十四話 解放と尾行

 



「……ぜってークロかと思ったのに……」


 ブチブチと文句を言いながら大股で歩くペペットを、アルベルトは追いかけていた。笑みを浮かべ、邪気なく笑いながら彼女と自分の間に挟まれるように閉じ込められた子供を見遣れば、特に文句を言うことも無く大人しく歩いているのがわかる。暴れる様子も、こちらに危害を加えるということもなさそうだ。これならさっさと目的を果たして屋敷に帰還できるだろう。

 アルベルトは微笑み、「そういうこともありますよね」と一言。ペペットから睨まれたので微笑みを返しておく。


「くそっ、折角主様に良いとこ見せられるチャンスだったってのに……おいテメェ! テメェが怪しい雰囲気醸し出してるのが悪いんだぞ! 反省しろ!」


「横暴ですね」


「ああん?」


「ふふ、いえ、ただの独り言です。お気になさらず」


 柔らかに笑い一言。


 人混みの多い道中で、三者はゆっくりと足を止めた。そうして約二名が己らの間に挟んだ子供に目を向ければ、子供は静かな笑みを携えたまま彼らを見返す。そうして頭を下げるでもなく、声を上げるでもなくくるりと踵を返し、その子はどこぞへと歩いて行った。目線だけでその背中を追いかけていたペペットが、腕を組み、眉を寄せて口を開く。


「……追うぞ」


 やはり何かが引っかかるようだ。


 アルベルトは微笑みを浮かべ、歩き出したペペットを追いかける。

 人の波をかき分けるように進む小柄な二人に気づいていないのか、子供はてくてくと歩を進め、やがて路地裏へ。すかさず壁際に身を寄せたペペットが、子供の消えた方向を静かに見据えた。しっ、と軽くジェスチャーをしてみせながら路地裏へと踏み込む彼女を、アルベルトは黙って追いかける。


 かつかつ、こつこつ。

 かつかつ、こつこつ。


 二人分の、独特な靴の音が鳴り響いていた。


「……あ?」


 暫く進み行き止まりへと辿り着いた頃、前を歩いていたペペットが疑問の声を小さく紡いだ。そうして駆け出した彼女の視線の先を追えば、そこに広がるのは赤、あか、アカ。

 真っ赤に彩られた大輪の花のような血液が、無惨にも切り刻まれた子供の体を、周囲を、彩っている。


「……この死に方……奴らが関係してるってことか……?」


 疑問を声に。口元に手を当て眉を寄せて思考するペペットの傍ら、穏やかに微笑むアルベルトは、恐らく一瞬にして絶命したであろう子供の亡骸を見て僅かばかり目を細めた。

 痛みがあったであろうに、子供の顔に浮かべられたのは穏やかな微笑。見開かれた目が狂気に染まっているのは、『あれら』が関わっているということを十分に示しているに違いない。


「……報告だな。一先ず」


 ペペットの呟きに同意を返す。

 そうして踵を返した彼らは知らない。

 放置された死体を、回収に来た者がいたことを……。

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