地球周回軌道到達
ついに宇宙船は地球の上をグルグル回り始めた。日本でも非常事態宣言が出されて、自衛隊が街にも配備されるようになってる。
「ツバサ先生、どうして降りて来ないんでしょう」
「まずは情報収集だろう」
なるほどね。宇宙船は二十六年前にも来てるけど、その時の宇宙船は神戸に保管されたままだから、エランが持っている地球の最新情報は三十四年前のものになるものね。まずはその時と違いの確認か。
「二十六年前の宇宙船がどうなったかの情報も確認してると思う」
ふむふむ、どんな侵略計画を考えてたかは不明だけど、あれだけの武器を持ってたきてたんだから、あんなにアッサリ捕獲されたとは考えないだろうな。可能性だけなら地球を征服とまでいかなくても、日本ぐらい占領して頑張ってるぐらいを考えたっておかしくないもんな。
「それと友好使節であれば、地球側が前の時に勝っていたとしても、かなりの損害が出ているだろうから、敵意がどれだけ残っているかの確認も必要だろう」
そっかそっか、第二次宇宙船騒動の時はコトリさんがあっさり片付けちゃったけど、あれが自衛隊相手なら、リアル・パニック映画の戦闘シーンが神戸で展開してたわけだ。なにしろ神戸空港から六甲山を撃ち抜くような強力な武器を乱射されたら、人もいっぱい死ぬだろうから、地球だって警戒を越えて、手ぐすねひいて待ち受けてると考えてもおかしくないか。
とはいえ、街の気分はドンドン重くなってる。そりゃ、上から見ろされて気分がイイ訳ないものね。テレビもネットも宇宙船の現在位置の表示合戦になってるよ。アメリカも凄いことになっていて、主要空港には米軍が貼り付きで警備に当たってるみたい。この辺は中国もロシアも同じ。日本は・・・野党が反対でそこまでやってない。まあ、この辺はやるだけ無駄も一理あると思う。
『コ~ン』
今日も女神の集まる日。来るのはイヤだけど可愛がってもらってる。今じゃミサキさんとも、シノブさんとも仲良し。この四人の関係だけどエレギオンの四女神の序列以外のものもあるんだよね。だってだよ、三座のミサキさんが常務で、四座のシノブさんが専務だもの。
「それはね、三座と四座の差は神になった順番だけしかないからよ」
なるほどで、ふたりがコトリさんを呼ぶ時の差みたい。ミサキさんは、
「コトリ副社長」
だけどシノブさんは、
「コトリ先輩」
これは小島知江・結崎忍・香坂岬時代の入社時期の差みたいで、シノブさんの方が早かったから、ミサキさんの先輩の関係でイイみたい。なおかつこの関係は、宿主が変わり、宿主の実年齢が変わっても不変みたい。それはともかく、
「エランから連絡があったわ」
そんなものどうやってと思ったけど、さすがはエランでスマホでつながるんだって。どうなってるかはわかんないそうだけど、
「料金請求がどうなってるかも不明なの」
そりゃ、請求しようがないだろうけど。
「官邸に連絡したら、認めてくれた」
これは全権大使として交渉にあたること。何しろ、それ以外は一切受けないとしてたみたいだから、官邸も折れるしかないかも。
「神戸に降りてくる予定」
それは堪忍と思ったけど、どうやってと聞いたら、エランに神戸空港以外での交渉に応じないというか、他ならユッキーさんが出席しないと言われて認めたみたい。
「でもこれで、エランは友好使節の可能性が高まったわ」
どういうことかと言えば、侵略意図なら神戸なんかに着陸しないだろうって。言われてみればそうで、日本を占領する気なら羽田ぐらいに降りてきて、まずは首都東京の占領を目指すものね。
「神戸に来るのが決まったから、エレギオンの本社機能は東京に移すわ。シノブちゃん、任せたわよ」
「お任せ下さい」
これはアカネにもわかった。神戸空港に宇宙船が降りるとなると、本社のあるポートアイランドが使い物にならなくなるものね。先手を打って本業に支障が出ないようにするつもりだろ。そのためにも女神が必要だったんだ。
「コトリ、今度の交渉はここで留守番しといて」
「なんでやねん。前と一緒でコトリも行くで」
「いや、二人一緒は避けよう。共倒れになったら大変よ」
「だったらコトリが行く。ユッキーは後ろを固めといて」
ユッキーさんは宛然と微笑んで、
「今のわたしとコトリなら、コトリが生き残らなきゃいけないわ。わたしが後方にずっといたのは、主女神を護持する使命があったため。でも、その使命は終わったとして良い」
「そやからいうて、コトリが後ろにならんでもエエやんか。コトリが前でユッキーが後ろは古代エレギオンからの伝統やんか」
そしたらユッキーさんの顔が厳しくなって、
「コトリには使命がある。コトリは三座と四座の女神を守らなければならない。これはコトリの生がある限り続く。ミサキちゃんにはついてきてもらうけど、わたしの命に代えても必ず助ける。後のエレギオンはコトリに託す」
「ユッキー・・・」
「娘を守りなさい」
えっ、娘って。そっか、三座と四座の女神は次座の女神が産み出した分身なんだ。次座の女神は子どもを産めないけど、その代わりに三座と四座の女神を娘と思ってるんだ。だから生き残って守れって。
