再会するノイジー
九日晴一
1章
レンズ越しの雑音 1
その世界は、まるで水の中から見ているようにボヤけていた。
レンズ越しの浮遊感に何の疑問も抱かず、目前に広がる曖昧な景色に目を細める。
澄んだ水色を背景に、様々な色がまばらに広がっていた。
それが味の違った鮮やかさをほこる花々であると気づくのに、そう時間はかからない。風に吹かれ宙を舞う花弁を認識すれば、ここは名も知らぬ花が咲き乱れる丘であることが理解できる。
ピントを合わせるように景色をはっきりさせると、現実感のない世界をより受け入れる。やがて風の音が聞こえてくれば、足下にざわめく花の感触もくすぐったくなってくる。
ただ綺麗な景色を眺めているだけ。なのに、不思議なことに身体は多幸感に包まれ、いつまでもこうしていたくなる。
『――、ザ――』
気づけば、鮮やかな色の中に、一色増えていた。
先ほどまでは存在しなかった、明らかに相応しくない色。風に混ざって耳に届いたザザ……という雑音に意識を向けているうちに、視界に異物が入り込む。
黒い影だった。
丘の上に立ち、ぼうっと動かない。それが人のカタチをしているように見え、途端に世界に対する感覚が一変する。
相変わらずのそよ風は恐怖を煽っているように聞こえ、鮮やかな花々はこちらを惑わそうと囁き、雲ひとつない空は底なし沼に思えた。
顔は見えない。はずなのに、その影は間違いなく僕を見つめていると感じる。その証拠に、そいつはゆっくりと手をこちらに伸ばし、またノイズの音を吐いた。
『――だ、ず――げ――――』
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