第4話 白猫のにゃん子サマ

 屋敷の厨房にて、シャルロットは皿にミルクを入れ床に置いた。床には白い猫と、気絶した赤髪の魔法使いが横たわっている。


「にゃん子サマ、ミルクはいかが?」

「ほほぉ~。なんて気が利く娘なのじゃ。無理を言ってすまんのぉ~」


 にゃん子サマはシャルロットに礼を言うと、皿のミルクをペロペロと小さな舌で舐め始めた。


 こうして見るとただの猫に見えるが、ここへ魔法使いを運ぶ時に宙を飛んでいたので、普通の猫ではない。まあ、喋っていることもおかしい。


「とりあえず、残り物のスープを温めるわね」

「ありがたや~。セオは身の回りの事がなにもできぬでのぉ。何か食べれば蘇るのじゃ!」


 赤髪の魔法使いは、空腹で瀕死状態だそうだ。


 一週間なにも食べておらず、にゃん子サマの勧めで食堂に行こうとしたところ、シャルロットと衝突事故を起こしてしまったのだ。


 シャルロットのせいで死にかけている訳ではないと分かると、正直ホッとした。


 しかし、食べる物もないとは可哀想である。

 この国で、魔法を生業にしているものは少ない。

 魔法を使える者も多いので、相当な実力者だったり、特別な魔法が使える者でないと、仕事にならないのだ。

 

 この人もきっと、シャルロットと同じように貧乏で大変なのかもしれない。


「にゃん子サマ。そろそろ温まるけれど、魔法使いさん、起きるかしら?」

「今、起こすのじゃ。セ──」


 にゃん子サマがフワリと宙に浮かんだ瞬間、厨房の扉が開かれた。


「にゃん子サマ、私の後ろに隠れてっ」


 この家の人間は動物が嫌いだ。

 シャルロットは慌ててにゃん子サマを背中に隠した。


 厨房に入って来たのは義母だった。


 普段はこんな所に来るような人ではないのに、わざわざ来たと言うことは、きっとシャルロットに嫌みを言う為だろう。


「あらぁ? シャル。落ち込んでいるかと思ったけれど、食欲があるのね?」

「お、お義母様……」


 義母はシャルロットを馬鹿にするように鼻で笑い、厨房の中に足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る