The Whole Nine Yards―隣の怪物ちゃん―
「ほんとに本当なんだってば〜、朝怪物を見たの! 私びっくりしちゃってどうなったかも覚えてなくてそれでそれで――」
「あ〜はいはい、本当、ぴよ子はぴーちくぱーちくうるさいわね」
「杏子ちゃんひどいよ〜私別にうるさくないしそれにそれに私嘘ついてないし本当に怪物がいたんだよ〜」
「……それ以上言わないの。ぴよ子のほっぺた引っ張るわよ」
何度も怪物と言われ、杏子は内心傷ついていた。しかし彼女、
現在は12時を回り、学生それぞれが昼食をとっており、杏子も例にもれず校内にあるラウンジで缶コーヒーと栄養価の高いショートブレッドのようなものを食べていた。
「まあ鈴芽くんが言っていることもあながち嘘ではないと思うんだよね、なんと言っても人類の身近に怪物なんているものさ。ねえ杏子くん、君もそうは思わないかい? 私は君が怪しいと睨んでいるんだけれど」
「え〜マリアちゃんあれは杏子ちゃんじゃなかったよ〜だって杏子ちゃんあんなに怖くないしそれにそれにあれは人じゃなかったってぜったい〜だってもう目が人のくくりを大ジャンプしてたしそれとそれと――」
「ぴよ子、夜恵にかまっちゃ駄目よ、頭がおかしくなるわ」
「ひどい言われようだ」
杏子が大学でつるんでいる鈴芽とマリア・夜恵=モニカの2人。
鈴芽はふわふわのカールした赤茶の髪とお嬢様のような品のいい服、スタイルはそこそこでよくモデルにならないかとスカウトされる。しかし口を開けば小鳥のさえずりなどとは程遠い喧しい鳴き声を持っている。
そしてマリア・夜恵=モニカといい、両親が海外の人間らしいがそれ以外は一切不明の不思議な人物。
しかし肩まである艶のある髪やキリッとした瞳とよく通る凛とした声、スタイルもよく、隠れようともしないふくよかなバストを持っているにもかかわらず着ている服はパンクで露出が多い。
令嬢のような雰囲気を持ちながら、どこか危ない空気を出している彼女に惹かれる異性は多く、こうやって昼食をとっている間も隅の方で彼女を見ている異性は多い。
だが、杏子は夜恵のことを苦手だと思っている。
その理由は先ほど彼女が口にしたことに起因しているのだが、どうにも杏子のことをただの人間だと思っていない節があり、ところどころで図星をついてくる。
「そもそも化物なんて空想上の生き物でしょう? 現代日本にそんなものいるわけないじゃない。夜恵は一体あたしの何を見てそう思ったのかしらね」
「杏子くん、君は基本的に血の匂いが濃い。他は隠しているようだが、それだけはどうにも隠しきれていない。だから私は疑っているのさ」
「それなら女の子みんな化物ね、月一で血の匂いが濃くなるもの。女の子に寄り付く吸血鬼とワーウルフでも探したほうが建設的だわ」
「ベットの上で姿を消すコウモリか、いつまでも尻尾振っている犬、確かにどちらも怪物になりえるかもね。まあ今言っても正体を現さないのはわかっているからね、ここは置いておくよ」
「そうしてちょうだい、あなたとワンダーランドに手を繋いで徘徊するなんて絵面、想像するだけで薄ら寒いわ」
「君とモックタートルスープを飲みに行くという夢はついぞ果たされないわけか」
「うんなもんどこででも飲めるから安心なさい」
杏子は隣で呆けている鈴芽を一度撫で、外を指さしてタバコを吸ってくると2人に伝えた。
そもそも大学に入ってから友人や知り合いなど出来るはずもないと思っていた杏子なのだが、ひと月通っていざ振り返ってみれば鈴芽と夜恵が隣にいた。
その出会いというのは鈴芽が執拗に話しかけてきたことが発端で、あまりにもうるさかったために杏子が「喧しいわぴよ子」と笑顔で話しかけたことで何故か懐かれてしまい、それを見ていた夜恵が乗っかって話しかけてきたことで3人でつるむようになった。
もっともそれ以上の交友はなく、どうにも変わった組み合わせに杏子は度々花子から友だちを紹介してと言われているにもかかわらず、乗り気になれないでいた。
そうしてタバコを吸い終えて戻ると鈴芽が口を開いた。
「そういえば杏子ちゃ〜ん知っています最近この辺りで不審火があるそうでどうにも危ないらしいですよだから杏子ちゃんも気をつけてくださいねあそれとそれと――」
「わかったからちょっとお口閉じていなさい。食べたものが外に出るわよ」
鈴芽の口を杏子は拭い、落ち着いて食べるように言う。
本当なら昼食も落ち着いて食べたかったが、2人がくっついてくるからしょうがないと杏子は諦め気味にこの現状を享受していたのだった。
日常生活に役立つ【魔法使い】の使い方! 筆々 @koropenn
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