収穫
エランの宇宙船が地球を飛び去ったことでユッキー社長は地球全権代表も、ECO代表も辞任。ECOも規模を大幅に縮小して国連の機関の一つになります。当面の仕事は第三次宇宙船騒動の記録を残す仕事になりそうです。シノブ専務も東京支社から帰って来られ、
「ミサキちゃん、シノブちゃんご苦労様。また学生生活謳歌してきてね」
「その件なんですが・・・」
女神の仕事が終われば学生生活に戻るつもりだったのですが、地球全権副代表もやり、ECOでも出ずっぱりだったので、顔が売れてしまって困ってます。とにかく有名人になってしまって、学生に戻りづらいのです。
「そっか、そうなっちゃうわよね。でもね、人はすぐに忘れるよ。半年もすれば過去の話題になってるから、それからにしたらイイわ」
「コトリもそう思うわ。そやな、春に一年生からやり直したらエエやんか」
そういうことで、常務のままエラン事件の後始末をやってます。シノブ専務にも聞いたのですが、
「学生に戻りますか?」
「迷ってるんだけど、このままでもイイ気がしてる」
「ミサキもです。エレギオンに戻っちゃうと、また学生するのもどうだって」
「シノブもなのよね」
それにしても技術担当のアダブから聞きだした情報の凄いこと。
「あの血液製剤やけど、地球の病気にも効くで」
「でも、地球で出来るのは半製品までじゃないですか」
「それだけでも十分すぎる効果があるんや」
まだ動物実験の初期レベルですが、驚くほどの効果と適用範囲がありそうとのことです。十年もしないうちに医薬品として売り出される可能性がありそうです。出れば画期的なんてレベルじゃないのだけはミサキにもわかります。他にも、
「エランの武器のロック解除の方法もわかったで」
「それじゃあ、他のも」
「ああ、バッチリやと思う」
二十六年前に鹵獲した宇宙船の調査研究が難航している理由の一つに、多くの機器にロックが掛かってしまっていることです。つまりテストでも動かせないのです。
「それだけやないで、このロック技術は売れるで」
コトリ副社長はエランのロック技術の理論まで習得されているのです。さらに、
「科技研でお蔵入りになってる、エネルギーパックの充電器もこれで動くんや」
エランのエネルギーパックの能力が高いのは、エランの銃をテストした時にわかっています。このエネルギーパックは、武器だけでなく、他のエラン製の機器に広く用いられているのもわかっています。
「あのパックの理論もだいたいわかった」
「それって新しい電源パックに」
「そうや、世界の蓄電器業界がひっくり返るで。地球の技術じゃ、十分の一ぐらいの性能になってまうけど、それでも従来のに較べたら二十倍ぐらいは余裕やで」
他にもスマホまでかけられたエランの通信技術や、アラまで探し出した探査技術の理論などもあり、コトリ副社長は嬉しそうに、
「他にも聞いたものを合せると、エラン型の宇宙船も作れるかもしれん」
「月で餅つき計画ですか」
「あれも夢やない。五百年ぐらいで行けるかもしれん」
最後にずっこけましたが、女神の時間感覚なんてそんなものです。でもさすがは知恵の女神で、そこまでよく理解したものです。そこにユッキー社長が、
「当ったり前よ。コトリはやる気さえ出せばわたしと同じなんだから」
「ユッキーには勝てんけど」
そっか、そっか、これだけ聞きだしたのは、
「やっぱりベッドの上」
「そうや、全部話してくれた。エラン人がベッドで弱いのはアラで学習済み」
エラン人だけじゃなくて地球人だってコトリ副社長の手にかかれば同じです。
「ユッキー、あっちはどう」
「上手くいきそうよ」
なんの話かと思えば、宇宙船が飛びたった後の神戸の観光問題。
「ミサキちゃん、やっぱり宇宙船は人気あるやんか」
「そりゃ、そうですが、飛びたっちゃいましたよ」
「いや、もう一隻ある」
「まさか、あれを・・・」
あの宇宙船を動かすのも大変で、結局、空港ビルから施設から全部壊して、北側に移動させています。それ以上動かすのは不可能だったので、宇宙船の上に研究所を作っているのですが、
「あれをそのまま、宇宙科学博物館みたいにしてまうんや。そりゃ、人気出るで」
そんな許可が取れたものだと感心しましたが、この二人なら取っちゃいそう。出来ればミサキだって行きたいもの。
「埋め立て許可は」
「こっちの方が簡単だよ」
空港北側をもう少し埋め立てて広げ、宇宙船を中心としたテーマパークにしてしまう計画のようです。
「あれだけ働いたんだから、少しは返してもらわないと」
「そうよそうよ、勲章とか、国民栄誉賞とか、ノーベル平和賞なんてもらっても意味ないし」
よく言います。焼け太りみたいに宇宙船騒動をしゃぶるように利用し尽くした上にこれですよ。おかげでエレギオン・グループはさらに巨大化し、トップのアッバス財閥に匹敵すると見られています。
「アッバスの方はかなり損失出してるみたいやもんな」
「あそこは規模こそ大きいけど、中枢機能の支配方式が複雑すぎるから、こういう突発事態に弱いのよね」
そうそうミサキもシノブ専務も三十階の住人になっています。だからベッドルームが四室作ってあったそうですが、とにかくユッキー社長が嬉しそうです。ユッキー社長にすれば毎日が女神の集まる日みたいで嬉しくて仕方がないみたいです。
住んでみて初めて知った事もあります。とにかく出入りが極度に制限されているところで、掃除する人も入っていないのです。でも、家の中も庭もチリ一つないぐらい綺麗に掃除されています。ミサキも掃除当番ぐらいやらないとと思ったのですが、
「掃除機はないのですか」
「あらへんで、ホウキとチリ取りや」
「モップとかは」
「あらへん、雑巾とバケツ」
えっと思ったら、
「住むんやから見ときな」
目が丸くなりそうでしたが、ホウキとチリ取りが勝手に部屋中を掃除して回ります。雑巾もそう。庭もまたそうです。
「これって、もしかして・・・」
「あの頃できたことは、今でも出来るってことや。仮眠室の間取りも覚え込んでもたから、見んでも出来る」
そうだった、そうだった、一撃誕生秘話はホウキとチリ取りからだった。あれを今でもやってるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます