卒業パーティまであと9日

 ところがミシェル・ローレンの計画は、お茶の時間が始まる前にとん挫した。ミシェルが泣くよりもさきに、王妃の方が号泣していたからである。


「本当に本当に良いお芝居だったわねぇ、貴方もそう思うでしょうミシェルちゃん」

「え、ええ、そうでしたわね……」

「特に王子さまがあの意地悪な婚約者を捨てて、ヒロインの手を取るシーンと来たら、私もう涙がとまらなかったわ。あれこそが真実の愛というものよねぇミシェルちゃん」

「ええまあ、そういう見方もありますわね」

「ああ私も侯爵家なんかじゃなくて、ヒロインみたいに市井の娘に生まれたかったわ。そして偶然陛下と出会って、真実の愛に目覚めたかった。私ったら陛下とは幼馴染で子供のころからの許嫁でしょう? お互い気ごころが知れていて良いけれど、やっぱりつまらないわよねぇ」


 王妃は芝居のすばらしさについてひとしきり熱弁をふるったあと、「そういえばミシェルちゃん、なにか私に相談があるって言ってなかったかしら」とつぶらな瞳で問いかけた。


 ミシェルはただ曖昧な微笑を浮かべるより他になかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る