第20話 俺のいない休日

「ねえお姉ちゃん、やろうよ!」


「うーん、やるって言っても、なにをすればいいのか」


「それを一緒に考えるんじゃん!」


 千代と景はソファーに並んで座って、そんな話をしていた。


「お姉ちゃん綺麗だから、座ってるだけでも人気出ると思うの」


「それ、需要ある?」


 先日話題に上がった、YaeTubeデビュー。


 珍しく休日がかぶったので、千代が景に一緒にやろうとせがんでいるのだ。


「お兄ちゃんは、なるべく仕事時の自分とギャップを出せって言ってたよ!」


「ギャップねー」


 景はそう言って、千代の膝に頭を置いて寝そべる。


「私、カメラがあるとどうしても意識してしまうのよ」


「そうなんだ~。じゃあお姉ちゃんの私生活を盗撮でもすればいいかな」


「訴えるわよ」


「冗談だよ?」


 千代はスマホで色んなYaeTuberを見て、自分たちにあったスタイルを探している。


「もう少しで先輩来るから、それまで待つか~」


「板谷先輩今日も来るのね。毎日いる気がするわ」


「ほんとだね」


 二人が無表情で無抑揚に言ってると、インターホンが鳴った。


「噂をすれば来たね」


 千代はぴょんぴょんと玄関まで行き、鍵を開けた。


「うわあ! 何その荷物!」


 ドアを開けると、大量の荷物を持った板谷がいた。


 大きな段ボールに、自分の姿が隠れるほど物が入っている。


 そして両腕にバッグをぶら下げ、玄関をゆっくり通った。


「ふう~、疲れた。」


 リビングに荷物を置いた板谷は、寝そべっていた景の腹を枕にして寝そべった。


「板谷先輩、あの荷物は?」


 景が不思議そうな目で荷物を見つめながら訪ねた。


「いやあ、ついに二人がYaeTubeに足を踏み入れると聞いて、使えそうなものを持ってきたんだよ!」


 千代は置かれた荷物を見回しながら、その中の一つをゆっくり指でつまみ上げた。


「これは?」


「ああ、それはマスクだよ!」


 千代はそっと両手で広げてみる。


「うん、これプロレスラーとかがつけるマスクだね」


「そうだね!」


 景は呆れたようにため息をつく。


 千代がマスクをそっと床に置いて、次のモノを取り出した。


「これは?」


「それは眼鏡だよ!」


「どうして眼鏡?」


 景が体を起こして板谷に聞く。


「なんかさ、YaeTuberって眼鏡とかサングラスのイメージない?」


 どうだろう、といった表情の景。


「うん、これパーティーとかお誕生日の時にかけるやつだね」


「そうみたいね!」


 今度は千代と景が同時にため息をついた。


「先輩、もしかして他のものも全部こんな感じ?」


「こんな感じが何なのかわからないけど、そんな感じだよ!」


 景は時計を確認する。


「千代ちゃん、もうすぐ兄さん帰ってくるわ」


「そうだね!」


「え、どういうことですか!」


 板谷はどうやらセンスがないらしい。


 そう思った二人であった。

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