第3話 千代の仕事
「いいよ〜、素晴らしい!」
パシャパシャと写真を撮っているおっさんが、周りの静かな空気を壊すかの如く、ハイテンションでそんなことを言っている。
「いいね〜!じゃあ次のポーズ行ってみよう!」
白い背景に、直視できないほどの照明が三方向から照っている。
その真ん中にいるのが、俺の妹の千代だ。
「ハイオッケーい!いやー千代ちゃんの撮影はスムーズに行き過ぎて怖いね〜」
「ありがとうございました〜」
そう言うと千代はステージから降りてきた。
「お疲れ、千代」
「どう?可愛く写ってた?」
「さあな」
俺は分かっている。
千代はそんなこと聞かなくても、自分が可愛く、完璧に撮影されたと知っていることを。
千代は幼い頃から、他人の目を気にしていた。
自分の発言、行動、振る舞いで相手がどんなふうに感じるのかをいつも気にしていた。
だからこそ、誰にもでも好かれ、愛され、可愛がられる見た目と性格を演じられる。
「日向さん、日向京介さん」
誰かが俺を呼んでいる。
振り向くと、低身長で小太りのスーツを着たおじさんが、不気味な笑顔でこっちを見ていた。
「はい、なんでしょう?」
「わたくし、斉藤と申します。いま撮影が行われている雑誌のインタビューの方を担当していまして」
「あ、よろしくお願いします。それで・・・」
「今回の表紙を務める千代さんに、いくつか質問がありまして、このアンケート用紙に記入をお願いしたいのですが」
「ええ、わかりました」
「すぐにでなくて結構ですので、記入でき次第、メールかFAXで送ってください」
「承知しました。今後ともよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
そう言っておじさんは小走りで去っていった。
「あの人気雑誌の表紙になるなんて、うちの妹は有名になったもんだな~」
「何一人で話してるの?」
いつの間にか後ろに千代がいた。
「まったく、俺の妹は優秀だぜ」
ふわふわの金髪を両手でもしゃもしゃと触ってやったが、全く嫌がるそぶりを見せない千代。
「それはそうと、早く次の現場行かないと」
「あ、ああ、そうだな」
何か一人ではしゃいでた自分が恥ずかしい。
二人で駐車場まで歩いていき、黒いワゴン車に乗り込む。
「えーっと、次の現場は~」
カーナビを左手で操作しながら、右手でスマホ画面を操作する。
俺は18歳になってすぐ、免許を取った。
仕事上、免許は必須だったし、こんなにかわいい子たちを電車やバスなんかに乗せられない。
「あ、お姉ちゃんからメッセージだ」
「ん、景が? 何だって?」
「えーと、帰宅途中、ファンの人に見つかって人だかりができちゃったから帰れない、だって」
「全くあいつは・・・」
景はいつもどこか不安で、抜けている部分がある。
「あれだけ気を付けるように言っているのに。それで、今どこにいるって?」
「ん~、駅の近くのお寿司屋さんのトイレにいるって」
「なぜ」
「面白いね、お姉ちゃん」
ほんとにな。
「仕方ない、途中で拾っていくか」
「ほーい」
女優の日向景はあんなにも美しく、クールでかっこいいのに、女子高生としての日向景は・・
そうして俺と千代は、お寿司屋のトイレに向かうのであった。
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