第22話 死の真相
春野みはる。俺が中学3年生の時に事故で亡くなった少女の名前だ。彼女と俺は直接的な関わりはほとんど無かったが同じ学校。ましてや同じ学年だったので彼女が交通事故で亡くなったということは知っていた。けど、何度も言っているように彼女は事故で亡くなったはずなのだが.......
「事故じゃなかったのか.......?」
「.......事故ではあったよ」
「?」
「でも、みはるは死なずにすむことが出来たの.......私があの時にちゃんと手を差し出してたらみはるは死ななかったの.......」
いのりはまたそこで黙り込んでしまう。今の話から察するに春野さんはいのりの目の前で交通事故にあってしまったのだろう。手を差し出していたらというのは、いのりが彼女の手を引いていたら彼女は事故で死ぬことは無かったと言いたいのだろうけど......。
「なんでいのりは手を出さ無かったんだ?」
「.......あの日は」
そう言っていのりは何かに耐えるようにもゆっくりとだが俺にあの日のことを話聞かせてくれる。
⿴⿻⿸
「やったよ!! 私達が優勝だよ!!」
「うん!! 信じられないよ!!」
そう言って私とみはるは周りの目なんて気にせずにコートの真ん中で抱きしめ合う。これは私とみはるが中学1年生の頃の話だ。
私とみはるは私達の通う中学校のテニス部の1年生の中ではダブルエースだった。私とみはるの実力は拮抗していたからどっちが真のエースなのかと言ってよく競い合ったりもしたけど私達が最も得意とするのはダブルスの試合だった。私とみはるがペアで試合に出ると市内や地方戦なら負け無しだった。さすがに県大会まで行くと私達より上手い人はいたけど、それでも上位の成績は残していた。
その後も大会では私達は好成績を残していった。入賞して表彰台に登ることにも少し慣れて来た頃には1年が経過していて3年生にとっての引退試合も終わった。
「えー、今日の大会をもって3年生は引退となるので新しい部長、副部長を発表しようと思うけどこれは前部長、前副部長に発表してもらう」
「はい。それでは、私の跡を継いでもらう副部長は.......涼風いのりちゃんです」
「えっ!? 私ですか!?」
「うん。いのりちゃんなら大丈夫だから自信もって頑張ってね!」
こうして私は副部長となった。驚いて見せたものの内心ではやっぱりと思っている自分もいた。テニス部の部長副部長というのは実力で決まる。なら、部長は間違いなく.......
「次は部長ね! 私の跡を継いでもらう部長は春野みはるだ! 私の跡を継ぐんだからしっかり頑張ってよ!」
「は、はい! 精一杯頑張ります!」
私の予想通り部長はみはるになった。テニス部の部長副部長は実力で決まる。要するに私はみはるより実力が下だという風に見られていたということだ。そう思うと少しばかり悔しくもなるが私はみはるのことを認めているので悔しいとは思うも悲しくはなかった。
3年生達が引退してみはるが部長、私が副部長としての新体制としての部活動が始まるも今までとはそんなに変化は無かった。考えてみれば当たり前の話でもある。部長副部長が変わったからと言って練習メニューなんかは変わることは無いのだから。
それから半年もすると私達は3年生になり1年生の後輩達がテニス部に入部してくれる。そして、その中にはすごく上手な子がいた。彼女の名前は伊藤沙也加。
「えっ!? すごく上手だとは思ってたけど沙也加ちゃん全国大会に行ったこともあるの!?」
「はい! ですけど、小学生の頃の大会なので中学生の出る大会なんかとは規模が全然違いますけどね」
「いや、それでもすごいよ! ねっ! みはる!」
「うん! いやぁ、こんなに頼もしい後輩が入ってくれたなら部長としても鼻が高いね!」
「別にみはるはなにもしてないでしょ!」
「あはは.......バレちゃったか」
心強い仲間も増え、それからも毎日練習してたまに喧嘩しちゃうこともあったけどそれでもすぐに仲直りして毎日毎日テニス部のことばかり考えていた。そして、何事にも終わりはあるように私達は最後の大会も迫ってきていた。そして、この大会が全ての元凶となってしまう。
「あぁ、もうすぐ3年生にとっての最後の大会となる。なので、顧問である私としても皆さんにはいい成績を残して終わってもらいたいと思う。それでは、ダブルスのペアを発表していく」
そう言って先生は次から次へとダブルスのペアとなる生徒を読み上げていく。私はみはるとペアになる。今までもずっとそうだったのだがらと確信していたのだが.......
「.......次に伊藤、涼風ペア。最後に.......」
「「.......え?」」
今、先生はなんて言った? 伊藤、涼風ペア? 私はみはるじゃなくて沙也加ちゃんとペアだとそう言われたのだろうか?
「ちょっと、先生! 私はいのりとペアじゃないんですか!」
「そうだ。春野と伊藤だと今は伊藤の方が上だと判断した。これは勝つためなんだ。私としてもお前と涼風を一緒にしてやりたかったが勝つためだと思って諦めて欲しい。他に質問はないか? ないなら今日の部活はここまでとする」
そこで誰からも声が掛からないことを確認して顧問の先生はこの場を後にする。そして残ったのは気まずい空気。私も最後の試合ではみはると一緒に出場できると.......最後まで一緒に戦えるって思ってたのに.......。
今日の部活はここまでと顧問に言われてしまったので私達はテニスコートの整備をしてから部室で制服に着替えて下校する。私はずっとみはるの傍に寄り添っていたけどみはるはずっと下を向いたままだった。
「.......ごめん」
「え?」
「.......弱くて.......下手くそでごめん.......」
「みはるは下手なんかじゃないよ!」
「私が弱いから.......」
「そんなことは無いよ! 明日にでも先生に一緒に言いに行こ! 私は最後までみはると一緒にテニスしてたいよ!」
これは紛れもなく私の本心だった。沙也加ちゃんには申し訳ないけど私はみはると一緒に試合に出たかった。新人戦で優勝したあの日からずっと私はみはると一緒に試合に出場し続けていたのに最後の最後でみはる以外の人となんて.......私は本気でそう思っていたのだけど.......
「.......嘘つき」
「え?」
「だっていのり、先生がペアを発表した時何も言ってくれなかったじゃん.......本当は私なんかよりもずっと上手い沙也加ちゃんと一緒に試合に出たかったんだよね.......?」
「そんなことは無いよ! 私は最後までみはると」
「じゃあなんで! なんで何も言ってくれなかったの!」
「そ、それは.......」
「ほら.......やっぱりそうなんじゃん」
「違う!」
「もういいよ! ずっと私のこと見下してたんでしょ! 良かったね! 最後の最後に私から解放されるよ!」
「ちょっとみはる! 落ち着いて! 私はそんなこと思ってなんか絶対にないから!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!」
そう言ってみはるは走り出してしまう。みはるはずっと下を向いていたので信号なんか見えているわけもなくそのまま.......即死だったらしい。
私がちゃんとみはるに言葉をかけてあげれていたら.......先生がペアを発表した時にちゃんと抗議していたら.......みはるが飛び出して行った時にちゃんと手を差し伸べられていたら.......みはるは死ぬことなんて無かったのかもしれない.......。
゛みはるを殺したのは私だ ゛
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます