アイ ニュー アンド ノウレッジ
・俺
とりあえず買い物は昨日終えた。
携行武具、衣服、食料品、家電などなど。
他にもアステールが注文してくれていた浄水器といった様々な機械が今日はずっと届いている。
船の中での生活の快適さを追求した結果、とうとう金が100万を切ったが、まあなんとかなるだろう。傭兵の収入なんかを調べたら俺がこのコロニーに到着する前に倒した宙賊の討伐などで結構稼げるようなのだ。それに今の俺は身分証とかも持っているから堂々と倒すことが出来るし、売ることも出来る。それにこのコロニーが位置する星系にもやはり宙賊は存在していて、いい狩場であるとか。
さて、今日は休みだ。オッサンは既に装甲板なんかの整備を始めているが、俺とメーデンは部屋でゴロゴロする。メーデンなんか疲れて、今は七時くらいなのだけどまだぐっすりだ。
昨日は買い物の後、身体の清潔を保つためのシートで体を拭き、就寝となった。まだ風呂などの設備が届いてないからな。仕方ない。
俺はその後アステールがこのコロニーから得た情報の確認を行い、必要なもの、そうでないものの仕分けをしていた。さすがにこればかりは俺が見る必要があった。
ここからは俺が得た情報の総まとめといこう。
〈現在位置〉
・暫定的に西暦換算で3117年。日付は確証が無いので割愛。
・位置はアンドロメダ銀河内部ハグスター星系ハグスターγとハグスターΔ中間地点スオームコロニー。
・目覚めたクラル星系は隣の星系であり、この二つの星系は宇宙的に見てもかなり接近している珍しい星系である。また現在のハグスター星系も隣の人が住む星系とはかなり距離が近く、ワープホールを通しても数分で着く距離だとか。ほかのワープホールだと丸一日とか掛かったりするらしい。
・スオームコロニーの所属は通称:連邦、正式名プラム連邦の辺境に位置する貿易コロニーである。外国に対しての玄関口であり、宙賊討伐の最前線ともなるため栄えている。
〈現状〉
・俺の持つ記憶通りだと名前は殻生龍二。ここではリュウと名乗っている。小さな商社(※ここに書くのは俺として避けたいのでこう表記する)勤めで一人暮らしをしていた。家族構成は両親と弟が一人、近所に従姉妹の双子が住んでおり交流があった。おそらく全員死亡している。……いや、従姉妹に関してはわからない。あいつらは……
・大きな仕事の連続による過労で倒れ、入院していた2040年7月27日を最後に記憶が無い。理由として特事法によるコールドスリープの強制施術によるもの。特事法が何を指すのかは不明。
・地球環境において、俺の凍結100年後に第3次世界大戦を避けるべく移民計画が発動され、コールドスリープ状態の俺を含み宇宙へ。
・数百年掛け移動を続けた移民船団はブラックホールに飲まれ、船団の半数を失い、また生き残った船も損傷によりコールドスリープ患者は外へ放出。
・以後割愛。300メートル駆逐級宇宙船グウィバーの総合制御AIアステールの手により俺は復活。グウィバーの艦長ポジションになる。
・また、宇宙空間を漂流するコールドスリープポッドをログを含めた情報収集目的で回収。内部の生命体は生存。アステールの手により緊急解凍され、名称をメーデンとする。
・現在の身体状況としてG型人類とされるものに変化。なお、これは現宇宙世界の生命体に普遍するものらしくある種の身体強化と言えるだろう。メーデンも同様にデフォルトでG型人類に分類される身体構造を有していた。
〈宇宙世界〉
・このコロニーに滞在している現在、その現代を示す単語が存在しないため俺のいる現在を宇宙世界、そして本庁・コールドスリープ対応部所属医官アンジュの発言より、かつての地球を含む時代を旧世紀と呼称する。
・大まかに連邦、帝国、小国群と分かれている。しかし、銀河そのものを有するほどの巨大国家は無く今なお未開拓地域と呼ばれる地域、そして宙賊と呼ばれる無法者が蔓延っている。しかし、他銀河への移動は可能で、飛び地のように領地が存在していることもある。
