二十話 かわいそうな子

 



 バレてしまうのは嫌だった。

 隠し通しておきたかった。

 それはなぜか?

 理由は簡単だ。ここにいられなくなってしまう。

 自分という存在は良くも悪くもイレギュラーなのだ。

 それを理解しているからこそ、ただの病人でありたかった。

 ただの……。




「──おっと」


 軽く俯き、早足で部屋を抜け出したメニーは、前を見ていなかったことから途中で誰かとぶつかってしまった。あまり強くない衝撃に、相手が立ち止まっていたことを悟り慌てて謝罪を一つ。感じた気配に驚いて顔を上げる。それにより視界に映ったのは白、しろ、シロ。穢れなき純白が、視界を彩る。


「ぶつかっちゃってごめんね。僕はコトザ。キミは?」


 そう言ってにっこりと、穏やかとも和やかともいえる笑みを浮かべたのは、本当に真っ白という言葉がピッタリな青年だった。髪からはじまり、肌の色、纏う衣服と、彼を構成するもののほとんどが白。全てが全て汚れなき色で統一されており、それらはどこか神秘的だ。唯一違うのはその瞳の色くらいで、それが逆に大きな違和感となっているようにも感じられる。


 ゆるく細められた瞳は、赤く輝くルビー色。鮮やかなそれは血のようにも見えるが、されどそこまでおどろおどろしい空気は感じない。だが、不気味さはないにせよ、やはりどこか、恐ろしさは存在していた。

 言ってしまえばその恐ろしいは、畏れ多いといえるものだ。例えるならばリレイヌから感じ取れるもの、といえばわかりやすいだろうか……。


 白いまつげに縁取られた、獣のような形をした双眼。所謂アルビノ、と表現可能な容姿を目前、メニーはポツリと呟いた。「オトーサン」と。青年は軽く目を見張ると、やがて可笑しそうにくすりと笑った。


「僕がお父さんなら、お母さんは誰なのかな?」


「……リレイヌ様」


「ああ、リレイヌか。いいね。そういう家族関係なら大歓迎だよ」


 言って朗らかに微笑んだ青年は、「それはそうと」と話をそらす。


「急いでいるみたいだったけど、どこかへ行く途中だったのかな? それなら引き止めちゃってごめんね。道開けるから、行っていいよ」


 宣言通り。道を開けた青年に、メニーは無言の視線を向けた。じっと、穴が開くほど見つめてくる彼に、青年は「どうしたの?」と不思議そうに首を傾げている。

 メニーはゆるりと首を振った。そして、ぺこりと一礼し、止めていた歩みを再開。外に向かって軽く駆ける。


「……かわいそうな子だね」


 誰に言うでもなくポツリと紡がれた音は、駆ける少年には届かなかった。

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