唐揚げを無限に食べたい

Enju

唐揚げを無限に食べてみた

テケテンテンテン

常日頃から、佐藤くんは唐揚げを無限に食べたいと神に願っておりまして、それなら無限に食べてもらおうじゃないかと母ちゃんが大量の唐揚げを用意するもんだから、佐藤くんはもう幸せそうにモグモグと無限に唐揚げを頬張るわけです。

ところで、本当に唐揚げを無限に食べるにはいくつか障害がございまして、最初に問題になるのが佐藤くんのお腹の具合となります。いくら唐揚げが大好きだと言っても胃が満杯になってしまったらそれ以上は食べられないわけで。

そこをどうにかするには、まあ汚い話になってしまいますが、食べた分だけ出していく。上から出すか、下から出すか。などと申しまして、ええ、はい、そうですね、お食事中の方は申し訳ございません。食べ物を粗末にするなというお怒りも、もっともな次第でございます。

さてさて、そうなりますと、佐藤くんが食べた唐揚げを、体の中から出さずに無限に食べる方法を模索する必要がございます。例えば……佐藤くんが食べた全ての唐揚げを、お腹の中でエネルギーに変換してしまうだとか。

こりゃまた突拍子もない話が出てきたな、とお思いで? いえいえ、これが実はそれほど常軌を逸した話ではございません。皆さんおなじみの猫型ロボットが居りますでしょう。ちょっと詳しい人なら皆知っているんですが、実はあの子が食べたもの、全部エネルギーになっているらしいですよ。

これはいわゆる相対性理論、誰でも知ってる"E=mc^2"という計算式が、我々の生活に役立つ瞬間でございましょう。アインシュタイン先生も思わずニッコリ、といった所でしょうか。

とはいえ佐藤くんのお腹の中の唐揚げで原子力をどうこうするのには、ちょっとばかり安全面で問題がございます。このご時世、発電所ひとつ作るにも、近隣住民の皆様のご理解はそうそう得られないもので、いかに佐藤くんがお腹の安全性をアピールしたところで、ゲップをしたらどうするんだ、そう言えばあの時に屁をこいたのはお前だろう、しまいには小さい頃の寝小便まで持ち出して、皆さん放射能がやいのやいのと言ってくるものですから、佐藤くんも渋々ながら、この方法を諦めざるを得ませんでしたとさ。

こうなれば佐藤くん、もはや腹に入った唐揚げを何とかしようという甘い考えは捨ててしまえっ! とばかりに、後先を考えず唐揚げを無限に食べ始めました。そうしましたら当然の結果として、佐藤くんのお腹はパンパンになってしまいます。

しかし佐藤くんは唐揚げを無限に食べるつもりですから、そんな事はどうでも良いとばかりに食べ続けた結果、佐藤くんのお腹はどんどん、どんどんと膨らんでいくわけです。逆に言えば、腹を膨らまし続けさえすれば、唐揚げを無限に食べることができるのでございます。佐藤くんは、これが正解だったのだ、とばかりに唐揚げを無限に食べていくわけです。

そうして、無限に唐揚げを食べて無限に腹を膨らませていく佐藤くんでしたが、そんな事をしていたら当然の如く体形がおかしくなって参ります。よく言えばゆるキャラのような、悪く言えば名状し難きサムシングでございます。こうなってしまいますと、佐藤くんも徐々に唐揚げを口に運ぶことが物理的に難しくなって参ります。

これは困ったな。と、佐藤くんはかつてない程ゆ〜っくりと、唐揚げをよく噛んで味わうことで、考える時間を稼いでみます。

昔から食べモノはよく噛んで食べなさい、と言われておりますが、実際に良く噛むことで、脳が活性化するという事もあるようです。佐藤くんの唐揚げ色の脳細胞におきましても、レモンがかけられたが如くシナプスが弾け、佐藤くんの頭の上に、ピコーンと閃きの唐揚げが浮かびます。