・宙賊と言っても、赤い服の漢のような感じではなくて、どちらかと言えばヒャッハーが近い。主に開拓事業などで失敗した傭兵などがなる事が多いらしい。旧世紀での海賊行為に近いことを行っており、討伐または護衛としての仕事がある。
・少なくともアンドロメダ銀河以外にも生命体は存在しており、隣接する銀河などでの国家なども確認されている。しかし、その他銀河国家の発見に宙賊が使えるため、完全殲滅は問題がある。
・宇宙世界における職として代表的なのが俺も所属する傭兵である。しかしこの傭兵という名は過去のものから引き継いだものであって、現在の傭兵の仕事は多岐にわたる。
・軍や国家そのものから金を貰い戦に参加する文字通りの傭兵から、宙賊のみを専門に戦う傭兵、戦闘はするものの護衛に特化する傭兵、辺境のさらに先、未開拓星系などの深宇宙を専門に探索する傭兵などだ。
・また、深宇宙などでしか観測された例が無いが、宇宙生物と呼ばれる宇宙空間でも生存している文明を持たない生命体が存在しているとの話もあるので、探索を専門とする傭兵も戦闘技術は必要と言えるだろう。
・そもそも傭兵の役割の中には国家がすべきものまで存在している。深宇宙探索や宙賊討伐など国家プロジェクトになりうるものだ。しかし、国家としては下手に手を出せないものらしい。いや、語弊があった。宙賊討伐などは時折軍が傭兵を招集し、大規模討伐を行っている。
・深宇宙探索についてだが、これは万が一の他文明接触の可能性、そして自国の兵の喪失を避けるためである。まず前者は未開拓地域と言っても要は未探索、前人未踏の地というわけである。しかし、多くの知的生命体が存在する現在、場合によっては連邦や帝国など宇宙国家と呼ばれる者たちと一切接触していない文明が存在している可能性が十分にあり、それは敵対または領土侵犯となりうる。国家としては避けたい出来事のため、切り捨てることが可能な傭兵を用いていると考えられる。
・軍だが、慢性的な人員不足もそうだが何より国家としての範囲が広く、パトロールだけでも相当の人数を要する。そしてさらに帝国などの他国家への警戒などの正規軍も含めると他に人手は割けず、探査などに兵を消費することは出来ない。……と取って付けたような理由だが先程の深宇宙探索と合わせると納得出来る理由になってしまう。
・傭兵の護衛対象である商人は俗に大商人と呼ばれる者から小さな行商人レベルの者まで居る。船を持ち、星を渡り、物を売って生活出来ればそれは商人なんだとか。
・オッサンことジャン=バルドーから聞いた要塞級宇宙船を有する大商人も居るそうで、富める者は居るってことだな。
〈艦船〉
・前提として、俺が知っている地球では宇宙船と呼べるのはほとんど使用されていない。さらになんでいきなり艦船?と思うかもしれないが、これがなかなか深い内容だった。
・宇宙船の大きさは基本的に100メートル以上だ。まあ簡単に考えてもわかるが、宇宙を旅するのにたった数日で目的地に辿り着けることなど数少ない。いくらワープを用いたとて最低でも十日は掛かるのだ。さらに一隻につき平均して十から二十人。さて必要な食料と飲料水、さらに部屋などの各種設備を揃えたらどれだけの大きさになるかってことだな。ほかにも倉庫や宇宙用のエンジンなんか含めると最低でも100メートルは必要なのだ。ただし、例外もある。
・宇宙船は軍属、非軍属に関わらず主に駆逐級、軽巡級、重巡級、戦艦級、要塞級に分類される。
101〜300メートルまでが駆逐級、301〜500メートルまでが軽巡級、501〜700メートルまでが重巡級、701メートルより上が戦艦級となり、要塞級は明確な基準は無い。例として、豪華客船と呼ばれる宇宙船は戦艦級に
分類されることが多いらしい。
・100メートル以下の船も存在はしており、コロニー付近でのタグボートのような扱いをする小型船や、艦載機のように扱う小型船もある。しかし、とある事情から艦載機としての小型船は少ない。
・さらに100メートル以下の船を軽量船舶、駆逐級・軽巡級の船を中量船舶、重巡級・戦艦級・要塞級を重量船舶と分類することもある。
