6-3
この島に流れ着いた少女は、目を見開いて固まっていた。
「リオ……これって、リオの住んでたところの通信じゃない? なにか、答えないと」
私が言うと、リオは我に返ったように、通信機にかじりつくようにして話しかけた。
「アキラ? もしかして、アキラか?」
見近い沈黙の後、絞り出すような声が聞こえてきた。
『……リオか? 本当に、リオなのかっ。無事、なのか?』
知り合いだったらしい。もしかしたら、さっき話していた家族の一人かもしれない。
「うん。元気で暮らしてる。他に生き残っている人たちがいて、助けてもらったんだ」
『今、お前がいる場所はわかるか?』
「昔の地図、ある? 七里島っていう名前の島だよ」
『ちょっと待て……あぁ、あった。遠いな。すぐに迎えに行けそうにない。燃料が足りないんだ』
「大丈夫だよ。ここは安全だから。それより、アキラ、なにやってるの?」
『俺、今な、〝政府〟の下で働かせてもらってるんだ。他の生き残っている人類コミュニティを探す仕事だ。この仕事をしてれば、お前が流されたかもしれない場所を捜索できるから。でも、よかった。もう駄目かもって思ってた。本当に生きてたんだな。よかった』
通信機の向こうで、彼が泣いているのが伝わってきた。
そこで、通信に混じるノイズが大きくなる。機械を触ったことのない私でも、この会話が、そう長く続かないことはわかった。
アキラは、急ぐように早口で聞いてきた。
『島には、何人いるんだ?』
「全部で四十人と、少し」
『そんなにいるのか。他の人たちに伝えてくれ。空港島は、生き残った人たちを受け入れる用意がある。いったん戻って、カーゴシップを動かせるように話をつけてくる。少し時間はかかるかもしれないけど迎えに行く』
「うん。わかった、待ってる」
『悪い。もう電波が限界みたいだ』
「アキラ、ずっと私のこと探し続けてくれたんだね。ありがとう」
『当たり前だ。俺たちは家族だろ』
その言葉と同時に、通信はノイズに埋め尽くされた。
もうなにも聞こえない。リオは何度か話しかけようとしたけど、結局、諦めたように私の方に視線を向けた。
「伊織……私、帰れるかもしれない」
いつも元気な彼女の目には、大粒の涙が浮かんでいた。
親友を抱きしめる。リオは私の胸に顔を押し付けるようにして泣き声を上げた。
だけど、私の胸には、彼女が家族と再会できるかもしれないという喜びと同時に、やっとできた友人が島からいなくなってしまうという不安が過ぎっていた。
彼女を百パーセント祝福する気持ちで抱きしめられないことが、悔しい。
リオはしばらく泣き続けたあと、真っ赤に腫れた目を擦りながら告げた。
「ねぇ、町のみんなを集めてくれないかな。話を、しなきゃ」
生まれ育った島が大きな変換点を迎えているのは、未来のことなんてぼんやりと考えているだけの私にだってわかった。
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