第22話 見えぬ襲撃者

「よーし、今日はもう終わりだ!解散してくれや」


慎士側から戻ってきた班長が声をかける。もう終わりか。案外時間というものは早く過ぎ去っていくものなんだな。最初は斧を振るのは難しいなとか思っていたけど慣れてくると楽しくなってきた。


今日のバイトは午前中で終わった。それなのにも関わらずいつもは使わないような箇所の筋肉は悲鳴をあげている。うん。疲れた。早く帰ってもう休むとしよう。


「お疲れ様。これはなかなか大変な作業だったね。ここまでの力作業なんて普段やらないからさ」


笹森だ。


「ああ、お前も疲れているのがよく分かる。お互いさっさと帰って休もうぜ」


「そうだね。じゃあ、また明日だね」


「おう」


素っ気ない返事をする。笹森は俺に手を振ってから森を出るために歩き始める。俺はもう少しここで休んでいることにする。ちょっと歩くのがしんどいわ。足と腕どちらをよく使う?と聞かれたら 腕の方が絶対使ってるて自信を持って言えるだろう。だが今日は踏ん張るためによく足に力を入れたものだ。


それから10分ぐらい丸太の上に座っていた。放心状態でいた気がする。辺りを見渡してみると見事に誰もいなかった。もうみんな帰ったようだ。


(さて、俺も帰るとするか)


俺は腰をあげる。疲労からか腰が重かった。慎士の方はバイト終わってもう帰ったのかな。班長がこっちに来たなら終わっているとは思うが。待ってるなら待たせるわけにはいかねぇか…。同じく重い足で森の中を歩き始める。


しばらく歩いて5分くらいのところに差し掛かったとき。


(あ?…………)


俺は不穏な何かを感じた。それを森も感じたように少し草木が揺れている。


(俺はこの空気をよく感じてたっけな…。これは…………殺気か。ただ漏れだ。近くにいるのは分かってるんだが……)


殺気を感じるだけで人が見えない。どこにいるのだろうか。手のうちようがない。俺は心の中でのみ警戒する。気づいていることを悟られてはならない。


(殺気がふくれ上がったな…………来るか!)


先程は丁寧に流れてた殺気が氾濫はんらんした川のようになる。


「…………うっ!!」


向けられた殺気から少しずれるように身体を横に動かした。だが何かの攻撃は受けた。

肩には感じた痛みがある。そこには1本のナイフが刺さっていた。刺さるまで見えることのなかったナイフ。もし動くことがなかったら首元などの危険な部位に刺さっていたかもしれない。ナイフを抜き、叫ぶ。


「おい、誰だ!姿を表しやがれ!しばくぞゴラァ!」


俺は[灼熱の闘志]を発動。拳と足に炎を纏う。だが相手が見えなければ意味がない。ここはどうするべきか……。3秒で決める。


「出てこねぇならいいぜ。俺はもう帰るからよぉ」


ナイフが襲ってきた方向に背を向ける。俺は歩き始めた。このまま易々やすやすと帰らせてくれる襲撃者ではない。


(おうおう。さっきよりも殺気が膨らんでるねぇ)


案の定殺気を纏った何者かがこちらへ向かってくる。ふん。俺が簡単に背を向けると思うか?


「…………………っそこだ!!」


殺気が俺の元へ限界まで達した瞬間に回し蹴りを後ろへ放つ。何者かに直撃し、にぶい音が鳴る。


「感触あり。だが直前に腕で防いだか」


先程まで見えなかったナイフが空中から落ちる。だがその持ち主までは姿を見せることはなかった。俺は言う。


「俺に隠れて近づこうとしても無駄だぜ?多少の殺気ぐらいなら感じられるんだよ。もっと隠しておけや」


言い放ってからは特に殺気が近づくことはなかった。だが完全に殺気が消えるまでは警戒だ。また襲われる可能性がある。


(姿の見えない敵ねぇ。まあ、めんどくさい野郎だな。次会った時にはてめぇの透明マ○ト剥がしてやるからな)


さて、脅威は一旦去ったことだし慎士と合流してぇな。待ち合わせは〔ハッピーホーム〕の入口ということになっているが先程丸太で休んでいたのと襲撃者により時間を使ってしまった。


(とりあえず行ってみるか)


再び俺は歩き始め、森を出る。〔ハッピーホーム〕についたら裏口から入り、まずはこの作業服から制服へと着替えるために更衣室へ行く。なんか作業後だとベタベタするな。早く洗いたいぜ……。そんなことを思いながら〔ハッピーホーム〕入口へ向かう。


「あ?まだ来てねぇのかよ」


慎士は俺が来たときにはいなかった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る