永遠に散りゆく花たちよ

日景の餅小豆

プロローグ

 祖母と孫だろうか。仲睦まじく手をつないで、神社のある林の近くを年の離れた二人組が通った。

「ねぇ、おばあちゃん。なんであの神社には近づいちゃダメなの?」

 ふいに、少女が言った。

「ふむ、それは村の禁忌だからね」

 祖母は真面目腐った顔で、しかし口調はどこか面白がっていた。

「もう、そういうことじゃなくて!」

「ははは、冗談だよ。お前が聞きたいのは禁忌だの掟だのという話ではなく、なぜそうなったのかだろう?」

 何でもお見通しだとでもいうかのような祖母の言葉に、口を尖らせて少女は言った。

「だって、村の大人たちに聞いても掟だの禁忌だのとしか答えてくれないんだもん」

「そうだねぇ。最近の若者どもの場合、答えようとしないのではなく答えを知らないというだけかもしれないね。

 しかし、どうしてお前はあの神社に興味があるんだい?」

 祖母は苦笑交じりにそう聞いた。

「え?どうしてって、あんなにキラキラ輝いていて綺麗なところに行けないなんてすごく勿体ないような気がするんだもん。

 そもそも、何であんな綺麗なところに行けないのかって疑問に思う人がいないって事のほうが不思議だよ!」

 頬を赤く染め、瞳を輝かせ、興奮した様子の少女は一息に言った。

 しかしそんな様子の少女とは裏腹に、祖母は先ほどとは異なり、ワントーン落として言った。

「……そうかい。キラキラと輝いて見える、ね」と。その表情はどこか寂しげであった。


 それから、しばらくの間沈黙が二人の間に走っていた。

 反応がなくなって、先ほどからひたすら何かを考え続けている祖母に、少女はしびれを切らし沈黙を破った。

 今まで誰にも言ったことのない夢の中での不思議な出来事を話すことによって。

「……ねぇ、おばあちゃん。私ね、実はね、どうしてもあの神社に行きたい理由があるんだ。いつもね、夢に出てくるの、あの神社が。

 そこにはね、一人の男の子がいて、いつも柔らかく微笑んでいるの。それを見るとね、温かい気持ちになるんだ。それと同時に、気のせいかもしれないんだけど、どこか懐かしい気持ちになるんだよ。

 逆に、あの子が悲しそうに笑っているとすごく悲しい気持ちになるの。なんていうか、こう、胸がぎゅって締め付けられる感じっていうか……泣きそうになっちゃうの」

 その時のことを思い出したからか、少女は今にも泣きそうだ。

「……そうかい。そうだね、そんな夢を見たら誰だって興味はわくものだね」

 祖母はそう言いながら少女の頭を撫でた。

 その撫で方がどこかあの男の子と似ているような気がして、でもやっぱりどこか違っていて。そしてそれを認識したとたん、こらえていた涙が堰を切ったようにあふれ出した。


 しばらくして、少女の涙が引っ込んだのを確認した祖母は言った。

「……今から、少し昔話をしてやろう。今はもう知っている人がほとんどいない、そんな話を」

 そう前置きをしてから祖母は話し始めた。


「……昔々のお話さ、この神社には村を守護するとされる神様がおったのだ」


 そうして祖母の口から紡がれる長い長いお話は幕を上げたのだった。

 その話を語る祖母の姿はどこか嬉しそうで、だけど少し悲しそうだった。

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