第16話 小さな恋の物語 その2

 「真一に!」


 「好きな人ができたー!?」


 部室の俺たちは驚きの声をあげる。俺と美海と志信が、真一のバイト先のファミレスに行った次の日の事だった。


 「みんな、声が大きい。」


 真一は俺たちを諫めるが俺たちの興味は尽きない。


 「で、相手は?この学校の生徒かな?」


優子が興味津々に身を乗り出して真一に聞く。


 「違う、バイト先の…大学生の人。」


 「あ、もしかして昨日…」


 美海が何かに気付いたように声をあげる。


 「あの人か。」


 俺にも思い当たる。というのも、昨日ファミレスでそのくらいの歳の人が近くを通るたびに俺たちのことを興味深そうに見ていたからだ。


 「多分、合ってる。道田さんって人。」


 「なんで誠知ってるの?」


 優子は不満そうに言う。


 「昨日美海と志信と真一のバイト先に行ったんだよ。そしたらそこのバイトのお姉さんが俺らの事スゲー興味津々に見てたから、多分その人なんだろうなって。」


 「私たちも見る!行こう!」


 優子は俺たちを引っ張り早速その人を見る気満々だ。しかし、真一が残念そうに言う。


 「今日、道田さん、休み。それに…」


 真一はその人から誤解を受けていることを俺たちに説明する。


 「真一が美海にねぇ。」


 琴美がニヤニヤしながら言う。


 「困ってる。とても。」


 「なんか、そこまで困られるとすごく複雑。」


 美海は納得いかない表情で言う。


 「まずはその誤解を解くことから始めたらいいんじゃないか?」


 俺の提案を難しい顔をして聞いていた優子が制止する。


 「違うね、それはチャンスなんだよ!向こうも手伝うって言ってくれてるんだったらそれを利用しない手はないね。」


 優子は瞳の奥を輝かせ言う。


 「題して!恋を手伝ってもらいながら仲良くなっちゃおう作戦!」


 優子がビシッと指を突き立てながら言う。


 「お前、それ、アニメのパクリだろ?…て、いだだだだ」


 冷ややかに言う俺の頬を優子はつねり上げる。


 「余計な事を言う口はこれかなぁ?パクリとは心外ですな。許しませんよ。」


 もうそのセリフすらもパクリだとは言わせない迫力がある。


 「でもさ、良いんじゃないかな。このままだったら真一の恋になんの発展もないよ。」


 琴美は優子の案に賛成のようだ。


 「なんにしても、一度相手がどんな人か見てみないとねぇ。その人、次はいつバイト入ってるの?」


 琴美が真一と道田さんのシフトについて、詳しく聞く。


 「ちょうど明後日にその人だけがシフト入ってるじゃない!明後日行きましょう!」


 優子と琴美はがっしりと腕を組んだ。


 「あ、誠と美海は来ちゃだめだよ。それと、霧崎先輩も来てくださいよ。先輩にもちゃんと部活してもらわないと!」


 そういうと今までニコニコ俺たちのやり取りを黙って聞いていた霧崎先輩は今日初めて口を開いた。


 「ねぇ、結城君と深川さん付き合いだしたの?私、知らなかったなぁ。もしかして、知らなかったの私だけなのかなぁ?私、そういうの嫌だなぁ。もうこの部活して一週間は経つのにおかしいよねぇ。」


 ニコニコした表情は一切変わっていないがその瞳の奥にはどす黒いものが渦巻いている。


 その後、俺と美海は正座をさせられ、文化祭の経緯と俺と美海が未来からもう一度高校生をしていることを説明する羽目になった。


 「そんなことが…ありえるの?」


 「いや、まぁ、自分たちでも不思議なんですが、ありえたみたいで…」


 俺がしびれてきた足をモジモジさせながら言うと隣の美海はもう限界のようで苦悶の表情を浮かべている。


 「確かに、そんなこと、他の人には言い辛いのかもねぇ。」


 「ええ、ですからもうそろそろ、足を崩してもよろしいですか?」


 俺は霧崎先輩にお伺いを立てる。美海もそれには賛成のようで顔を上下にぶんぶん振っている。


 「でも、付き合いだしたこと位はいつでも言えたよねぇ。」


 そういうとまた先輩はにこりと笑う。ダメだ。この人はまだ許していないらしい。


 優子と琴美に助けを求める視線を送るが無理無理と顔を左右に振るばかりで期待はできない。


 「次から私の事仲間外れにしたら許さないんだからね。」


 そういうと俺と美海はようやく解放される。俺がしびれた足を擦りながら美海に目を遣ると美海は足を延ばした状態でビクビク痙攣していた。どうやら足の痺れがピークに達していたらしい。


こうして、真一の恋は加速していくのだった。

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