それとユッキーさんは言わなかったけど、アングマール戦の時の後悔もある気がする。凄惨な前線の指揮を次座の女神に執りつづけさせたことを。たぶんだけど、ユッキーさんが前線に出ると言うのをコトリさんは、
『首座の女神の最大の使命は主女神を守り抜くこと』
こう言って退けてたに違いない。
「そんなに心配しなくても、いざとなれば金縛りをかけて逃げれるよ。ミサキちゃん抱えてジャンプしてもイイんだから」
「そりゃ、そうだけど」
ここまで宇宙船対策は余裕というか、遊んでる感じがあったけど、ちゃんと考えてるんだ。この二人が考えてるのは最悪の事態が起った時の回避策。首座の女神の力があれば、エランとて敵わないと思うけど、それでも不測の事態が起らないとは言えない。
起った時に最悪のケースは、首座と次座の女神を同時に失うこと。アングマール戦では、前線の次座の女神が失われても、後方の首座の女神がいつでも取って代われる体制で戦い抜いてたんだ。
女神の招集といい、二人の体制といい、今度のエラン戦は相当の覚悟で臨んでるのがよくわかる。もっとも、これだけシビアな話をしながら、コトリさんはワインをラッパ飲みしてるし、ユッキーさんはビールを浴びるように飲んでるけど。
「ところでユッキー、エランの狙いはなんやと思う」
「今回は難しいね。放射能廃棄物やシリコンじゃないと思うけど」
「そこはコトリも同意。女の線も薄いやろ」
「たぶんね」
ユッキーさんは少し考えて、
「地球移住の線は残るよね」
「うん、アラの話からすると、相当エランは荒れてそうやからな」
「人類滅亡兵器の影響は」
「聞いてみんとわからんけど。来たからには生き残ってるんだけは間違いない」
ここでツバサ先生が、
「前に教えてもらった技だけど。練習したいんだが」
「アカネを練習台にするのはやめて下さい」
そしたらユッキーさんが、
「アカネさん、あんなものの練習台になったら死んじゃいますよ。シオリ、危険すぎる技だから、ぶっつけ本番にして頂戴。下手すれば、神戸空港ごと吹っ飛びかねないし」
なんじゃ。それって思ったけど。なにかと思えば一撃のこと。
「あれは今でも出来るのですか」
「もちろんよ、最近でも使ったことあるし」
女神どもの『最近』は注意してないと危ないんだけど、なんと四十年以上前の『最近』だって。
「いつ降りて来るのですか?」
「ちょうど一か月先。これから政府との打ち合わせで忙しくなるわ」
翌日のニュースにアカネはぶっ飛んだ。ユッキーさんが記者会見を開き、エランからの連絡があり、自分が地球全権代表になったこと。エランの宇宙船が降りてくるのは神戸空港であること。さらに降りて来るのは一か月後であることを発表しちゃったんだ。
翌日から神戸は大変なことになったんだよ。そりゃ、世界中の報道機関が続々と集結し、さらに野次馬の大群が来襲。神戸のホテルは一瞬で三ヶ月先まですべて満室状態になったそうな。ツバサ先生に聞いたんだけど、
「ユッキーさんは、どうして記者会見で発表しちゃったのですか」
「うむ。とりあえず地球全権代表を既定事項にしてしまうためだろう。政治家は土壇場で制限を付けたがるからな」
なるほど、なるほど、
「もう一つは神戸の景気振興じゃないかな。これだけ集まりゃ、カネも落ちるし」
そりゃ、神戸だけじゃなくて、東は大阪どころか京都や奈良までホテルは満室になったって話だし、西だって広島まで満室って聞いてる。
「もう一つあって、三十階から神戸空港に行きたいからだそうだ」
「はぁ?」
普通にやれば神戸空港だけでなく、ポートアイランドの住民もすべて避難させるぐらいはやりかねないって。神戸市民にだって避難勧告が出されるはずよね。ところが先にそんだけ人が集まってしまえば、せいぜい神戸空港だけの立ち入り制限になるはずだってさ。
「ユッキーが言ってたよ、
『ここを追い出されたら、通うのが大変になっちゃうじゃない』
だってさ」
う~ん、女神の考えてることは、ようわからん。ようわからんけど、神戸が大変な騒ぎになったのはわかる。宇宙船見物のためにポートアイランドに野宿するのもテンコモリ出てるみたいなのよ。
政府は宿舎対策で完全に後手に回ったみたいだけど、かなりどころでない強引さでポートピア・ホテルを確保したみたい。神戸空港には各国の要人が次々に飛来し、国際会議場で会議やったり、個別会談が連日報じられてる。
こうなってしまえばポートアイランド閉鎖は無理。これは建前が友好使節となってしまったのもあって、臨時法が国会で可決できなかったのもあったみたい。それにしても神戸は盛り上がってもオフォス加納はヒマ。
ヒマなもので、今週だけでも金ダライに四回引っかかった。だって、ある部屋でやられて、もう無いと油断していたら二個目があって、これでオシマイと思ったら三個目・四個目が仕掛けられてたんだ。うん、仕事がヒマなのは良くないと思った。
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