閑話1 新城胡々乃と四天鬼
デザートにと出されたガラス製の器に入っている物に私は目を丸くする。
林檎、梨、桃、キウイ、柿、マスカット、マンゴー、ラ・フランス、パイナップル。
大量に盛られた果物はどれも新鮮で瑞々しいが見事なまでに時期がバラバラだ。
「え?どうしたのこれ?」
以前の蠱毒騒動ですっかり桜ちゃんと仲良くなり、よく家にお呼ばれするけど、こんな大量のフルーツが出たのは初めてだ。
確かに今はハウス等で育てれば、旬関係なく果物が育つだろう。だが、そういった物は旬の時期に買うより高価くなるのが相場だ。それがこんなに山盛りに出すだなんて、何事だろうか?
「おにぃがいっぱい届けてくれたんだ。食べきれないから最近お客さんが来るたびにいっぱい出してるよ」
「え?忍先輩が?何で?」
ヴァンパイアの能力で果物とか出せるの?
桜ちゃんの言葉私は首を傾げる。
「なんでも領域とか言う妖怪さん達の根城みたいな所を他の妖怪退治して手に入れたんだって!その領域で色々な果物が成る木が生えたそうだよ」
桜ちゃんはこともなげに言うが、結構重要情報だよね?領域?帰ったら母さんに訊こう!
「いちごとメロンは実らないから無いんだって。ちょっと残念だよね」
確かに、木に実ってるんだもんね。そこら辺シビアなんだ。
「ネット販売もしてるらしいよ届けてくれた四天鬼の娘が言ってた」
「し、四天鬼?」
何そのいかにもなネーミング?え?そんなの結成してるの?
「うん!おにぃ配下で強い4鬼の吸血鬼だって」
いつの間に配下とか出来たんだろう?と言うか、配下で強い4鬼って事はそれ以外にも居るんだ。
「多分今日も来ると思うけど?」
桜ちゃんがそう言うと同時にインターフォンが鳴る。
「はいはい!」
藤堂のおばさんが玄関に向かい、可愛らしい少女を連れて入ってくる。
「おや?妖魔が居ますね」
私を見たその娘は瞳孔を赤くし、鋭い犬歯と爪を剥き出しにする。
「あ!待って!待って!害は無いから!私の友達だから」
慌てて止めてくれる桜ちゃん。ありがとう!本当にありがとう!
「おや?そうなんですか?」
桜ちゃんの言葉にスッと殺気を引っ込める少女。にしてもこの娘強いなぁ〜。
邪気は出さないように体の周囲に留めてるけど、妖気がバンバン出てる。下手すると蛇蠱や虱蠱より強いんじゃないかな?
まあ、強いと言っても忍先輩の足元にも及ばないだろうけど。あの方はちょっと別格だったからな。
そんな事を考えていると、その少女はいい笑顔で挨拶をしてくれる。
「はじめまして!四天鬼が一鬼!
堂々と恥ずかしい称号を名乗る少女。え?幻天鬼?
「は、はぁ〜」
困惑する私に桜ちゃんが声を潜めて教えてくれる。
「亜夢ちゃんは中二病真っ盛りなの。そんな時にお姉さんと一緒に登山に行ってて、猿の経立に捕まって、その後おにぃに助けてもらったらしいの」
「経立?確か動物が妖怪化した奴だっけ?」
「そうそう!で、ヴァンパイアであるおにぃの姿と能力に唯でさえ拗らせてた中二病が爆発しちゃったみたいでね。五体満足で生きてたからダンピュールに成る必要なかったのに、おにぃにダンピュールにして欲しいって頼み込んだらしいの。おにぃの血も必要以上に沢山貰ってるから、四天鬼の中で能力も一番多いみたいだよ」
「そ、それはなんとも」
私と桜ちゃんのヒソヒソ話を気にする素振りもなく、亜夢ちゃんは藤堂のおばさんに話しかけている。
「ご母堂様!!人間だろうが妖魔だろうが、不埒な輩が居たらすぐにお教え下さい!!私が全力で排除しますから」
「ええ!ありがとう!期待してるわ!」
物騒な事を口走る亜夢ちゃんに藤堂のおばさんは笑顔で返している。良いのそれで?
