トラックに轢かれても異世界に行けるとは限りません!

黒豆

 第1章 事故に遭って

第1話 事故に遭いました!

 皆さんこんにちは。俺の名前は藤堂とうどうしのぶ何処にでも居る普通の高校生だ。


 うん。こうして真上から眠っている自分の顔を見ても至って平凡な容姿だなと思う。グレードで言えば中の中だ。


 まあ、不細工じゃないだけ良いよな。


「速く輸血パックを!!」


「臓器が潰れている。早く手術を!」


「心肺停止!!電気ショックを行います!」


 うん。お医者さん方、そんなに叫んで大丈夫、喉痛くなるよ?後、頑張っていただいてるところ、申し訳ないけど、多分助からないよ。俺!


 腕とかが変な方向に折れ曲がり、体中に切り傷があり、あちらこちらに内出血が見られる俺の体に電極のような物がつけられていく。


「電気ショック開始!」


 ドンッと言う音と同時に俺の体が少し宙に浮くが、脈を測る機会は、未だに一直線の線を描き、「ピー」と嫌な音を響かせている。


「もう一度!」


 必死の形相のお医者さんや看護師さん達が、電気ショックや心臓マッサージを繰り返すが、一向に俺の心臓は動かない。


「………」


「………」


 やがて諦めたのか、お医者さんや看護師さん達が皆沈痛な面持ちで手を止める。


 うん。仕方ないよ。あなた達は手を尽くしてくれた。それは見ていたからよく分かる。


 父さんと母さんが病室に入ってきて、呆然と俺の体を見つめる。


 お医者さんが「手は尽くしましたが」と悔しそうに言い、母さんが泣き崩れ、父さんがお医者さんに掴みかかる。


 待って父さん!本当に手を尽くしてくれたから、掴みかかるの筋違いだから!


 お医者さんに掴みかかった父さんだったが、直ぐに力なく崩れ落ちると、母さんと一緒に泣き始める。


 泣き叫ぶ俺の両親を看護師さん達が連れ出し、やがて、病室に人の気配が無くなる。


 さてと、そろそろ俺も今の状況を整理しないといけない。


 思い出せ!何故こんな事になっている?そうだ、確かトラックに轢かれそうな小学生を庇ったのだ。そして代わりに自分が轢かれた。


 え!何そのテンプレ!これはアレだよね?異世界とかに行けるパターンだよね。そこで勇者になって世界救ったり、最近では逆に魔王になる場合も有るか!そんな胸踊るトラック転生だよね!


 と、馬鹿なことを考えてみるが現実は変わらない。両親がちゃんと居たし、周りを見ても何も異世界っぽさがない。つまり、此処は現代である。


 そして、俺の体はトラックに轢かれ、息を引き取ったのだろう。


 え!?じゃあ何で俺の意識あんの?なんで俺は浮かんでて、浮かんでる俺の手は透けてんの?


 これって俗に言う、ゆ〜たい、りだつ〜!!だよな!!え!マジで幽体離脱?俺これからどうなんの?

 ん?待てよ?確か今の俺は誰にも見えてなかったよな?なら女湯とかって〜


 いかんいかん。馬鹿な考えだ。死にかけてるどころか死んでるのに覗きを考えるとか最低だろう。でも、彼女居ない歴イコール享年の俺としては非常に興味が有るわけですよ。分かってくれますか皆さん。この男心!

 そんな訳でともかくまずはここから出ようかな〜


 まあ、何とも不純な動機だが、部屋を出なくては何も始まらない。ドアノブを掴んで扉を開けようとするが、重大な事に気づく。


 ドアノブすり抜けるんですけど!!


 え!?何!?ドアノブ持てねえじゃん!!どうやって部屋から出んの?


「ん〜ん。てりゃぁぁ!!」


 ちょっと考えてドアに体当たり。すり抜けた!!そりゃそうか!ドアノブすり抜けんだから、ドア自体もすり抜けるよな。


 あれ?てことは自分の肉体もすり抜けるとか?ちょっと幽体離脱状態を楽しんでいる俺は自分で自分の肉体をすり抜けるという、後から考えると、何の意味が有るかよく判らん試みにチャレンジ。しかし、結果として、この試みが吉と出た。


 勢い良く自分の体に突進し、皮膚からスルリと体内に入る。


「え!?」


 体内には入れたが、そこで俺は瞼を開けて、驚きの声を出す。


「どうして!?」


 ムクリと上体を起こすと、“固くて痛い”ベッドから下り、床に“足を付ける”。


「これって!生き返った?いや、さっきのが夢?」


 しかし、周りには先程見たものと同じ医療器具が置かれている。何より俺に未だに張り付いているコードの先にある心電図は一本の線を無情に描いている。


「脈は?無い!!」


 自分の手首を強く押して見るが、脈打っていない。


「え!?脈がない!!」


 ウェイト!落ち着け俺。少し冷静になろう。まだ慌てる時じゃない。いや、既に死んでるから、慌てる時は過ぎてるのかもしれないが、とにかく落ち着け!


「どういう状態なのこれ?鏡とか有れば楽なんだけど」


 もう1回幽体離脱したいが、流石にそれはできなかった。


「取り敢えず、外に出るかな」


 今度は扉に普通に触れたので、扉をあけて外に出る。


「何だこれ?」


 部屋の外に出てみると、病院の廊下を黒い靄の塊みたいなものがいくつも飛んでいる。


「ドッキリじゃないよなぁ?」


 取り敢えず、どうしようか?まだ父さんと母さん院内に居るかな?


 歩いていると、1人の看護師さんが廊下の向こうに見える。


「あ!ちょうど良いや!スイマセーン」


「はい?え!?きゃぁぁぁ!!」


 俺の声に反応して此方を向いた看護師さんはけたたましい悲鳴を上げた腰を抜かす。


「え!?」


 何!?何事!?何でこの人悲鳴あげてるの?


「だ、誰かー!助けてー!でたー!」


 看護師さんは腰を抜かしたまま叫び続ける。


 え!?出たって、何が?


「どうしたんだ?ええ!!」


 悲鳴を駆けつけて来たお医者さんが俺を見て尻餅をつく。


「あ、あ、これは!アレだ!柊先生!柊先生!!」


 誰かの名前を呼びながら這うようにしてその医師は逃げていく。柊先生って誰だよ?


「あのぉ」


「いやぁぁぁ!!来ないで!!!」


 残された看護師さんは頭を抱え、目に涙を浮かべて失禁しながら悲鳴を上げる。


 これはまともに話が聞ける状況じゃ無いな。


 とは言っても、このままこの人放置しても良いの?


 ドゥン!!


「え!」


 どうしようか途方に暮れていると、体育祭の百メートル走のスタート時に良く聞く音が鳴り、俺の頭を何かが貫通した。

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