・宇宙船の殆どは武装を有し、少なくなくとも小口径のレーザー砲は搭載している。しかし、傭兵の駆る宇宙船の主砲として扱われるのは陽電子砲、つまり粒子を用いた砲である。
・陽電子砲は俺は理屈に関してはよくわからない。ただエンジンから直接エネルギーを抽出し、発射しているそうだ。プロセスとしてはエンジンから抽出したエネルギーを砲身そのものを用いて収束、同時にどの方向へ放つかの指向性を与える。その後の操作で指向性を与えた状態でエネルギーを解放、それにより主砲の発射となる。このように陽電子砲の発射にも俺のよく知る戦艦と同じように砲身が必要なのだ。
・主砲である陽電子砲の収束には磁力が用いられ、そのために砲身が必要である。同時に一方向へ放出方向を指定することで指向性も与えることに成功。さらに砲としては必要な口径だが、これは一度にどれだけのエネルギーを収束出来るかということに関わるらしい。ちなみにレーザー砲にも口径というのは重要で、レーザー使用の際のレンズ径のことであり、威力に関わるのだとか。
・オッサンが前に言っていた要塞級に搭載されている巨大な砲はおそらくこの主砲をかなり巨大化したものだろう。軍属の戦艦級にも同様の物が見られ、波○砲みたいなことになっている。宇宙版大艦巨砲主義とでも言えばいいか。
・主砲が陽電子砲であるようにエンジンも粒子系のものが広く使用されている。なんて粒子だったかは忘れたが、宇宙空間にほぼ無限に存在している粒子を取り込み、エンジン内で加速させ後部に放出すれば推進力として。また加速させ主砲砲身内部に収束し放出すれば陽電子砲として使用可能。加速の方法としては粒子加速器、シンクロトロンと呼ばれるそうな……アステールにも説明されたけどよくわからん。もはや宇宙世界独自の技術と考えた方が良さそうだ。そもそもどんな粒子か知らないし。
・さらにこの主砲とされる陽電子砲にも新型が発売され、長い砲身を必要としないタイプがあった。主砲の根元に凹レンズのようなものが設置され、そのレンズを中心として電磁石が機能し、あとは陽電子砲と同じである。しかし、砲身が無いため威力は控えめになる。だが短いチャージ時間での連射が可能となっている。
・このグウィバーに搭載されているエンジンは移民船団のエンジンを模倣したものらしい。その後、この船を構築したあと例の無差別通信を解析するなどして改良されたのが今のエンジンらしい。俺の考察だとその無差別通信は地球で言うボイジャーに近いものなのだと思われる。言語や技術などの情報を乗せた通信。誰がやったのかは知らないが、感謝だな。
・宇宙空間を移動する宇宙船は特に明確な形状の縛りというものは無い。ただ強いて言うなら上下または左右の形状が一致していることが多い。仮に武装で例えると、敵は上から来るだけじゃ無いからな。下にも必要ってことだ。だから上部に武装を集中させるのも悪い事ばかりではないが、非効率的なのだ。ちなみに最もポピュラーな宇宙船の形状は横浜のランドマー○タワーの厚みを減らしたような感じの四角いやつだ。建造が楽とかどうとか。
・アステールからはこのグウィバーは武装の威力などで見れば駆逐級宇宙船としてはかなりのものだが、電子シールドを除く防御性能やその他の出力などは地球基準であり、早急にこの宇宙世界基準にまで船をグレードアップすることを推奨するとのこと。また、『UROBOROS』エンジンの出力も余剰出力がかなりある状態だから武装を増やすだけでもなく、このグウィバーのメインコンピュータなどを中心として船を大型化しても問題無いらしい。
・確かに、コロニーに停泊している船を見ると駆逐級は案外少なく、ここ中量船舶専用ドックには軽巡級と思われる船が多い。そしてそのどれもが傭兵の物だ。何か理由があるのかもしれない。
