決意の夜

日曜、午後11時。

空気が重く手足に絡みつき

毛穴からぶわっと汗が吹き出したような夜


目を閉じると私は人気のないプールに立っていた

私は私を感じたまま

私を見ていた


漫然と胸にこびりついた黒と

燦然と頭にさえかえった白


鼻の奥のほうに微かに残った痛みと

耳の奥の方でなにか反響し続けている感覚


私は私を突き落とす


冷たく透き通った水の中に

放り込まれて

溺れかけている

自分


自分だ、

自分なんだ


この目がはっきりと結んだ像は

まちがいなく、自分だ


ただ救いの手を待っている

自らの四肢を投げ出し

沈みゆく体に感覚を委ねている

自分


軈て泡も見えなくなったころ

私はおもむろにまぶたを開けた


汗臭い布団に仰向けになって

なんとなく寝返りを

なんとなく繰り返す

自分


「きっと僕が待っているのは『自分』なんだろうな。」


その淡白な感想は

なぜかとても重厚であったかくて

崇高なものに感じられた


この夜を

決意の夜と名付けよう。

そして私の心の一番深いところに

光らせておこう。

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