第2話 景と千代

俺の名前は日向京介、現在18歳の高校三年生だ。


「お兄ちゃん、私が買っておいたメロンパン知らない?」


 こいつは俺の妹の日向千代。16歳で俺と同じ高校に通っている。


 そして、今人気急上昇中のモデルでもある。


 ふわふわの金髪ショートカットに、白くきれいな肌をしている。


 兄の俺でも惚れてしまいそうなほどかわいい。


「は~、やっぱり私、朝は苦手だわ」


 あくびをしながら半目で食パンを食べているのはもう一人の妹、日向景である。


 千代とは反対に、長い黒髪をしていて、高校1年生には見えないほど大人びている。


 小さくシュっとした輪郭に、小さな口がパクパクと動いている。


「あれ~、どこに行ったの?私のメロンパン」


「もうメロンパンはあきらめて準備しろー。お前は今日撮影なんだから」


「わかってるよ、でも朝はメロンパン食べないと調子悪いの!」


 メロンパンにそんな効果があるのか?


「現場に行く途中に買えばいだろ。いいから急げ」


「うーん、わかったよ」


 不満そうな顔をしながら隣の部屋に移る。


「兄さんは今日学校に行くの?」


 景が食パンを食べ終え、バナナの皮をむきながら聞いてくる。


「ああ、俺は今日は千代についていくよ」


「そう、私だけ学校に行かせるのね。ふーん」


「景は前回の撮影で二週間も休んだろ?卒業できなくなるぞ」


「・・・・。」


 あれ、反抗するの短過ぎじゃないですか。


「いいわよ、一人で学校いくもの」


 こういうところを見ると、まだまだ子供だなと思う。


「お兄ちゃん、こっちかこっち、どっちがかわいく見える?」


 千代が二着服をもってきて両手で掲げている。


「今日は衣装があるからどっちでも関係ないんじゃないのか?」


「わかってないな~。現場には監督さんとかほかのモデルさんとかもいるでしょ?可愛いほうが媚び売りやすいでしょ」


「お前は相変わらず・・」


 千代は自分の可愛さを知っている。


 自分の価値、役割、観客をすべて知っている。


 しかし周りにはそれを全く気付かせない。


 だからこそ、自分の魅力を最大限引き出し、ここまで人気を勝ち取っている。


「まあこっちかな、うん!」


 自己解決した千代は再び隣の部屋に戻っていった。


「じゃあ私、学校行ってくるわ」


 景はいつの間にか制服を着ている。


「おう、気を付けて行けよ。マスクとメガネは絶対していけよ」


「わかってるわ。じゃあね千代ちゃん、撮影頑張って」


「うーん!お姉ちゃんも授業中寝ないようにね!」


 そんな会話を交わしながら、景は家を出ていった。


「俺らもそろそろ行くぞ~」


「はーい!」


 エレベーターに乗って降りていく。




 俺たちは、駅から徒歩数分のタワーマンションに3人で住んでいる。


 親は俺が高校に入学したころに事故で亡くなった。


 当時はあまりにもショックが大きすぎて、無気力になり不登校になったこともあった。


「お兄ちゃん、置いていくよ!」


 今はこんなに可愛い妹が二人もいて、それなりに楽しい暮らしができている。


 もう寂しくないと言ったら嘘になるが、今は幸せだ。


「今行くよ」


 俺はこれからも二人の妹のマネージャーでありながら、親の代わりもできるように頑張ろうと思う。

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