卒業パーティまであと3日
「ああそうだよ、聞いてなかったのかい?」
ローレン公爵ことウィルフレッド・ローレンは驚いたように聞き返した。
「ようやく宮廷魔導士に空きができたんで、エドガーくんは学院を退職して、王宮勤めになるんだよ。お前はエドガーくんにずいぶんと懐いているようだし、てっきり知らされているとばかり思ってたんだが」
「知らないわよ、そんなのぜんぜん聞いてないわ……!」
ミシェル・ローレンはゆるゆると首を横に振った。
「卒業してもあの薬学準備室に行きさえすれば、いつでも会えるとばかり思っていたのに……」
「ミシェル、そのことなんだが、仮にエドガーくんがあのまま学校にいたとしても、もう会いに行くのは止めなさいというつもりだったよ私は。卒業したらもう教師と生徒ではなく未婚の若い男女だからな。ふたりで会うのは好ましくない」
「なにをおっしゃっているのお父さま、若い男女と言っても私とエドガー先生よ?」
「お前がどういう認識でいるのか知らんが、エドガーくんはあれで将来有望な男だし、見栄えだって悪くない。私のところにも、彼を紹介してほしいって話はけっこう来てるんだよ。そんな男にお前みたいな若くてきれいな娘がまとわりついていては変な憶測を呼びかねない。ことにお前は王子殿下の婚約者だからな。振る舞いには気を付けなければいけないよ」
「……分かったわ。お父さま、お騒がせしてごめんなさい」
ミシェルはなんとか笑みを作ると、父の書斎をあとにした。
「そんな……宮廷魔導士だなんて聞いてない……縁談なんて聞いてない……エドガー先生は死ぬまで一生独身で、この先もずーとあの薄暗い薬学準備室にくすぶっているとばかり思っていたのに……!」
ミシェルは当のエドガーが聞いたら、「そういう風に思われていたのか……」とショックを受けそうなほどに失礼なことを呟きながら、ふらふらと自室に戻ってお気に入りの長椅子に倒れ込んだ。
エドガーが自分に伝えなかった理由は理解できる。
ただでさえ婚約破棄に動揺しているミシェルに対する、彼なりの気遣いだったに違いない。
しかしこうして分かってしまえば同じことだ。
大切な人が自分から離れて、手が届かない所へ行ってしまう、このなんともいえない喪失感。
アスランさまにエドガー先生。
果たして自分は、どちらの方がより辛いのだろう?
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