第32話 おしらせ

 後刻、TwitterのDMで、「ブツ」を持ってくる人間との待ち合わせ時間と場所が知らされました。

 受け取り場所は住所で書かれていました。近所だからか、どこかで見覚えのある住所でした。指定の時間は十八時でした。「受け取った物がなんであるかは詮索しないで欲しい」という文言で指示は終わっていました。DMはマンガの吹き出しの形で表示されますが、そのポップなデザインには相応しくない不気味な文言でした。

 次の吹き出しでは、「受け取った物」をどうするのかが書かれていました。

 受け取った物は、指示された最寄りの駅のコインロッカーに入れること、報酬はロッカーに入れてあることが書かれていました。コインロッカーの数字は007でした。あまり趣味の良い数字とは思えません。

 一応DMで質問しておきました。

 「それってヤバい物じゃないですよね」

 「知らなかったら、こちらがトラブルになったって問題ないんだから、そのまま聞かない方が良いと思いますよ」

 相手からの返答はそんなものでした。

 一応、「やらない」という選択肢がこちらには残されていました。麻薬か、金か、それとももっと物騒な何か、ピストルか、細菌兵器、いや小型核兵器か、と妄想が膨らんでいきました。なにがしかのデータが入ったUSBメモリ、なんてこともあるのかもしれない。

 ――どうして私がこの辺りの人間だと知っているのか。

 背筋が凍る感覚がしました。無意味に部屋の周囲を見回し、盗聴器や監視カメラを探しました。そもそも私を知っている、私が苦境に陥っていることも知っているのか。このアパートに住んでいる人かもしれない。いや、大家さんかもしれない。「Bosque」で一緒に働いていた人間か。彼らなら、私の苦境を知っているはずだ。裁判の話は、金のない人間を選別するための方便だったのか。

 いやたまたまだ、と恐怖を打ち消しました。

 そもそも、やらなかったらなにも起きません。アカウントごと消えてしまえば、誰も追いかけようがないのです。何かマズい物を受け取って、コインロッカーに入れただけで、五十万円。今のユミには喉から手が出るほど欲しいものです。

 送られてきた住所をネットで検索してみると、それはユミが元々働いていた喫茶店「Bosque」の入ったショッピングセンターでした。時間は三十分後でした。あまりにも差し迫った時間に、「選択の余地を与えたくないのかな」と勘ぐりました。

 もちろん日時も場所も偶然近所のものでした。DMの最後には、「ダメなら、この話は忘れて下さい」と書かれていました。

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