第12話

紗季さんのポイント詳細


 『17歳という年齢』によって、プラス17ポイント。

 『自殺』でマイナス17ポイント。

 『激しい恋愛』でプラス3ポイント。

 『成績優秀』でプラス3ポイント。


 トータルでプラス6ポイント。


「……なんかすごいな。激しい恋愛を……したんですか?」

 俺は訊いた。

「うん。したと思う。その結果失恋をして、私は死を選んでしまった」

 紗季さんが神妙な顔つきで言った。

「でもね、今は不思議なほど心が落ち着いてるの。一度死んで、ケジメがついたのかもしれない」

「そうですか……」

 激しい恋愛の末に自殺。一方で俺は風呂で溺死。えらい違いだ。

「タクヤ君のポイントは? どんな感じ?」

 紗季さんが、なぜか楽しそうにして言った。俺は説明をする。年齢によってプラス16。溺死でマイナス12。友情でプラス4。告白でマイナス3。ロリコンでマイナス1。トータルでプラス4ポイント。


「友情でプラス4って、なんかいいな。でも告白でマイナス3って何?」

「……連続で複数の人に告白したら、低評価になったみたいです。俺はそれなりに真剣だったんですけど」

 未だに納得がいかない。

「で……ロリコンなの?」

 紗季さんが遠慮がちに訊いた。

「いやいや! 違います! 小柄な人が好きっていうのはありますけど、俺、同年代以上にしか興味は無いですよ!」

 俺は少し焦りつつ力説して言った。紗季さんがそんな俺を見て、笑いをこらえている。

「で、ベリーハードを選ぶのに1ポイント使って、残りの3ポイントでユニークスキルを取りました」

 俺は言った。

「あ、ユニークスキルを取ったんだ。どんなスキル? よければ教えてくれない?」

 秘密にする理由もない。

「『放射能汚染無効』だそうです。レアリティはA-(エーマイナス)。今の所、使い所が全く分かりません」

「でもそれ、結構有用なスキルかもしれないよ。放射能で汚染されているエリアが、結構あるらしいから。この世界では」

 紗季さんが小さく頷いて言った。

「そうなんですか、全然知りませんでした。知らないうちに野垂れ死にする所でした」

「私もここに来て1ヶ月ほどだから、情報はそれほど得てないんだけどね」

「1ヶ月ですか? それでこの教会に、部屋を持つほどになったんですか。凄いですね」

 この人は相当賢そうだからな。

「それには私のスキルが関係していると思う。マップ選択後の5ポイントを使って、私はユニークスキル1つと、2つのノーマルスキルを取ったんだけど……」

 なぜか紗季さんが、ちょっと困ったような顔になった。

「ノーマルスキルから説明するね。まず1つ目が『幸運なスタート地点』。そのおかげで、スタート地点がここの教会だったの」

「え、マジですか! それはズルい、じゃなくて羨ましい。俺なんて廃墟のビルですよ? しかも街から離れてて、ゴキブリにも襲われて散々でしたよ……」

 つい愚痴ってしまった。

「私は……気が付いたら教会の真ん中に裸で立ってたの。ちょうどシスターたちがお祈りをしている所で。そこに突然現れたものだから、まるで神の使いみたいに思われちゃって。だから本当に『幸運なスタート地点』だったよね」

 紗季さんが笑って言った。でも裸だったのか。紗季さんみたいな綺麗な人ならアリだろうけど、俺だったら不審者扱いされただろうな。

「それで2つ目のスキルが『同性に好かれやすい』だった」

「はい?」

「女の人に好意を持たれやすい、というスキル。そのスキルのおかげか、教会のシスター達にはとても良くしてもらってる」

 スゲー。普通にずるい。

「もう万全じゃないですか。教会でスタートして、神の使いだと思われて? あとは好かれやすいって……」

 あまりの格差にちょっと腹が立ってきた。

「タクヤ君は相当苦労したんだもんね。ほんと頑張ったね……」

 紗季さんが優しい眼差しを俺に向けた。それで、俺の心がしみじみと癒やされる感じがした。なんだろう。美人だからというのはもちろんある。それに加えて紗季さんは、その場を落ち着かせるような不思議な雰囲気を持っていると思う。

「それでは私のユニークスキルを紹介しましょう。ちなみにレアリティはS+(エスプラス)だった」

「エスプラス? また酷い格差だな。もう勘弁して下さい」

「大丈夫、タクヤ君。ちゃんとオチがあるから。かなり笑えるスキルなんだな、これが」 

 笑えると言ったのに、紗季さんの表情が暗くなった。

「どういう事ですか?」

「『排泄物を飲食できる』。それが私のユニークスキルなの」

「?」

「説明が必要だよね。端的に言うと、自分の大便と尿を口にすることが出来るってこと。それらに栄養があるから、私は飢え死にをする事がない。凄いスキルでしょ? レアリティS+(エスプラス)には違いないと思う」