「ああ!!偉大なる我らが主に頂いた初仕事!!此処で成果を上げれば主に認められ更に血を頂ける!更なる高みに登れる!!」
恍惚の表情を浮かべる亜夢ちゃん。いくら中二病とは言え、ぶっちゃけヤバイ娘だよこれ!?
「よ、よくこの娘を幹部にしたよね忍先輩。どんな基準で選んだんだろう?強かったから?」
「そう言えば、訊いたこと無かったな〜。ねえ!亜夢ちゃん!」
「何ですか?桜様!!」
桜ちゃんと話すのが嬉しいのか亜夢ちゃんはニコニコしながら答える。
「何で亜夢ちゃんは幹部に成れたの?他の人より強かったとか?」
「へ?幹部?」
桜ちゃんの質問に亜夢ちゃんは予想外の事を言われたとでもいうように首を傾げる。
「え?幹部でしょ?」
桜ちゃんも桜ちゃんで、亜夢ちゃんの反応に目を丸くする。
心を読めるから桜ちゃんの困惑が伝わってくる。
「幹部でしょ?四天鬼だって言ってたじゃない?」
「はい。その確かに四天鬼とは言いましたし、四天鬼があの方の配下で最強なのは間違いありませんが、その、四天鬼は幹部ではござません」
「え!?違うの?」
「はい!単純に強いだけです。そもそもあの方の領域に居る者達は全員あの方に助けられた者だと言うだけで、きちんとした組織に成ってはいませんし、それに、四天鬼は私が考えた称号ですし」
「え?亜夢ちゃんが考えたの!!」
桜ちゃんが今日一番驚いている。私も思う。何だろう?思ってたのと違う。
「私が最初に言い出して、その時は後の三鬼は否定していたのですが、そのうち主も四天鬼と呼ぶように成り、後の三鬼が諦めた形です。私の称号である『幻天鬼』や他の三鬼の称号である『
あぁぁ。そんな理由で結成された集まりだったんだ。巻き込まれた人たちご愁傷さまぁ〜。
後、『虫天鬼』って多分透子ちゃんだよね?恥ずかしがってるんじゃないかな〜。
「せっかく結成した四天鬼なんですけど、皆さんノリが悪くて!私はもっと切磋琢磨したいんですが、序列を決めようと言えば、私が序列1位で良いと言い出すし、手柄を競ったりもしないし、勿論序列を入れ替える決闘とかもないんです!楽しみにしてたのに!!」
うん。まあ、バトル漫画とかではお馴染みの展開だけど、現実にはそうそう無いよね。と言うか、亜夢ちゃん。結構可愛い女の子なのに拗らせ方が少年漫画系だね。
「そっかぁ〜亜夢ちゃんが考えたのか〜。良かった!安心した!!」
安心か。まあそうだよね。忍先輩がドヤ顔で任命した訳じゃないみたいだもんね。
「でも、それじゃあ四天鬼ってあんまり意味ない?」
「そんな事はありません!!実際、序列1位と言うことで、偉大なる主からそのご家族を守護する役目を与えられたんです!!身に余る光栄です〜」
うん。多分忍先輩適当に役目を与えとかないと余計なことすると思って言ったんじゃないかな?そんな気がする。
「今はもっぱら街を回って怨霊を食べたり、妖魔がこの家に近づきそうに成ると追い払ったりしてます」
あれ?じゃあチョクチョク能力増えたりもするんじゃないの?どれくらい強いんだろうこの娘?
「いつか強い敵が攻めてきて、私の力をお披露目できると良いのですけど」
「わ、私達は平穏無事に暮らしたいかな〜」
亜夢ちゃんの言葉に桜ちゃんが引きつった笑みを浮かべる。
まあ、性格がちょっとアレだけど、そこそこ頼りになる護衛が居るのは良いんじゃないかな?
そんな事を考えながら私はフルーツを摘んだ。
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