第6話 イケメンの種類

「「...................」」


 うん。これはあれだ。言っちゃいけなかった類のことだったみたいだ。なんか、いのりがしゃべらなくなっちゃたし、こっちをすごいジト目で見てくるあたり間違いない。

 けど、個人的にはこれはすごく意外な事ではあった。いのりって何だかんだ言っても可愛いのだ。別に幼馴染として贔屓しているとかいうわけでもなく純粋にそう思うのだ。俺も周りの人達からもいのりと幼馴染であることを羨ましがられることもあったくらいというか、俺といのりが幼馴染と知った男子の9割は確実に羨ましがるくらいには可愛いのだ。


「.......なんか、ごめん」

「別に謝らなくてもいいよ。私だって告白されたことなら何回もあったし、好きで誰とも付き合ってなかっただけだから。別に負け惜しみとかじゃないからね?」

「.......分かってるよ」


 そう言う割には中々な迫力で迫ってくるいのりに若干引きながらも恐らくこれは事実であるとも受け入れる。さっきも言ったがいのりは普通に可愛いので告白の2回や3回は絶対にされているはずだ。というか、俺の友達がいのりに告白して撃沈した。

 その際に好きな人がいるからと言って断られたらしいが、その真偽は未だに分かっていなかったりする。

 それから俺といのりは、何となく気まずい空気のまま俺といのりは料理を皿に盛っていき、指定されていた席に戻っていく。


「さて、蒼空」

「は、はい」

「もう.......別に怒ってる訳じゃないんだからから普通にしてよ」

「.......分かった」

「よろしい。ということで、本題に入るんだけど蒼空って自分のことをイケメンだと思ったことが1度でもある?」

「あるわけないだろ」

「即答なんだね.......」


 そりゃ、即答にもなるだろうさ。自分のことをイケメンだと思っているやつがいたなら某アイドル事務所に所属でもしていない限りただの自意識過剰のナルシストだろう。もちろん、そうでない純粋なイケメンがいるかもしれないが少数派であることには違いないはずだ。


「ちなみに私は蒼空のことをイケメンだと思ったことは何回もあるよ?」

「!? .......やっぱりいのりの美的感覚は」

「おかしくないし違うから!」

「.......違うならイケメンだと思ってないよな?」


 一瞬でもいのりに俺がイケメンだと思ったことが何回もあるという発言にドキッとした俺が馬鹿だった。上げて落とすとはまさにこの事であろう。


「そうじゃなくて! 私が言いたいのはイケメンだと言っても色々な種類があるんだってこと!」

「イケメンの種類?」

「そう! 例えば性格がイケメンな人とかいるでしょ? みんな当たり前の事だと思っているけど、意外とそれを守れてない人が多いんだよね。例えばだけど、約束通りの時間にちゃんと来ているか、周りの意見に左右されることなく自分の意思を持って行動に移せるかみたいなのだね。性格イケメンの人は極端な話だけど顔が残念であっても内面を重視してくれる人にならモテるよ。女の人にモテるということは性格イケメンも立派なイケメンだっていうこと。蒼空ならこの性格イケメンにはすぐになれると思うよ」


 なるほど。さっきいのりが俺の事をイケメンだと思ったことは何回もあるというのはこの性格イケメンとやらの場合におけるイケメンであったということか。 

 性格イケメンと言っても単純に言ってしまうと当たり前のことがきちんと当たり前のようにできる人のことなのだろう。だから、たまにいいことをしたとするとそれをきちんと見てくれている人がいたとしたらその人からは好印象を抱いてもらえる。性格イケメンというのはこの好印象を抱いてもらえる頻度の高い人。つまり、日頃の行いがよろしい人のことを言うのだろう。


「確かにいのりの言う通り当たり前のことを当たり前の事のようにできる人って意外と少ないからなぁ」

「うん。だから、普通の人ならしないようなことでも進んでしたりすると周りからは良く見られるからね」

「まぁ、そうだったとしても顔がいいに越したことは無いだろ? 性格がいくら良くてもやっぱり、ユニークでユーモアな顔をしていたら無理だろ?」

「まぁ、そうだとしても蒼空なら大丈夫でしょ? 優香さんも言ってたでしょ? そこそこイケメンだって」


 あぁ、そういえば言ってたな。そこそこイケメンだって。そこそこ。別に根に持っているわけじゃないけどあの人も美容師という職に就いているなら社交辞令であったとしても普通にイケメンって言ってくれたら良かったと思う。そこそこって言われると、どうしても馬鹿にしているように思えないから.......。


「そこそこイケメンな俺が性格イケメンみたいに日頃の行いを良くしとけば俺はいいのか?」

「確かにそれだけでもいいんだけど、蒼空にはもう少し頑張ってもらいます!」

「俺に何をしろと?」

「まず大前提として今すぐに蒼空の顔をイケメンにすることは無理だよ。でもね、それに近づけることは出来るの!」

「.......せいけ」

「整形じゃないから!」

「それなら.......来世に期待みたいな?」

「違うよ! それだと、全部無駄になっちゃうし蒼空が死んだら私嫌だよ!? 私が言いたいのはさっきもイケメンには種類があるってこと!」


 あぁ、そういえばそんなこと言っていた気がする。そこから性格イケメンだのくだりが始まったんだった。まぁ、だからなんだって感じなんだけど。ここまで言われても俺はいのりが何を言いたいのか全く理解できないのだから。


「それで? イケメンに種類があるのがどうかしたのか?」

「どうかするの! ねぇ、蒼空。世の中にイケメンと言われる人達はいっぱいいるけどその人達における共通点って何個かあると思うんだけど何個か言ってみて」

「高身長、高学歴、金持ち」

「うん。それもそうなんだけどそれは蒼空が欲しいものだよね? 蒼空があげた3つが世の中のイケメンの共通点なら多分イケメンと言われる人達の8割がイケメンでなくなると思うよ?」


 な、なぜ、バレた.......。確かに今俺が言った3つは全て今の俺には無いものであった。身長も高校生男子の平均くらいより少し低いくらいで通っている高校の偏差値も平凡だし家が金持ちなんていうことももちろんない。


「蒼空に対する質問形式だといつまで経っても終わらなさそうだから言っちゃうけど私が言いたいのは基本的に世の中のイケメンと言われる人達の大半はオシャレに気を使っているということ!」

「あぁ、美容室でも言ってたな」

「そう! それでなんだけど世の中のイケメンの大半って実は顔だけ見るとそんなにイケメンじゃないことが多いんだよね」

「え? そうなのか?」

「そっ。それなら、どうしてイケメンと言われるのか。その答えはみんな雰囲気で誤魔化しているだけなの。例えば、今の蒼空みたいに髪の毛を整えるだけで大分印象が変わったでしょ?」


 確かにいのりの言う通り美容室に行く前と行った後では明らかに俺の纏う雰囲気は変わったと思う。鏡を見て自分自身でも誰? ってなっちゃうくらいには。


「分かってくれた?」

「あぁ。要するに俺はその雰囲気イケメンとやらを目指す訳だな」

「そういうこと! 性格イケメンで雰囲気イケメンっていう組み合わせは絶対にモテるからね! いくらイケメンでも性格が悪かったら最悪だからね。芸能人とかの不倫とかも結局は顔だけが良くて性格が悪いから起こってることだろうし」

「なるほど。それでオシャレに気を使うべく服を見に来たと」

「そういうことです! ということで、ご飯を食べたら覚悟しておいてね!」


 覚悟? 服を選ぶだけで何で覚悟なんているんだ? なんて考えがどれだけ甘い考えであったかこの時の俺は知る由もないのであった.......。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る