 紗季さんがため息をついて言った。

「食べられるんですか……」

「そう」

「それで食べたんですか?」

 言ってしまったあとに、俺は紗季さんの耳が真っ赤になっているのに気がついた。

「すみません! 遠慮なくズケズケと訊いてしまって……」

「ううん大丈夫。なんとなくね、全部人に話したいっていう気持ちもあるの。気持ち悪いかもしれないけど、タクヤ君に聞いて欲しい。うん……食べてみたよ。教会で食事は貰えるから、必要は無かったんだけれど」

「そうですか……」

 紗季さんが大きく息を吸い込んだ。

「大便は少しチーズに似ていて癖のない味だった。正直かなり美味しい。飽きずに食べられそう。尿はスポーツ飲料に近い味で、これも癖がなくて水代わりに飲める。摂取すると体に染み込む感じで、かなり体に良さそうだった!」

 紗季さんが早口で言い切った。耳は真っ赤で少し涙目になっている

「すげぇ……。俺は飢え死にしそうだったから、普通に羨ましいですよ。だけどこれ、スキルなんだから『お腹が空かない』とか、そういうのでいいですよね? なんか色々とオカシイんだよな、この世界の設定と言うか、環境というか」

 ウンコを食べさせるとか、難易度がベリーハードだから? それともハードボイルドだからなのだろうか。どちらにせよこれを考えた奴は、かなり趣味が悪いと思う。

「だからね、私はこれが、罰じゃないかと思ってるの」

 つぶやくようにして紗季さんが言った。

「……自殺の罰って事ですか?」

「そう。それに私は『同性に好かれやすい』というスキルを貰った。これが何を意味するかというと、もう私は、純粋な恋愛が出来ないという事なんだよ」

「?」

 紗季さんが穏やかに微笑んだ。

「この世界で私に恋人が出来たとする。だけどその人は、私のスキルのせいで恋人になってくれたのかもしれない。それは純粋な愛情ではないでしょう。少なくとも私はそう思ってしまう。だからもう、私は本気で恋愛をする事は出来ない。それがつまり、与えられた罰だと思うの」

「えーと、なるほど? でも紗季さんは女性で、女性から好かれるっていうのは? あれ?」

「あの……私、同性愛者なの。女子として女子が好きなタイプ」

「え! あ! そ、そうですか」

 バカみたいに動揺してしまった。普通にビックリした。

「教会がスタート地点だったのも『悔改めよ』という意味かもしれないよね」

 紗季さんが、ちょっと黄昏たそがれた感じで言った。考えすぎのような気もするけど、紗季さんは真面目な人だと俺は思った。さすが失恋で自殺をするだけある。でもあれか。紗季さん、女子に振られて自殺したってことだよな。スゲーな。ちょっと想像が及ばない世界だ。

「教会が似合ってると思います、紗季さんには。俺の中での、理想的なシスターのイメージにぴったりだもん。優しくて綺麗なシスターは、いつの時代でも超需要があります」

 お世辞じゃなくて本気で言った。

「ありがとう。そうだね、シスターになれたら素敵かもね……」

 紗季さんが夢見るような感じで言った。笑顔がヤバイぐらいに美しい。シスターっていうより女神って感じかもな、これは。


「今日はこれくらいにして、タクヤ君は休んだほうがいいよ。元気を取り戻してから、改めて次の事を考えよう」

 紗季さんが言った。俺は頷く。

 俺は紗季さんにおにぎりを2つ貰って食べた。「空腹は最大の調味料である」と、この世界に来て何度思ったことだろう。部活で激しく運動をしたあとの食事は確かに美味しかった。だけど、飢えた経験があるとその意味が一味違ってくる。

「今日はここに泊まっていってね。明日また話をしましょう」

 紗季さんが言った。

「え! いいんですか? ご迷惑になるんじゃ……」

「大丈夫。ただ、部屋の外には出ないようにね。他の人にバレるとちょっとだけマズいから」

「いや、俺、外で寝るのは慣れてます。もうだいぶ元気を取り戻したし……」

「同じ転生者同士、遠慮はしないで。これから助け合って行こうよ、ね?」

 紗季さんが素敵な笑顔で言った。 

「ありがとうございます……」

 俺は深々と頭を下げた。やばい、また泣きそう。紗季さんがマジで女神に見えてきた。


 教会の用事があるということで、紗季さんが部屋を出ていった。腹がいっぱいになった俺は、急速に眠くなってきた。これで風呂に入ったら、また溺死をするだろう。俺は素朴な木のベッドにばったりと倒れこむ。そして目をつむって、闇に吸い込まれて眠った。

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