3章
不一致な亡霊 1
「……つまり、俺らのなかの誰かを疑ってるってことスか」
2年D組、岸川良二がそう口にすると、静かな一室の視線が僕にあつまった。
ゴールデンウィーク四日目。悪夢から始まったその日、僕を含む生徒数名が学校に呼び出されていた。
「あー、そのね? 岸川さん。これはあくまで行方不明者についての情報収集であって。決してあなたたちを疑っている訳ではないんですよ」
頭を掻いてそう言う刑事さんだが、僕に向けられた懐疑的な視線が止むことはない。良二も食い下がる。
「でも、動悸があるヤツは怪しいんじゃないスか。例えば――」
「この人殺しなんて呼ばれてるヤツとかね」
2年C組、甘坂彩菜が良二の意見を助長する。
僕は一瞥してから、無言で前に向き直った。
「ゴホン。じゃ、じゃあ君。ええと……御宇佐美くん。御宇佐美くんはどうだい? 行方不明になった二十九から三十日の間で、変わったところはあったかい?」
「特には。ゴールデンウィークですし、それ以前に面識もほぼありません。変わったところも見当が付きませんね」
僕がそう話すと、周囲からムッとした視線を感じた。
どうやら話し方がムカつくらしい。自分でもちょっと意識してたところはあるが。
「そうですか……では人物ではなく、環境でなにかありませんでしたか? 見慣れない車を見かけたとか」
「いえ」
影のことについて話せる訳がないし、僕はこの捜査に協力はできない。とにかく僕は行方不明に関わっていないことのみを伝えて、番を終えた。
「じゃあ次は……岸川くんだね? 君はどうだい」
「さっきも言ったとおりだ。先にいなくなったマサは知らないスけど、和広なら通話で話した。三十日の……夜十一時くらいだった」
「その渡辺和広くんの様子は?」
「取り乱すほどではなかったけど、なんか後をつけられてたみたいで。怖いから明日ウチに来てくれって」
「ふぅむ。渡辺くんのご両親は共働き、母親は出張に出ていて、父親は泊まり込みで職場。事件当時独りだったのは間違いない」
後をつけられていた?
それってやっぱり、そういうことなのだろうか。しのぎの影が何か関係している――いや、もはや影が連れ去ったと考えた方が自然だ。
「……」
手のひらの汗を、机の下で
神社ではじめて影と遭遇した夜、夜道で感じた恐怖が鮮明に思い出される。走っていなければ、僕はあの日捕まっていたかもしれない。
捕まったら、どうなっていた? 今話題になっている二人よろしく、行方不明になっていたのだろうか。
……いやまさか。
しのぎがそんなことをするはずがない。そもそも、しのぎには恨めしい相手なんかいないはずだ。誰かをさらうなどあり得ない。箇条の言うとおりしのぎが未練を持っていたとしても、それは僕にだけ向けられる恨みだ。ましてや、仲の良かった人の友人を襲うとは思えない。
そうは考えていても。
聴取を聞く僕は、嫌な汗をかいてしまうのだった。
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