難しい話

 エラン・ブームになってから依頼が殺到しオフィス加納も元気が出てきてるんだ。ただちょっと困るのが、来る依頼、来る依頼が、


『エラン風で宜しく』


 そんなこと言われても、そもそもエラン風っていわれてもわかんないじゃない、ツバサ先生に聞いたら、


「いつも通りに撮って、


『これこそエラン風です』


 そう言っとけば問題ない」


 たしかにそうかも。とりあえず、あの自粛、自粛で落ち込んでいた売り上げを取り戻さないといけないから、パンパンに仕事を詰め込んでバリバリやってます。おかげで、三十階の女神の集まる日に出席する余裕はツバサ先生さえなく、アカネも三十階に無縁の平穏な日々を過ごせて幸せ。


 三十階の世界は、面白いって言えば面白いけど、アカネのような女神じゃない、ごくごく普通の常識人じゃ、ぶっ飛び過ぎて付いて行くの大変すぎるのよね。


 女神どもはたしかに優しいし親切だけど、何かあればマルチーズに変えたがるから困るんだ。しっかりトラウマになってるよ。だってさ、スーパー大徳でいきなり固まったことがあったぐらい。しばらく理由がわかんなかったんだけど、


『カマンベールチーズ』


 この文字に恐怖したんだ。それだけじゃないんだ、とにかくチーズと聞くだけでビクッと反応するぐらい。チーズだけじゃないよ、


『豪快、丸かぶり』


 これだけでゾクッとしたもの。『マル』もやっぱり良くない。こんなアカネに誰がしたと憤慨していたら、張本人がやってきた。


「アカネ、週末は空けとけ」


 待った。今週末なら、


「イヤです」

「ほほぅ、あの犬小屋に住みたいのか。まあ、ユッキーもコトリちゃんも可愛がってくれると思うが」


 うぇ~ん。三十階の犬小屋暮らしはやだよ。抵抗する術もなく三十階に、


『コ~ン』


 そうそうなぜか今日はマドカさんも一緒。


「どうしてマドカさんも」

「あん、カメラ係だ」


 どういうこと。カメラ係ならアカネで十分な気が。ま、女神どもの攻撃目標が分散するから、まいっか。でも毎度のことながら、集まってるメンバーの見た目と肩書の差に驚くもんね。


 女神どもの見た目はツバサ先生とユッキーさんとコトリさんが二十歳過ぎ、ミサキさんとシノブさんなんてまだ十代だよ。もっともミサキさんとシノブさんは実年齢でも十九歳だけど。アカネも実年齢は二十五歳だけど、マルチーズにされそうになった日から、まったく変わんないのよ。


 そうやって見るとマドカさんも若く見える。えっと、えっと、アカネの四つ上だから二十九歳になるはずだけど、二十代半ばにしか見えないんだ。えらい細かい説明したけど、集まってる七人は若いOLとか女子大生ぐらいにしか見えないのよね。


 ところがだよ、ユッキーさんはエレギオンHD社長やってるだけじゃなく、地球側全権代表だったし、ECOの代表だよ。宇宙人との交渉を一手に引き受けて、世界のVIPを手玉に取ってるんだ。


 あの日の様子は全世界に中継してたからアカネもずっと見てた。いや、アカネだけじゃないと思う。世界中の人の殆どが見てたと思う。街中が閑散としてもんね。なに話してるかはサッパリわかんなかったけど、なんかエラン代表を怖い顔で叱りつけてたんだよ。


 その後の国際会議の様子は、さすがに長すぎて全部見てないけど、世界のVIPを相手に堂々と渡り合ってたものね。アカネもツバサ先生に相当度胸を付けてもらったけど、あんなところで、あれだけ平気な顔をしてられる自信はない。いや、絶対無理だと思う。とにかく颯爽として格好良かった。あれっ、マドカさんがなにか頭下げてる。


「小山社長、月夜野副社長。その節は大変お世話になりました」

「たいしたことはしてないわ。でも、あの時のことは誰にも話したらダメよ」

「そうや、後はイイ男をつかまえたらハッピー・エンドや」


 う~む。マドカさんもマルチーズの試練を耐えたのかもしれない。だから歳を取らなくなり、お嬢様から貴婦人にグレードアップしたに違いない。マドカさんならあの試練を耐える必要はなかったと思うけど、とにかく女神どもは何を考えてるかわかんないし。


