第6話 文化祭準備②

「みんな知ってると思うんですけど、うちのクラスは準備が遅れてます」


 みんなが席に座る中、一人教壇に立ち危機を宣告するこの子は、今回お化け屋敷をするにあたっての、リーダーだ。


 身長は小学生と間違われるほど小さく、童顔。


 どこからどう見ても高校三年生には見えない。


 名前は横沢菜奈といい、みんなからは「よこなな」と呼ばれている。


「ということで、みんななるべく放課後は残って作業しましょう!」


 こういう状況になった時、大まかに分けると3パターンに反応が分かれる。


 一つは、よし、やるぞ!、と意気込む文化祭エンジョイ組。


 もう一つは、やろうという気持ちはあるものの、残業をしてまで準備はしたくない人たち。


 残りは文化祭自体に興味がない人たちだ。


 ちなみに俺は、文化祭は好きだが仕事の関係であまり準備に参加できない、という都合のいい立場をとることにする。


 終わりのチャイムが鳴った。


「じゃあとりあえず今日はここまでで」


「木部は残って作業な」


「え~~」


 締めくくりにそんなことを言うのは、うちのクラスの委員長の木村と副委員長の尾朝だ。


 文化祭は主に、文化祭リーダーと、委員長、副委員長が仕切って進行していく。


 俺は当然のごとく鞄をもって、準備をするみんなを横目に帰ろうとしたその時だった。


「なあ日向君、ちょっといい?」


 突然目の前に小学生が現れた。


「なんだ、よこななか。どうした?」


「えっとね、さっきも言った通り、準備遅れてるんだよね」


「あ、ああ、そうだな」


「それでね」


 ごくりと唾をのむ。


「日向君、家近かったよね! 週末日向くんちで作業してもいいかな?」


「へ?」


 思わず間抜けな声を出してしまった。


「放課後だけじゃどうしても衣装まで作れなくて、週末は学校しまってるから、それじゃあ誰かの家に集まってやろうということで、日向くんちに決定しました!」


「うーん・・・」


「え、もしかしてお仕事?」


 本当は今週末に予定なんか入っていない。しかし、なんとか言い訳をしようとスマホのカレンダーを見て時間を稼いでいるのだ。


「ちょっと厳し・・」


 断る寸前までいったところで、廊下の向こうから何やら騒がしい子が、手を振りながらこっちに走ってきた。


「お兄ちゃ~ん」


「どうした、千代」


「別に何でもないんだけど、今から帰るとこでお兄ちゃんを見かけたから」


「ねえ千代ちゃん、今週末おうち言っていい?」


 よこななが突然千代に質問した。


 とっさに俺が阻止しようとしたのだが、時すでに遅しだった。


「いいですよ~、週末は久々にオフですし~」


「やった! じゃあお邪魔するね~」


 ため息をつく俺。はしゃぐよこなな。


「あれ、どうしたのおにいちゃん?」


「あー、いや、何でもない」


「そっか、今から帰るんでしょ? 一緒に帰ろうよ」


 こいつ、俺が嫌がるの知っててやりやがったな。


 まあ今まで準備してこなかったし、これでチャラにしといてやろう。


「じゃあ横沢先輩、また今度!」


「よこななでいいよ~、またね!」


 二人があいさつを交わしている。


 ああ。


 俺のオフが。

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