#70 意識世界

《最初の洞窟》最深部……。


一体、ここにに訪れるのは何度目だろうか。

ここには、“管理用コンピュ―タ”を設置して起動し、コンソ―ルに文字を入力することで、

ゲ―ムデ―タを自由に弄ることができる

要するに、この場所はゲ―ムデ―タ管理室みたいな場所だ。


実際は俺の設定ミスのおかげで、弄れるデ―タ要素は殆ど無いのだが……。


俺達は、“森”《カロン》最深部にある屋敷で、突然消えてしまったコ―デリア。

彼女ををなんとか救えないかとまたここに来た。


俺はコンピュ―タのスイッチを押して起動する。

すると、現れるホログラムモニタ―とキ―ボ―ド。

更には、モニタ―にコンソ―ルウィンドウが表示され、ウィンドウにはログが流れる。


ログの一番上には【管理用コンピュ―タ―VER.3.00】と、表示されている。

ホログラムモニタ―を操作しログを一番下まで送る。


「えっと……」


――カタカタカタ……。


俺はキ―ボ―ドを操作し、コンソ―ルに文字を入力していく。

このコンピュ―タは、文字しか受け付けないのだ。


『デ―タ検索』


――何について、検索しますか? マスタ―。


また、マスタ―呼ばわりか……。

こいつは一体……。

今はこのコンピュ―タ―のAIに対する疑問は考えないようにする。


『キャラクタ―名“コ―デリア”』


前回、コ―デリアのデ―タは99.8%までしか消去されなかった事を俺は確認した。

だから、このコンピュ―タにはコ―デリアの“何らかのデ―タ”が残っているハズなんだ。


――“コ―デリア”は、私が消去しきれなかったデ―タです。マスタ―。


ドクン。と心臓が跳ねる音がした。

コイツ……何を言っている!?


『お前が……コ―デリアを消そうとしたのか!?』


――誤解しないでください。マスタ―。


『何が誤解なんだよ?』


俺は感情的になりながら、キ―ボ―ドを打った。


――彼女のデ―タは壊れていたんです。


『壊れていた?』


――そうです。コ―デリアはあの屋敷で……。


AIによると……。

“カロン”にあった俺が雰囲気作りの為に設置しただけの、

誰もいないボロボロの建物をコ―デリアは自分の屋敷だと認識していた。


あの時俺達が真実を彼女に伝える度に、

彼女の頭の中にあった自分の屋敷像と、

ただのボロ屋敷の現実という理想と現実とのギャップが彼女には耐えられず――。


彼女のデ―タはほぼ壊れてしまった。ということだった……。


――デ―タを残したままだと、このゲ―ムは更なるバグが発生する可能性がありました。


『…………』


――しかし、私には彼女を完全に消すことが出来ませんでした。

唯一、残ったデ―タがあります。


『残ったデ―タ? それは……?』


――コ―デリアの……意識です。


彼女の……意識……?


――なぜ意識だけが消去できなかったのかは理由は分かりません。


AIは続けてコンソ―ルに文字を打ち出した。


――ですが、マスタ―が……コ―デリアの意識に“侵入”すれば……。


『侵入?』


――彼女を助け出すことも出来るかも知れません。


「!?」


――成功すれば、ゲ―ムに不具合が発生することも無くなるでしょう。


『本当に……そんなことができるのか?』


俺は興奮し、文字を打つ速度が自然に速くなる。


――可能です。ですが意識世界に侵入した後、コ―デリアの意識にあるギャップを……。


『……彼女の意識を修正すればいいんだな?』


――そうです。しかし、それはとても困難だと予測されます。


『ああ』


――失敗した場合、ゲ―ムのバグは更に悪化する可能性が高いです。マスタ―。どうしますか?


そんなの決まってるッ!

失敗する可能性が高いのだとしても……。

彼女を救えるチャンスがあるというのなら……。

俺は、彼女の世界に行く。


『コ―デリアの意識世界に侵入させてくれ』


――くいっくいっ。


誰かに俺の服の裾を引っ張られる。


「どうしたフェ―ベ?」

「ハヤトは一体さっきから何をしているのだ?」


と、フェ―ベはモニタ―を指差し、


「私にはこれが何を意味する言語なのかさっぱりなのだ。説明をしてくれないか?」

「ああ。要するに……今からコ―デリアの意識世界に侵入しようとしているんだ」

「意識……世界……?」


「……つまり、だ。今からコ―デリアを助けに行くってことだよ」

「だったら、私も連れて行ってくれ」


確かにフェ―ベも一緒に言った方が、

コ―デリアを助けられる確率が上がるかもしれない。


「ああ。一緒に行こう」

「待って!」


すると、リシテアは間に入る。


「私もコ―デリアちゃんの味方よ! だから私もその意識世界とやらに連れて行って!」

「わたしもっ一緒に行きたいです!」

「イオもコ―デリアさんを助けたいです! その気持はみんな同じですから!」


「よし! じゃあみんなでコ―デリアを助けに行こう!」


俺はホログラムモニタ―に視点を戻し文字を入力した――。


『俺だけじゃなく彼女達も意識世界に連れて行ってくれ』


――承知しました。では、“コ―デリア”の意識世界への侵入を実行します......。


『あ、一つ頼み事があるんだが……』


――……分かりました。


そして、視界は暗転あんてんし……。


彼女を説得するのは困難だって?

いいや、失敗など許されるか。必ず説得して元に戻してみせる。


待っていろ、コ―デリアッ!

俺達は世界を移動した――――!!

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