着陸迫る

 私は霜鳥梢、京都外大仏文の一回生だけど、休学して今はエレギオンHDの常務。そんな年齢と経歴でいきなり常務なんてなれないのだけど、霜鳥梢は香坂岬の続きということでなってます。この辺はコトリ副社長が先例を作ってくれたからラクでした。


 それにしてもナレーター役は久しぶり。パリのナルメル戦以来かな。あれから三十一年だものね。今回の女神の仕事はなんと対エラン戦。もう二度とないと思ってましたけど、またあるとは作者もヤキが回ったのかも。


 それにしても本社ビルから見るポートアイランドの光景が三十四年前とそっくりなのは笑っちゃいます。そりゃ、もうビッシリの人、人、人。食事をとるのも大変で、三十三階や三十二階のレストラン街だけでなく、三十一階の社員食堂にも長蛇の列。


 コトリ副社長は前の時と同じ、いやそれ以上の規模で駐車場に仮設食堂街を作り、そこもまた大盛況。だって、本社への自動車通勤禁止令を出してまでスペースを確保してるのですもの。チャッカリされてます。


 前回と様相が少し違うのは、集まってる各国の代表ランク。前の時は外相クラスでしたが、今回は首脳クラス。アメリカのジョーカー大統領を始めとして、中国の劉主席、ロシアのメンデルスキー大統領、EUのブラゼル代表・・・国会も自然休会状態で、岡川首相以下の政府も神戸に引っ越し状態になっています。


 それだけのメンバーが集まると、緊急国際会議の二の舞が当然のように起ります。あの時は米中露の三首脳が喧嘩別れして途中帰国してしまい、スッタモンダの末、決議されたのは宇宙船が着陸する国が全権代表を選ぶとなってしまっています。この決議は事後ではありますが、米中露の三首脳も了解しています。三人の思惑は、


『宇宙船が着陸するのはどうせ我が国』


 こう思い込んでたようです。ところが着陸は神戸。三人はかなりどころでない強硬さで岡川首相に談じ込んだようですが、


『小山社長に既に地球全権代表を委ねており、私ではどうしようもない』


 この一点張りで逃げたようです。それならばとユッキー社長に談じ込んできました。ユッキー社長は米中露三首脳と会談。冒頭からジョーカー大統領は、


「たかが民間人に地球全権代表をさせるのは認められん」


 この意見に中露の首脳も同意したのですが、


「緊急国際会議では宇宙船着陸国が地球全権代表を出すと決議されておりますが、誰がとは限定されておりません。これはあなた方も了承されております」

「そんなものは常識問題だ。そんな先例は・・・」

「いえ、先例もあります。前回もわたしが全権代表です」


 ユッキー社長は岡川首相から脅迫まがいの交渉の末に、フリー・ハンドに近い権限を委ねられています。


「そもそも通訳なしでどうやって交渉をされるのですか」

「それは、小山社長が・・・」

「わたしは全権代表以外の条件はお受けしません。ジョーカー大統領、わたしは単なる通訳などしないと言っているのです。聞こえましたか?」


 ふと見るとユッキー社長の顔の怖いこと、怖いこと。


「わたしは言ったことは必ず実行します。ジョーカー大統領ならよくご存知かと」


 ジョーカー大統領の顔も真っ青です。いや、劉主席もメンデルスキー大統領もです。そりゃ、ユッキー社長の怖い顔の睨みなんか経験ないでしょうし、あんなものいくら経験したって慣れるものではありません。


「それでも・・・」


 そのときにユッキー社長はさらに怖い顔になられ強烈な睨み、同席していた岡川首相の股間は濡れてます。いや四人ともそうです。それだけでなく便臭も・・・


「これで話は終りです」


 あそこまでやられるとは。


「社長、ちょっとやり過ぎでは」

「あの手の連中はあれぐらいしないとダメ」


 これは各国の代表団が国際会議でもそうです。ここでも満場の各国代表からの意見が乱れ飛びましたが、すくっと立ち上がったユッキー社長は、


「すべてはわたしに委ねて頂きます。異議は認めません」


 それまで騒然としていた会場が水を打った様に静まりかえり、物音一つしない状態になってしまいました。米中露の三首脳も固まってました。まさに威風堂々、あれこそ首座の女神の本領とミサキも見直したぐらいです。


 そうそう、これはミサキの方が驚いたのですが、ローマ教皇の訪問までありました。教皇の訪問自体が驚きですが、もっと驚いたのがその随員。教皇の訪問の後でユッキー社長と密談したのですが、


「観光旅行か」

「まあな、そうしても良い協定になっている」

「関西のホテルはどこも満員だろうから、東京方面にした方が良いぞ」

「みたいだな」


 この馴れ馴れしい会話になるということは、


「今度も悪いな」

「ローマでは無理だろう」

「そういうことだ。これでも感謝してるのだぞ」

「素直に受け取っておこう」


 その枢機卿が部屋を出て行った後に、


「あれは・・・」

「あいつも義理堅いところがある。もっとも心の底ではなにを考えてるのかわからないけど」


 やはりユダでした。まさか、エレギオンの女神が倒れた時に乗り出すつもりだとか。


「状況によっては動くかもしれないけど、単純に教皇護衛でしょ」


 教皇も宇宙船着陸までおられるみたいです。というか、世界のVIPが集まったまま状態になったので、ポートアイランドの混雑に拍車がかかっている感じです。ポートアイランドだけではなく、神戸も大混雑で、ポートライナーもすし詰め状態。


「ミサキちゃんも今回は正式の副代表ね」

「どうやって空港まで」

「そりゃ、白バイ先導になるわ」


 前回の時に婦人警官に化けて、前日から空港ビルに潜り込んでいたのと比べるとエライ違いです。そうそうミサキも三十階に住んでます。コトリ副社長も一緒ですが、


「アカネさんはどうしてメンバーに?」

「シオリちゃんは、なんとかして女神にしたいみたいやねん」


 アカネさんのフォトグラファーとしての才能は傑出しているそうで、主女神が宿るシオリさんでようやく対抗できるぐらいだとか。あれだけの才能を一代で終わらせるのは惜し過ぎると。


「そんな人をさらに神にしたら」

「シオリちゃんは、そうなったアカネさんを是非見たいってさ」


 ただユッキー社長もコトリ副社長も当然のように反対。


「もう一人マドカさんもいますが」

「あれはそのうち話すけど、ややこしいから少し遠慮してもらってる」


 ミサキのいないうちに、かなりややこしい女神の仕事があったようです。三十階は外とは別世界で静かなものですが、いよいよ明後日にはエランの宇宙船が着陸します。全世界が注目の瞬間になります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る