・ワープについて調べていると面白いことがわかったので追記する。ワープホールは亜空間と先に書いた通りだが、その亜空間に入れるのは一定の大きさの物以上でないと入ることは出来ても出ることが出来ないのだ。その大きさが最低でも20メートル。これ以下だと亜空間に飲み込まれるそうだ。ただし、格納された状態であれば問題無いそう。だからワープホールに空母なんかが入れるのだろう。この裏ワザになりそうなこれの良い点はコロニー近くのワープホールに逃げれば敵艦のミサイルなどからも逃げられるという事。こういう形で使いたくは無いが、覚えておこう。
〈スオームコロニー〉
・プラム連邦所属ハグスター星系γ,Δ中間地点。
・そもそもの構造を知らないと理解できないが、スオームコロニーは縦に潰れたボールのような形状をしている。理由としては遠心力による場所の維持と擬似重力発生装置のためである。
・直径だけでも十五km弱、辺境のコロニーとしては最大である。
・コロニーの真横から見た最も広がっている部分がドックとなっており、軽巡級、駆逐級と要塞級、戦艦級、重巡級のドックの二種に別れている。
・人口約百万弱。隣国との貿易の中間地点として栄える。同時に宙賊の多発宙域でもあり、傭兵としても儲かる場所である。
・俺たち、リュウ、メーデンの二名が初めて訪れたコロニーであり、身分証を獲得し傭兵となった言わば始まりの地ならぬコロニーである。
・コロニー中枢、通称本庁を統括する人物は不明。情報無し。しかし構造は分かった。日本の内閣そっくりであり、農林水産省などの代わりに貿易省として独立していたりと違いはあるが。
・コロニーとしては実に平凡で、店の構成や内殻と外殻の存在、整備施設、万が一の防衛設備などが一通り揃っている。唯一貿易などに使う宇宙船ドックはかなり大きめに作られているが、データベースによるとこのコロニーよりももっと巨大な超大規模交易コロニーと呼べるものがあるそうだ。
・内殻と外殻とはその名の通り二重構造になるように作られている。内殻は居住区や商業区など人が生きるための場所、外郭は船や工場など危険があるものが揃っている。ただの区域分けでなく殼という形で分かれている理由は万が一の時にパージするためだという。本庁へ身分証を取得しに行った際のエレベーター。あれも爆砕ボルトの一種で、点火すればあの一帯がコロニーから切り離されるそうだ。前述の通り工場などに危険な物が揃っており、もしもがあればコロニーそのものの危機になりかねないからだとか。
〈武装〉
・船の主砲については主に陽電子砲かレーザー砲である。
・グウィバーにも搭載されているレーザー砲だが、軽レーザー砲と重レーザー砲の二種がある。この差は当然ながら威力の問題なのだが、その威力差を生むためには発射時のレンズ径が関わっている。
・レーザー砲は全て拡散→収束→発射のプロセスが必要となる。船舶搭載レーザー武装は円柱状の砲身を持つ。発射側に関しては一時割愛。円柱状の内部は中心部にラグビーボールのような部品があり、そこからレーザーが奥に向けて発射される。その直後、凹レンズにぶつかり拡散する。円柱内部は鏡のようになっており、レーザーは反射する。その反射角度によって発射側のレンズへと向かう。こちらのレンズは凸レンズであるが、特殊で、レンズの角度などを変更できるようになっている。その連邦で円柱内部で拡散されたレーザーを収束し、角度を付けたレンズで発射する。これがレーザー砲の発射プロセスだ。光学兵器であるため搭載には高性能なコンピュータが必要であるが、グウィバーにはアステールが居たので特に問題なし。
・ワープドライブは本来武装ではないが、扱いに困るのでここに記載する。ワープとはワープホールを用いて空間跳躍する技術だが、理論的には莫大なエネルギーで宇宙空間上の物質に干渉して亜空間への穴を開けてそこに飛び込む。その亜空間が崩壊するのに合わせて船がワープを終えるというものなのだ。つまり文字通りの空間跳躍と言える。ただその物質がなんなのか、亜空間とはなんなのかは解明されておらず、出来たから使おうみたいな感じらしい。
・亜空間は例えるならば俺たちがいるのが折り紙の色の付いた面、ワープで突入する亜空間が白い面で、ワープはその白い面を内側にして折ったようなものらしい。
〈宇宙世界・補足〉
・連邦と帝国、アンドロメダ銀河には大きくわけて二つの国家が存在しているが、銀河の中で国家が知りえているのは10%にも満たないとされている。それでも数千、数万の星系が一国家に存在しているが。地球にいた頃にも地球型惑星というのが時折取り上げられていたが、それはこの銀河でも共通し、いくつも見つかっている。
・地球基準で考えてみると、地形などのいわゆる自然の神秘と呼べるものは地球だけでもとてつもない数存在しているわけだ。それを宇宙規模にまで広げてみよう。もちろん地球型惑星と呼べるものが存在していない星系もあるだろう。だがその環境で生きていない知的生命体が居ないとは限らない。そして幸いにして俺の立場は傭兵だ。国家すら問わず自由に動き回ることが出来る。それにもう帰るべき場所もわからないからな。
・それに傭兵の多くは目標と呼べるものを持っているという。一番多いのは栄えている星に一軒家を持つことらしいが……他にも英雄になりたいだとか、深宇宙に行って誰も見つけていない古代文明みたいな遺跡を見つけてみたいだとか。そんな目標があるそうだならば────
「ふぅ……」
俺は数時間掛けてここまで各事柄について説明するような書式で書き連ねていた文章を見返す。
元々このコロニーでアステールが得た情報を纏めただけだから順番とかめちゃくちゃだ。一応一通りは書いたし、休憩も良いだろう。まとめ直すのは後日でも構わないし。
「うん、リュウ、休んだ方がいい」
「あれメーデン。まだ寝てなくていいのか?」
「違う。もう昼」
そう言われ今まで操作していたノーパソに似たデバイスの時計を見ると時刻はあと十数分で昼を回るってくらいだった。
「悪いな、朝飯……じゃなくて昼飯食うか」
「うん。あとおじちゃんが話があるみたい」
「そうか、なら一緒に食うか。呼んできてもらっていいか?」
「任せて」
昨日買ったばかりのゴスロリに身を包んだメーデンは機嫌良さそうにオッサンを呼びに行った。
というか、メーデンもおじちゃんと呼ぶようになったんだな。しばらくオッサン呼びからちゃんと名前で呼んでメーデンの情操教育をしっかりすべきだろうか。
まあとりあえずは飯だ飯。買ったばかりの自動料理ロボ、アイアン君に頑張って貰おうじゃないか。
カートリッジと調味料詰め合わせを指定のところに入れて好きな料理のスイッチを押すだけ!なんて簡単なんでしょう!
「リュウ、来たよ」
「リュウありがとよ。食わせてもらうわ」
どこぞの奥さまのようにポーズを取りながら操作しているとメーデンが戻ってきた。
オッサンもついさっきまで作業してたみたいだな。アイアン君の美味い飯食ってもらって船をちゃんと整備してもらわなきゃ。
メーデンが水を出したりしていると、チーンとアイアン君の出来上がりの音が鳴る。上の天板を開けると、ハンバーガーが三つ完成していた。
あとはそれを紙皿に乗せて出すだけだ。
腹が減っていたのか一斉にハンバーガーにかぶりつく。
「おお、うめぇ」
肉と肉汁のジューシーな味わい、野菜のさっぱりとしたみずみずしさ、ピリリと辛いソース、ふっかふかのバンズ、どれをとっても一級品のハンバーガーだ。地球のそこら辺の安いやつとは比べ物にならない。
「って早えよオッサン。もう食い終わったのか」
「ははは、この前連れてった店より断然美味くてよ。あの店行ったの実は初めてだったんだが、あそこまでとは思ってなくてよ」
「おいおい、それなのに食わせたのか?あのくそ苦えやつ」
「さすがに俺もあれは参ったからよ。行き慣れてる店紹介するわ」
はぁ……まあ次からは自分で探そう。
うん、美味い。なんでだろうなカートリッジの中身に絶対パンとか野菜なんて無さそうなのに、手に持ってるのはチーズバーガーって言う違和感。宇宙世界じゃこれが当たり前なのかね。
あむっと結構大きなハンバーガーを食っていると、オッサンが思い出したように話し出した。