「今日は記念写真を撮ろうと思って、マドカさんにも来てもらったの」

「はい、聞いています。頑張らせて頂きます」


 ツバサ先生が真ん中になる女神の立ち位置だけど、


「おいアカネ、お前も入るんだ」

「アカネは女神じゃありません」

「つべこべ言うな、マル・・・」

「わかりましたよ」


 だからマドカさんがカメラ係なのはわかったけど、どこに立つのかな。順番からして四座のシノブさんの隣ぐらいのはずだけど、


「そこじゃない、わたしの前だ!」

「はあ?」


 そんなとこに立ったらおかしいじゃん。


「立つんじゃない、しゃがむんだ。そうそう、もっと低く。そうそう」


『バシャッ』


「ツバサ先生、アカネの位置に意味があるのですか」

「あん、ペットの座だ」


 ギャフン。女神どもから見たら、アカネはやぱりペットのマルチーズ扱いかよ。


『カンパ~イ』


 とにかくここの食べ物と飲み物は一流。ここより美味いところを少ないんじゃないかな。それが食べ放題、飲み放題だし、


「もっと食べてね、いくらでもあるし」


 そりゃ、次から次に出てくる。それをまた女神どもは遠慮なく食べるし、バカスカ飲みまくるんだよな。そうだせっかく来たんだから、


「ユッキーさん、エラン代表ってどんな人だったのですか」

「エランの救世主よ。よくあんな状況で、あれほどの人物が現れたと思ってるよ」


 へぇ、そんなに凄い人なんだ。でもそうかもねぇ、はるばるエランから地球まで来て、怖い怖い首座の女神とわざわざ話をしようとする人だからね。そしたらコトリさんが話に加わってきて、アカネが殆ど理解できない女神ワールドに突入しちゃった。


「ジュシュルは傑物だけど、エランが間に合うやろか」


 ジュシュルってエランの船長の名前だけど、妙な趣味もってるな。『尻ぶつ』やったら地球なら体罰だけど、エランじゃ挨拶代りなのかな。それにしても『ケツ』は下品だよ。せめて『シリ』ってすればイイのに。よくわかんないけど、エラン風の会話かも。


「そこが問題なのよね。ネロの後のヴェスパシアヌスとは条件が全然違うわよね」

「ディオクレティアヌス登場時より条件が格段に悪いもんな」


『アヌス、アヌス』って、やっぱり尻に関係する話か?


「玄宗皇帝の時代とも比較にならないし、粛宗の時代ともね」

「コトリは宋末が思い浮かんじゃってしょうがないんや」


 なんで尻の話から『粗末』に話が飛ぶんだろ。


「亡宋三傑が出現してもどうしようもなかったやんか」

「中国史上に残る傑物だったのにね」


 なんだ、なんだ『暴走三尻』って、また尻の話に戻ってる。それも中国史に残る尻ってどんなんだろ。よほどデカいとか。


「似てると言えば似てるよ。宋末はまず金に圧迫されて、続いて元でしょ」


 粗末が金に圧迫? その次はゲンってどっちも人の名前かな。遠山の金さんと、大工の源さんとか。


「そやろ、人類滅亡兵器が金で、意識分離技術が元に見えへん」


 こりゃ驚いた。人類滅亡兵器って純金製なのか。


「ユッキーはどこまで信じてるの」

「シリコンを捨てるフリをしたところまでは信じてる」


 あちゃ、もう話が飛びまくり、また尻に話が戻ってる。『尻コン』を捨てるって、尻へのコンプレックスでもあったぐらいかな。


「ガルムムの話は」

「上手いこと言って地球に送り込んだ線は残ってるわ」

「神やからな」


 ガルムムは聞いたことあるぞ。そうだそうだ、前回の時の凶暴な奴の名前だ。


「それでもね、せめて亡宋三傑ぐらいでいて欲しい」

「そやな、ガルムムが張世傑で、ジュシュルが文天祥ぐらいか」


 ガルムムが『超清潔』って、ウルトラ綺麗好きだったってことかな。凶暴なのに綺麗好きとは変な奴だ。


「もうちょっと夢があってもイイかも。ジュシュルが文天祥、アダブが陸秀夫でどう」

「それやったらディスカルが張世傑か」


 ラスカルって誰だ。とにかくコイツも超清潔らしい。わかったぞ、アライグマだから綺麗好きなんだ。


「最後は英雄的であり悲劇的なのよね。文天祥は元に捕えれても最後まで屈せず、フビライの誘いを蹴飛ばして刑場の露に消えてるし、陸秀夫は崖山の戦いで自分の妻子を殺した後に幼帝とともに入水してる」

「そして最後まで残っていた張世傑はベトナムでの再起を図る途中に海で荒らしに遭い、


『天が宋を滅ぼそうとするなら、この船を覆せ』


 こう叫ぶじゃない」

「そやねん、そして南宋最後の十八史略の記述は、


『船、遂に覆る。世傑溺る。宋亡ぶ』


 これやもんな」


 話はチンプンカンプンやったけど、話はさらに謎めいて行き。


「だからユッキーもそうしたんやろ」

「出来なかったけど」

「コトリもや」


 なにが出来なかったんだ。


「今度だけは欲しかったね」

「これもまた運命や。ミサキちゃんでもアカンかったし」


 それから三日間ぐらいかけてマドカさんに、何を話していたかをマドカさんに解説を聞いたんだけど、尻とはまったく関係のない話だったのに驚いた。あの時に口を挟んでいたら赤っ恥かいてたのだけはわかった。


 でもさすがに貴婦人マドカ様で、あの難解きわまる女神の会話が一度聞いただけで理解できるとは大したものだと思った。まるで女神並み。どうしてアカネがあそこでペットの座にされるのか、やっぱり意味不明。アカネより、マドカさんが出席すればイイのに。

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