さてさて。佐藤くんが閃いたアイデアというのはですね、お腹を大きくできないなら、唐揚げが小さくなればいいじゃない。という、アントワネット王妃もビックリの逆転ホームランでございます。しかしそれでも無限に食べるというのであれば、どんなに唐揚げを小さくしてもいつかは限界が訪れるものです。であれば、唐揚げの体積をゼロにする必要があると。体積がゼロであれば、お腹の容量を気にせず唐揚げを無限に食べることができます。

さあ、事ここに至って、佐藤くんのお腹の許容量問題は完全に解決できてしまいました。お腹の中にある唐揚げも体積をゼロにして、名状しがたいゆるキャラから好青年に戻った佐藤くん。ついに唐揚げを無限に食べるフェーズになるかと思いきや、思わぬ副作用が発生してしまいます。質量を持ったまま体積がゼロになった唐揚げはどうなると思いますか?

なんと密度が無限大になってしまうのです。唐揚げの密度が無限大になると何が起きるのか?

唐揚げがブラックホールと化すのです。

今やブラックホールの中心になった佐藤くんの腹部に、唐揚げが次々と吸い込まれ、同化していきます。果たしてこれは食べていると言っていいのか? 口から摂取せずに腹部に吸着して、体の一部になっているのを食事と呼んでしまっていいのか!?

……ここで母ちゃんのジャッジが入ります。果たしてどのような判断が下されるのでしょうか!?

えー、結論が出ました。唐揚げが体の一部になっているなら、OK! とのことです!

ブラックホールの重力により佐藤くんと同一化した唐揚げは、佐藤くんと不可分の存在として扱って良い。すなわち佐藤くん大勝利です。果たして、ここに佐藤くんは唐揚げを無限に食べる準備ができたと言ってよろしいでしょう。

はい、まだ準備なのです、まだまだ試練は続きます。佐藤くんが唐揚げを無限に食べるには、唐揚げを無限に用意する必要がございます。しかし悲しいことに、この宇宙に存在する物質やらエネルギーやら、唐揚げにできそうなものは残念ながら有限ですので、佐藤くんが唐揚げを無限に食べることはできません。佐藤くんが唐揚げを無限に食べ続けた場合、最終的に宇宙には佐藤くんだけが存在し、唐揚げが存在しない状態に行き着くことでしょう。そうなっては唐揚げを無限に食べることはできません。嗚呼、最初に除外した、体の外に出すという選択肢が、ここに来て致命的な欠陥をもたらすとは。持続可能なサイクルというのは、かくも大切な事だったのです。

嘆いてばかりでは始まりません、欠陥が見つかったのならば直せばいい事、しかし佐藤くんはすでに大型ブラックホールです。ブラックホールというものは、光すら外に逃すことは無いというのが売り文句の宇宙の神秘でございます。そこから何とか資源を取り出し、母ちゃんが唐揚げを揚げて佐藤くんが食べる、というサイクルを構築する必要がございます。

これがまた難題でございまして、ブラックホールから人為的に何かを取り出すという試みは、思考実験でも成功した例がございません。無いですよね? 無いってことにしてください。はい無かった。

人為的に佐藤くんから唐揚げを取り出すのが無理だとすれば、自然現象として佐藤くんから唐揚げを解放するしかありません。そして、ここに取り出したるは振動宇宙論。ブラックホールが宇宙の全てを吸い込んだ結果ビッグクランチという状態になり、そこから次のビッグバンが起こって新しい宇宙が生まれるという説でございます。

新しい宇宙が生まれれば、また唐揚げを作ることもできるでしょう。

そう決めましたら、今この宇宙にある全ての物質、全てのエネルギー、そして全ての空間を母ちゃんが唐揚げにして、佐藤くんに食べて貰います。そうして、宇宙の全てを内包した佐藤くんが無限の唐揚げを望むことで、佐藤くんはビッグバンとなり新しい宇宙が生まれました。

そうして遂に、佐藤くんが唐揚げを無限に食べるサイクルが確立されたわけです。

今日も母ちゃんが無限に唐揚げを作って、佐藤くんが幸せそうにモグモグと無限に唐揚げを頬張っております。

ところで最近、佐藤くんの嗜好に若干の変化があったようで……?


「ポテトも無限に食べたいな」

お後が宜しいようで。

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唐揚げを無限に食べたい Enju @Enju_mestr

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