第15話 小さな恋の物語 その1
文化祭も終わり数日が経った。文化祭の夜、2回目の高校生活であることをカミングアウトした誠と美海は付き合っている。恋人との青春。正直羨ましい。
というのも俺には今好きな人が居る。でも、俺は昔から人に言葉を伝えるのが苦手だ。
「細田君、休憩入ってくれていいよ。」
文化祭明けの久々のバイト。俺は夏休みからちょくちょくバイトをしている。ファミレスの厨房だ。そのバイト先の店長が休憩を促してくれる。
俺はそれに頷くと、持っていた冷凍デザートを皿に乗せ、休憩室に向かった。
「よ、真一君、休憩かい?」
俺に声をかけたのは“道田 香織“さんだ。大学生でホールが担当だ。
彼女は煙草を揉み消しながら俺に椅子を勧めてくる。
「道田さんも、休憩?」
「うん。私ももうしばらくしたら出るからさ、ゆっくりしなよ。」
彼女はそう言いながら携帯を見る。こんな時、例えば誠なら上手な世間話の一つでもしているのだろうか。でも、俺はそういうの、苦手だ。
「真一君、今日久しぶりだよね。何かあったの?」
彼女は携帯から目を離すことなくいう。
「文化祭、学校の。」
そう言うと彼女は携帯から顔をあげる。
「なに、実行委員でもしてたん?」
「いや、部活。天文部だから。」
俺の言葉を聞き彼女の目が輝きだす。
「マジ!?真一君、天文部なの?意外―。スポーツとかやってるのかと思ってたわ。何?なんか作ったの?」
彼女は矢継ぎ早に言う。このペースで話されると俺は会話に入っていけない。
「プ、プラネタリウム。」
かろうじて言葉を絞り出す。
「マジで!?それって作れるものなの?真一君、スゲーじゃん。」
彼女は興奮し、俺の肩をバシバシと叩く。
「みんなで作った。部活の。」
「そっかー。部活って何人くらいいるの?可愛い子とかいるんじゃない?」
彼女が俺のことに興味を持ってくれていることは嬉しい。
「ご、いや、今は6人。可愛いとかは、わからない。多分、みんな可愛い。」
文化祭の後、ワンゲル部はなくなり、正式に霧崎先輩は天文部の仲間になった。放課後になると元ワンゲル部の三年の先輩達も遊びに来ている。
「じゃあ、男子は真一君だけ?ハーレムじゃん。」
俺は慌てて訂正する。
「も、もう一人男子いる。」
それを聞いた彼女はニヤニヤしながら少しいやらしい口調で言う。
「あら、じゃ、大変じゃない。真一君の意中の子も取られちゃうかもよー。」
残念ながら天文部に俺の意中の子はいない。なぜなら俺は今、目の前にいる道田さんに好意を抱いているのだから。
「い、意中の子なんて、居ない。それに…」
言いかけた時、不意に休憩室のドアが開けられる。
「道田、混んできたからそろそろ出てくれ。あと細田。なんかお前の友達来てるぞ。顔出してやったらどうだ。」
店長に促され休憩室を出る。先ほどの道田さんとの会話があったので心の中で女子でないことを祈る。
店内を見まわしてみると誠と彼の幼馴染の太田君がテーブルについていた。俺は心の中で胸を撫で下ろした。
「おお、お疲れ様。悪いな、仕事中に。休憩中だったんだろ?」
「お疲れ様。バイト、大変だね。」
誠と太田君はかわるがわる言う。
「問題ない。今日はここで、ごはん?」
「おう。最近、というより天文部に入っていろいろあって、志信とごはん出来てなかったからな。たまにはな。」
「それに、誠彼女出来たみたいだし、いろいろ聞きたいよねー。」
そう言いながら目を輝かせる太田君。
「ちょっと、二人だけで盛り上がるの禁止。」
俺の背後から声がする。
「美海、いやいや、今日は志信にもちゃんと美海の事紹介しようと思ってさ。」
誠がたじろぐ。
「真一、お疲れ様。ごめんね。誠が邪魔してさ。ほんと志信君と仲いいよね。」
美海はそう言いながら誠の隣に座る。
まずい、女子が居るところを道田さんに見られてしまう。
「俺、そろそろ厨房に、戻るから。」
「お、そうか、邪魔して悪かったな。頑張ってな。」
誠はそう言い、片手をあげる。美海と太田君もそれに続いて「頑張って」と手を振る。
厨房に入り、仕事に戻る。すると、どこからともなく道田さんが現れて俺の脇腹をつついて小声で話す。
「見たぞ見たぞー。あれが例の天文部のお仲間かー?男子二人いたじゃん、どっちなの?」
「あの、女の子が横にいる、背の高い方。」
そういうと道田さんはへぇーほぉーと声を出しながらホールを覗く。
「あの隣に居る子は彼女?」
道田さんにそう言われ、戸惑ってしまう。
「そ、そう。彼の彼女。」
その様子を変に受け取ったのか道田さんは俺の肩を叩く。
「そうかー。なるほどねぇ。意中の相手を取られちゃったのかー。」
彼女は盛大な思い違いをしたようだった。
「ち、ちが…」
「いいっていいって、そんな恥ずかしがることないって。いやー少年もたいへんだねー。」
俺の言葉を遮るように彼女は言うとうんうんと首を上下に振る。
「じゃ、お姉さんが真一君の恋のサポート役をしてあげよう!」
彼女は人差し指を突き立て、誇らしげに言った。
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