第5話 文化祭準備①

放課後、俺と景は夕日を背にして自宅に向かっていた。


「景のクラスは、文化祭なにやんの?」


「カフェをやるとか言ってた気がする」


 転がっている石を蹴りながら景が答えた。


「カフェかー、普通だな」


「あと、コスプレもするらしい」


「えっ?! 景もするの?!」


「あまり乗り気じゃなかったけど、皆に押されてやることになってしまったわ」


「そ、そうか。あんまり派手なのは駄目だぞ。あとスカートとか短すぎるのもだめ、肌の露出面積多いのもだめ、可愛すぎるのもだめ」


「そのシスコンぶりはちょっと気持ち悪いのだけど」


 妹の身を心配して言ったことをばっさり切られてしまった。


「兄さんは何やるの?」


「んー、うちのクラスはお化け屋敷だ」


「兄さんのほうが普通じゃない」


 とてつもなく興味のなさそうな表情でそんなことを言っている。


 夏も終わり今は9月中旬、まだ少し暑いが時折涼しい風が吹いて気持ちがいい。


「兄さんと一緒の文化祭は、最初で最後ね」


「そうだな」


 俺と景は2つ年が離れているから、当然同じ学校にいる期間は一年だけだ。


 でも、なぜ今そんなこと言ったんだ?


「もしかして景ちゃん、寂しいの?」


 ぷっ、と笑いながら、からかうように聞く。


 しかし、予想していた反応とは別の反応が返ってきた。


 俺はおそらく、今日の景の返事を、一生忘れないだろう。






 文化祭2週間前の朝。


「ね〜、なんで文化祭初日に仕事入れるの〜」


「うるさい、お前がやりたいって言ったんだろ」


「そうだけど〜、ほんとに文化祭とかぶるとは思ってなかったの〜」


 以前千代が、景が出演しているテレビドラマを見て、


「ねえお兄ちゃん、私もテレビ出てみたい」


 と、言っていたので、


「モデルの仕事続けてたらいつか来るよ」


 と、それとなく答えていたが、先日、ほんとにテレビCMのオファーが来た。


 千代には、もしかしたら文化祭とかと日にちかぶるかもよ?と言っておいたのだが、本人は、このチャンスを逃すわけにはいかない、と言い張り、出ることになったのだ。


 案の定、その打ち合わせが文化祭一日目に入っていた。


「まあ、二日間あるんだし、その次の日にはまた二日間体育祭があるだろ」


 ほっぺを膨らませて、リビングのテーブルに顎をのせている千代は、しばらく文句を言っていたのであった。

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