが本物の剣を持つというなんか不思議な光景を俺は創り出していた。


『簡単だ。構えて振り下ろす。基本はそれでいい。後はコンピュータが補助してくれる』


 頭にぶち込まれた内容には剣は両手で持ち、前に構えるとある。武装などが両手で持つことができるように胸部装甲は横に広くはないのだと。また、肩の部分の関節の可動域はかなり広くなっている。


 イメージは剣道と同じだ。そんな感じで上に持ち上げ、振り下ろしてみる。

 ゴウという風を斬る音と微かな振動が伝わってくる。


『体感じゃ分かりにくいだろうけどちゃんと剣は振り下ろされたよ。次は片手で振ってみるといい。そちらの方がわかりやすいだろう』


 そう言われ、左手を離して右手だけで振り上げて斬り下ろす。

 同じように風を斬る音と微かな振動は伝わってきたが、明らかにさっきと違ったのは重心だ。片側に長剣という重量物が集中していて、さらにそれを振り下ろしたのだから転びこそしなくともバランスが多少崩れかけるのは仕方の無いことだろう。


『片手で振ったからバランスが崩れるのは仕方ないとわかるだろう?でも動いていれば案外気になることは無い。その場にとどまっているから気になるだけだ。それじゃあ時間もちょうどいいし、ここで昼食にしよう。機体は午後も使うからそのままで大丈夫だ』


「あ、それならミヤさん。一つ聞いても?」


『何か気になることがあったか?』


「操作関連じゃないんですけどね。向こうに並んでる建物……戦闘機入れてるハンガーですよね。他は全部開いてるのになんで三番だけ閉まってるんで?」


 昨日もそこ以外は全て開いていた。十数あるハンガーだが、そこ以外は全て訓練機が収められていて今朝もそこで搭乗した。


『三番ハンガーか……なんなのだろうな。もしかしたらとんでもないのが入っているかもしれないぞ?さてと、さっきも言ったように午後も訓練があるからな。早めに昼食食べておいてな』


 その声に俺は一気に脱力する。シミュレータと違ってかなり精神力を使うのだ。大きく息を吐いて背にもたれ掛かるのも無理はないだろう。


 訓練機だからミヤさんが外部から操作することが出来る。彼女の操作でコックピット前の隔壁が開いて外の光が差し込んでくる。同時にキャノピー部分がスライドして外に出れるようになったので俺はそのまま外に出て、慣れない縄ばしごでミヤさんと合流するのだった。




「そういえばリュウ、君は傭兵と言っていたね。もうどこか戦場には行っているのかい?私と同年代に見えるんだが」


 俺とミヤさんはこの前の夜と同じようにテラスで昼食を摂っていた。俺はカレーもどき、ミヤさんはうどんみたいなナニか。


「俺はミヤさんの年齢がいくつか知らないから何とも言えませんがね。でも戦場にはまだ出ていない新人です。戦場と呼べるのもコロニーからの脱出ですし、そこで船も中破してしまいましたからね。ちょうど今新たに組み立て途中なんです」


「新人ってことはクルーなんかも居ないんじゃないか?」


「コロニー脱出前に知り合った二人を加えて三人だけです。一人は医官、一人はまだ勉強中です。傭兵として船を扱う以前に船の運用には相当少ない。どこかでクルーを斡旋してもらおうかとおもってるんですけどね」


 具体的には機関士、レーダー士、通信士の三種。戦闘関連はまだアステールに任せておいて大丈夫だ。


「ならば船舶員養成学校がお勧めだ。元は軍の入隊の基礎教育機関として設立されたが、今では船舶の操縦などに関する全般を学べる学校になっている。大半が軍に入ると聞くが、もしかしたらスカウトくらい出来るんじゃないか?」


「なるほど、学生とかですか……確かに素性が知れてるので安心感はありますね。ミヤさん、ありがとうございます」


「いやいや、私も記憶は不確かだ。詳細は調べておくれ。それでもう一つ聞きたかったんだが、戦闘機の免許を取ったらどうするんだ?知っての通り一人で戦場を往くのは危険だぞ?」


「元々、緊急脱出艇としての役割で戦闘機を購入しようとしているんです。戦闘はメインじゃないんですけどね。でも船には格納庫もあるし戦闘機パイロットもクルーに加える候補にしてもいいな……」


 戦闘機が母艦などから離れて行動する時はツーマンセル以上が基本だ。理由は簡単。双方の安全確保のため。仮に片方の機体に異常があっても、もう片方の機体で救助などが可能という利点もある。当然ながら戦力的な意味合いもあるが。


「でも戦闘機パイロットはスカウトしようにもな……いやそのための傭兵組合か?確かそんなこともやってるみたいにどっかで見たし」


 どうだったろう。記憶があやふやだ。クルーとして迎えるのだから素性がしっかりとしているのは重要だ。仮にしっかりしていなくともなんらかの証拠になりうるものが欲しい。


 あと出来れば男のクルーが欲しいな。男一人に女ばかりというのも夢あっていいが、さすがに精神力が持たん。まあ男はオオカミと言うし、メーデンたちの安全を守るならば俺の精神力を代償にしても構わないんだが。

となると迎えるのはメーデンたちに合わせて同性の方が色々と都合がいいのか?素性が知れて、彼女たちにも気楽に接することが可能、相性が良ければ船の中は密室だが安全性の向上が見込める……あれ、野郎を入れる意味無くね?


「……い、リュウ、聞こえているか?」


「あ、ミヤさん。やっぱり船には野郎は入れない方がいいですね」


「あ、うん?話が見えないが……なるほど、そういう事か。確かに君の船のクルー構成なら男は入れない方がいいかもしれない。安全面もあるが、クルー間の仲というのがある。聞いた感じ君たち三人はなかなか良い仲のようだ。そこに見知らぬ男を入れてみろ。場合によっては崩壊しかねない。解散ならともかく、君が殺されかねないからな。元に数年前に似たような事件がかなり大きな傭兵集団で起きた」


 おおう……それは勘弁。

 知らんやつ入れて後ろから刺されるのは勘弁だ。やっぱりハーレムって理にかなってるのかな。と、なると野郎はさらに要らないんだよな……百合バンザイ。


「船降りるのが最適解か……?」


「り、リュウ。それ以上はやめておけ」


 傍からみたらどんどん思考のドツボにハマっているように見えてしまうのか、ミヤさんが少し焦った様子で止めに来る。


「多分わかっているだろうけど、相性のいいクルーというのは見つけるのは容易くない。時間を掛けるといいさ」


「そうですね。個人的にはとても優秀な戦闘機パイロットなミヤさんをスカウトしたいところですが」


「そ、それは……考えておこう……」


 あれぇ?

 ミヤさん、耳まで真っ赤にしながらすぐに立ち上がって食器を返しに行ってしまった。


 あ、戻ってきた。


「午後の訓練もすぐに始める、遅れるなよ」


 へいへい、あんな感じのミヤさん見れただけで満足しとこうか。

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