おとぎ話のような可愛い呪いを~義妹に婚約者を取られた貧乏令嬢は、家族と絶縁して自由に生きることにしました~

春乃紅葉@コミック版配信中

おとぎ話のような可愛い呪いを

第一章 家を出ることにしました

第1話 私の場所

 今日は婚約者が家に訪ねてくる。


 目の前の鏡に映るは、薄幸の少女。

 それは私、子爵令嬢シャルロット=アフリアだ。


 私のエメラルドの瞳や金髪は、母親譲りで色素が薄め。

 そのせいでよく病弱に見られる。

 しかし私は、風邪すら引いたことがない。

 元気だけが取り柄である。


 一ヶ月後、私はこの家を出て、伯爵家の長男アシル=ソルボンと結婚する。


 これは小さいころから決まっていた縁談だから、私がとやかく口を出せることではない。


 例えば、アシルは優しいけれど、顔はタイプではないとか。

 本当はマザコンでナルシストだとか……。

 でも、そんなことは、ほんの些細なことだ。


 彼の家は誰もが羨む裕福な家柄。

 反対に我が家は没落しかけの貧乏な田舎子爵。


 いくらアシルがタイプではないからと言って、私はこの幸せを逃すほど馬鹿ではない。この家でこれから先も暮らすことを考えたら、むしろ何百倍も幸せではないかと思う。


「シャル姉様~?」

「あら、ルシアン。どうしたの?」


 鏡台に向かうシャルロットに、後ろから抱きついてきたのは義弟のルシアンだった。


 栗色の髪はサラサラで、瞳はキラキラ。

 義母譲りの美少年。まだ六歳なのにこの美少年っぷり。

 この先が楽しみで仕方がない。


 それに、ルシアンは誰に似たのか、素直で可愛い。

 この家で唯一の味方であり、癒しの存在なのだ。


「シャル姉様の婚約者、もう来てるよ?」

「ええっ。もういらしたの? ルシアンは一人でここで待っていられる?」

「うん。今日のシャル姉様、今までで一番綺麗だよ。頑張ってね!」

「ええ。ありがとう」


 今日も、ルシアンの天使の様な微笑みをいただきました。

 子供嫌いの義母に代わってルシアンを育てたのはシャルロットだった。


 再婚してからの三年間、シャルロットは炊事洗濯家事掃除、そしてルシアンの母親代わりをこなしてきた。義母や義妹が散財するせいで、使用人を雇うお金も厳しくなったからだ。


 それも、この婚約があったから耐えてこれた。

 終わりのある苦しみだから、我慢できた。



 シャルロットは婚約者が待つ部屋の扉の前で立ち止まり、一度大きく深呼吸をした。


 婚約者は二つ年下の十五歳。

 シャルロットがしっかりしなくては。

 シャルロットは、淑やかで落ち着いた大人の女性を……大好きだった母親の様な女性を目指していた。


「お母様。どうか見守っていてください……」


 胸に手を当てシャルロットはそう呟くと、扉をゆっくりと開いた。


「遅れてしまい申し訳ございません。アシル様。今日は……えっ?」


 シャルロットは絶句した。


 会食は始まっていた。

 この席の主役の一人であるシャルロットがいないまま。


 シャルロットの席には、我が物顔で座る義妹──ナディアの姿があった。

 美しいドレスに身を包んだナディアを見て、シャルロットは理解した。


 私の場所。私の未来が──。

 ナディアのものになってしまったということを。


 義母はシャルロットに気付くと、口元に笑みを浮かべた。


「あら。遅れても問題ないわ、シャルロット。今日の主役はアシル様とナディアなのだから……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る