ハッピーエンドは訪れない
あきかん
魔都ネオサイタマから来た女
「ミルクをちょうだい。」
サティスファクションタウンの飲み屋で1人の女が場違いな注文する。
「お嬢ちゃん。ここはそんなお子様が飲むものは置いてねえよ。」
店主は皮肉混じりにこの女を罵る。しかし、この女には通じなかった。腰に携えている刀を握る。
「それなら、満足させてもらおうか。」
喧騒に包まれていた飲み屋が静まる。この街でこの言葉の意味を知らぬ者は既に墓で眠っている。
「冗談でも笑えねえよ。いや、もう引き返せねえぞ。」
店主はそう言うと何処かへ電話をし始めた。店内の客達はこの女に注視しており、誰もが酒を飲むことすら忘れている。
「場所はこの店の前の通り。時刻は夕時。逃げられると思うなよ。」
「伝言ありがとう。明日からこの街は私の物だ。」
女はそう告げると店を出ていった。
「なんなんだ?あの女は。」
店主は思わずそう呟いた。もはや誰もが挑戦すら諦めた、魔王神崎ひなた19歳JKとの決闘にあの女は挑んだのだ。
サティスファクションタウンは荒野の中に佇む街である。通りを抜ける風は砂ぼこりを巻き上げる。その為、多くの者はポンチョを纏い砂ぼこりをやり過ごしていた。決闘に挑むこの女も同様である。
ネオサイタマからやって来た女、フジワラは情報屋と並んで通りに立っている。
「本当にあの神崎ひなた何だろうな。間違いだったらお前を切るぞ。」
「あの神崎ひなた以外に魔王と呼ばれるに値する神崎ひなたがいるのかい?それならそれでお目にしたいよ。」
情報屋は呆れたように答えた。時は夕刻。答えはもうすぐわかる。
シーシードーレー
レードーシーラー
ソーソーラーシー
シーッララーー…
何処からか喜びの歌のメロディが聞こえてくる。
「来た、来た、来た。魔王が来たぞ。」
「もう良いだろ。逃げるぞ。ここじゃ巻き込まれる。」
回りの野次馬が騒ぎだす。通りの対面側からリコーダーを吹いているセーラー服の女子高生が歩いて来た。神崎ひなた19歳JKである。
「ドーモ、サイタマ=フジワラです。」
「神崎ひなた!!お前を殺しにきた。理由はわかっているよな。」
フジワラはそう叫ぶと同時にポンチョを脱ぎ捨て刀を抜く。そして、ニンジャに変身した。
ニンジャソウルに当てられた人間は恐怖で我を失う。古事記にも記させれているニンジャの脅威はもはやDNAに刻まれているのだ。しかし、サティスファクションタウンの住人は恐怖を懐いているが正気は保っている。何故ならば、眼前の神崎ひなた19歳JKの恐ろしさを身を持って知っているからだ。ニンジャに比肩する、もしくはそれすら凌駕する神崎ひなた19歳JKの実力が今明かされる。
「先手は私がもらう。」
神崎ひなたはそう告げると上級魔法を展開した。詠唱を破棄した訳ではない。ここへたどり着くまでに吹いていた喜びの歌が詠唱となっていたのだ。
「クリムゾン・ヘルフレア」
神崎ひなたがそう告げると、眼前へと現れた火球が地獄の業火へと変わり通り一帯を焼き付くした。
フジワラは上空へと逃げた。巻き込まれた住人の阿鼻叫喚が響く。
「忍法カマイタチ!」
フジワラは刀を振るうと、その斬撃は真空の刃となり神崎ひなたを襲う。しかし、このジツは神崎ひなたには通じなかった。神崎ひなたの目の前に展開された魔法の盾により弾かれ霧散した。
フジワラは着地した。それと同時に地面が割れ、そこから鉄砲水があふれフジワラに襲いかかる。いくらニンジャと言えども回避不能のタイミングであったが、何とか急所は外す。つかさず神崎ひなたへと飛び掛かり切りつけた。
しかし、神崎ひなたはこれを回避する。自身に魔術を当てることで後ろへと下がる。
「魔降雷!」
神崎ひなたが落雷を呼ぶ。直撃は避けたフジワラであったが、先の鉄砲水で濡れた地面から感電した。
一見するとフジワラは押されているかに思える。しかし、彼女は自身が有利であると確信していた。
「もうそろそろ魔力切れじゃない?ひなた。」
神崎ひなたは顕現した魔法やそれ意外にも多種多様な上位魔法を展開していることだろう。ならば、いくら無限とも思える魔力を持つ最上位の魔導師だとしても魔力が尽きていてもおかしくはない。
「そうよ。もう魔力はゼロ。そして、ここからが本番。堪えられるかしら、藤原埼玉(敬称略)。」
未だ夕刻であるはずなのに辺りが闇に覆われる。
「漆黒の帳が降りし時、冥福の扉は開かれる。舞い降りろ闇よ。ワンハンドレッド・アイズ。」
闇から目が浮かぶ。1つ2つ3つ4つ…。数えるのも馬鹿らしくなるほどの数の目がフジワラを睨む。
何故、魔力切れで魔術が行使できるのか。この魔術の効果は何か。フジワラは思考に捕らわれ初動が遅れた。そして、闇の帳は開けて黄昏の世界が甦る。
「埼玉(敬称略)、この街ではハッピーエンドは訪れないのよ。」
神崎ひなたは倒れたフジワラに語りかける。しかし、フジワラの反応はない。処刑人が気を失って倒れたフジワラを何処かへと運んでいった。
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