第6話

 車を出た。


 隊長。


「あの」


「俺が本物のワイルドカードです。連れていってください。さっきのは安全確認」


「おい、連れてこい」


 大きな声。土地のど真ん中。よく響く声だ。


「はっ」


 隊長が歩き出す。


 土地のど真ん中。


 ひとり、兵装の男が立っている。


「あなたが、国交省の一匹狼」


「おまえが、ワイルドカードか」


 会った瞬間に、分かった。


 まさか、お互い、同じだとは。


「隊長。ここから去れ。警戒だけオンにして、しかしここの声と俺の周り三メートルの映像は絶対に聞くな。いいか」


「はっ」


 隊長が去ろうとする。


「復唱っ」


 よく響く声。びっくりした。


「はっ。ここから去り、周囲警戒します。ここの声と映像は、絶対に見聞きしません」


「よし。行け」


 隊長。走り去っていく。


 兵装の男。兵装を、解いた。ベストを脱ぐ。


「いやあ、まさか、あなたも同じだとは」


 どさっという音。ベストはかなり重いらしい。


「肩が凝るわ」


「当て付けですか?」


 ベストの下から出てきたのは、豊満な、胸。


「胸がないほうが男性を装いやすいだろうが」


「そりゃ、そうですけど。やっぱり大きいほうが」


「あんたも脱がないのか。女同士、胸襟を開いて話をしようじゃないか」


「いえ。たぶん見られているので」


 一匹狼。すぐにベストを着込んだ。


「まじで?」


「まじで」


 顔を赤くしている。ばかか。


「さて、ここの土地の話だ」


「ええ。本題に移りましょう」


「権利者の爺は、死んだか?」


「たぶん生きてますよ」


 襲撃されたが、特殊部隊の警護が守った。


「死なせてやればいいものを」


「それは、どういう意味で」


「ここの土地を守ってるだけの地縛霊みたいなもんだぞ、あれは」


 この土地を持っているじいさんとしか、認識していない。


「何か、あのじいさんはこの土地に因縁が?」


「ここは昔、製縫工場だったんだよ。事故があってな」


 一匹狼。座り込む。


「じいさんの嫁が死んでる。だから、じいさんは手放せんのさ」


 知らなかった。


「俺も、じいさんには同情してる。死なせてやろうとまでは思わんが、嫁と同じところにそろそろ行ってもいい歳だろ。生かされたのは、むごいな」


 コンビニエンスドリームロールの意向だから、なんとも言えない。


「私が生かしたわけじゃないので」


「そうか」


 一匹狼。ベストをぱたぱたしている。


 羽織っていた上着を、渡した。


「すまん。熱くてな」


 ベストを脱いで、上着を肩からかけた。こちらにだけ、大きな胸が見える。


「ブラとか、しないんですか」


「締め付けられるのが嫌でな」


 一匹狼らしい理由だ。


「俺は、ここの土地に興味はない。爺が持っておきたいなら、それはそれでいい。欲しいのは地下だ」


「地下鉄のプラットフォーム、ですか。政令指定都市でもないのに」


「政令指定都市なんだよ、ここは。人口統計をいじってあって、実際は百万を越えてるんだけどそれを隠してる」


「なぜ」


「試験都市だから。地下鉄とかそういうのを作るのにいいと思って」


「あなたの差し金、と」


「まあな。譲る気になってくれたか?」


「まあ、いいでしょう。同じ者同士ですし」


 女であることを隠し、生きる者。


「よし。じゃあ、カードを」


「いい方法があります」


「なんだ」


「法案でマネーロンダリングが必要というのは、本当ですか」


「本当だ。耳が早いな。建物改築に合わせて、談合用の饅頭賄賂が欲しいんだと。ふざけんなって話だが」


「うちに、地上げ屋の女がいます。いったん警察の手に渡して」


「おいおい。囮に使うのか」


「マネーロンダリングの証拠だけ掴んで派手に飛ばして、その上で地下にプラットフォームを立てれば」


 一匹狼。考えるしぐさ。


「いい。いいな。おまえ。いい勘してるぞ」


「切り札はいつも、俺のもとに。なので、使い方はいつも考えています」

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