「そうだ。いくつか伝えとかなきゃならねえことがある。船のことだ。結構緊急の内容って思ってくれていい」
「なんだ?そんなにヤバいところでもあったか?」
「いや、船の行動に関係してヤバいというわけじゃ無いんだ。ただ単純に装甲が脆いのさ」
装甲が脆い?ああ、アステールにも言われていたな。
「ここに来る前の戦闘ログを見て、被弾箇所を確認してみた。これがその写真だ。軽微だが、厚みで耐えられたようなもんだ」
オッサンが渡してきたタブレット端末に表示されているのはグウィバーの装甲板。確かに凹んでいるし、傷だらけだ。普通の船としては軽微なんだろうが。
「この箇所は船の横腹だ。その装甲板は一番分厚い場所だった。それでこの凹み具合だ。普通の船なら有り得ねえ。シールド抜かれたとは言え、相手は型落ちの陽電子砲。今どきの船がここまでなるのは珍しいのよ」
「なるほどね。じゃあ交換するとしたら幾らくらいだ?」
「それに関しても話がある。船の装甲ってのは形はある程度共通してるんだが、駆逐級専用、軽巡級専用と階級によって大きさが分かれてるんだ。んでもってこの船に使える装甲板は曲線を描いてなおかつ分厚く腹の部分に使えるもの。それに他に接合部の規格とかもあるからそこで探してみたんだが……無かったんだ。今はな」
「今は無かった?売り切れみたいな感じでか?」
「いや違う。装甲板そのものが絶版になってやがった。たまにあるんだ。宇宙船にも当然流行りがあるからな。装甲板なんかを作る工場もそれに合わせる。最近の流行はこの船みたいな曲線多めじゃなくて角張ったやつなんだ。数年前から軍が大量に船を更新してパーツが安くなってるからな。傭兵もそれに合わせてる。工場もその流行りのパーツを作り出すために中古素材を融かして再生産したからな」
「なるほど、それで装甲板は絶版。それで中古とかも無いわけか……」
「ああ。幸い、軽巡級の装甲板なら見つけたんだが、大きさが合わねえ。変えようと思ったら被弾箇所含めて十数メートルは丸ごと装甲板を変えなきゃならねえな。それにその装甲板をこの船の形に合うように加工もする必要がある。高くついちまうが……どうする?」
「どうするって聞かれたところで他に案はあるのか?」
どうせ無いんだろうな……そう思っていたら、
「あるぞ。俺としてはむしろこっちを推したい」
と、そんな答えが返ってきた。
「え?」
「え、とはなんだ。まあとりあえず詳しく話してやる」
「いや悪い悪い。そう言う話の振り方するやつは大抵その方法以外無い奴だからさ」
よくあるじゃん。「他にあるのか?」って聞いたら「無い」って言うやつ。普通はもっと熱い場面でやるやつかもしれないけど。
「そうか。じゃあ俺が推したい案を説明するぞ。まずこの船そのものを改装する」
「改装?」
「ああ。もはや作り直すって言った方が良いかもしれんがな。ただ中枢なんかは残すから改装だ」
「つまり……エンジンとかコンピュータを新しい船に載せ替えるってことか?」
「話が早くて助かる。ぶっちゃければそうだ。この船から新しい船に中身を丸ごと載せ替えるのさ。ちゃんと装甲板とかの規格が合ってるやつにな」
「なるほど……でもそれ高くつくだろ?」
「いや、案外そうでも無い。整備屋の中でも少ししか知らない裏技みてえなものだが、まず新しく船のフレームを手に入れる」
「フレーム?装甲板の無い骨組みか?それとも装甲板付きか?」
「前で合ってるぞ。装甲板の無い骨組みだ。こいつはかなり安く買える。所詮型で取り出して機械で組み合わせてるだけだからな。次は装甲板だが、ここはどうしても金が掛かる。それでも新しく企業から船買うよりは圧倒的に安いがな。バラ売りされてるやつを使うのさ」
「なるほど。それを組み合わせて船を作り上げると。武装とかも似たような感じか?」
「そうだな。と言うよりもほとんどがそうだ。バラ売りされてたりするやつを組み合わせて船を一から造る。船の中身だけを新しい船に載せ替えるのは傭兵がよくやる手法だが、船ごと造ってからってのはなかなか無い」
「そりゃそうだろうな。俺も予想外だ。だけど……面白そうだな」
「だろ?」
俺は多分かなり今ニヤけてる。このグウィバーはコンピュータ上で考えた「ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうせん」だが、今オッサンが提案しているのは正真正銘の「俺の考えた最強の宇宙船」の建造案だ。
「それにこの船のエンジン……かなりの出力だ。今でも重巡級下位の出力はあるが、ちゃんと調整すりゃあ戦艦級下位か……中位くらいまでは上げられるだろ」
「そこまでなのか……アステール?」
『はい。本艦のエンジンは機能するという意味であれば完成しています。しかし現在様々な情報と照らし合わせた結果、本艦のエンジンは未完成と判断できます』
「なるほど……」
「だから改めて提案だ。俺はこの提案ともう一つ、船のフレームに伝手がある。それらを提供するから俺にその船の建造に関わらせて欲しい。頼む」
オッサンはそう言って頭を下げてきた。
頭を下げられても、断るつもりも無いのだけど。
「オッサン、断るわけないぞ。正直、今の環境で信用できるのはオッサンだけだ。それに、アステールもオッサンと全く同じことを言ってるんだ。ならばこちらから頼みたい。オッサン……いや、ジャンさん。頼んだ」
「リュウ……わかった。任せろ」
俺とオッサンはガッシリと握手を交わすのだった。
その日の夜。俺とメーデンは俺の部屋でのんびりと思い思いに過ごしていた。
「ねえリュウ。これから私たち……どこに行くの?」
「うん?そうだな、まずはオッサンが紹介してくれた星まで行ってこの船を改装する。その前に宙賊を狩っていくらか稼いでおきたいけどな。借金するのもどうかと思うし」
「その先は?」
「その先かあ」
うーん、考えなかったわけじゃないけどなかなか難しい質問だ。さっきまで書いていた文章にもそれっぽいことは書いたが……
「ならリュウ。これ見て」
そう言ってメーデンが見せてきたタブレットにはいくつか写真が出ていた。
「ここに行ってみたい。色んなところに行ってみたい。色んな景色を見てみたい」
「絶景巡りか。……これは」
「ここからだととても遠い星。でも行ける」
そこに映されていたのは湖。水面に景色が鏡のように反射して……ああ、あいつとも行く約束をしていたな。体感だとほんの半年前なのに。
いや、今は一旦置いておこう。
「……そうだな。確かに遮るものは何も無いな」
「あとここも行ってみたい」
「お、火山か。はは、ここも遠いな」
俺たちはタブレットに映る様々な景色を見て色々と感想を言い合う。多分メーデンは今一番イキイキとしているだろう。
「ねえリュウ。これからどこ行こうか」
「どことは言わないね。とにかく絶景を見て回ろう。俺達にはこの宇宙をどこまでも行ける資格がある。誰も止められない。だったらさ、果ての絶景までも見に行かないか?」
「果ての絶景……」
「無限に広がる宇宙だ。全て回る気概で行こうぜ」
「うん……!」
メーデンは目を輝かせてブンブンと頷く。
「よし、ならまたしばらく準備だな。明日はちょっと射撃場に行ってくる。留守番できるか?」
「任せて。……でも、なんか変な予感」
「変な予感?何か起こるのか?」
「わからない。でも変な予感。リュウ、気をつけて」
「わかった」
俺はメーデンの真剣な瞳に頷くしかなかったのだった。
ただ、その前に一言さっきの文章に付け加える。
────絶景を見て回る。
と。
さらに後、メーデンが寝てしまった頃だ。
「やっぱり似ている……なあ、あの言葉は本当なのか?」
彼女の見た目はとある女性の面影と重なる。
「答え合わせは出来るのかな。なあ、リーズ」
俺は彼女の薄桃色の白髪を撫でながら呟く。
「『私は貴方の元に帰れる。一緒にいられる。あの子たちに約束されたから』……か。もしもそうなら……」
……今度こそは。
窓の外では星が煌めいていた。あの日のように。
★★★★★★★★★★★★★★
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