第20話 働く俺達 1

「「「お願いします!!!」」」


「よし、寝坊はいねぇな。よっしゃ!ならあらかじめ分けておいた班になってくれ」


朝、バイトのために〔ハッピーホーム〕へ向かった。バイト初日だ。しっかりしなければいけねぇな。


〔ハッピーホーム〕に着くと、昨日のとは違う看板があった。俺達バイトのやつらの名前が10人1組くらいでそれぞれまとめられている。仕事場の班ができているようだ。


(俺の班はと…………全く知らねぇやつしかいないのかよ………。まあ、いいや)


「龍。見事に離れたな。知らないやつしかいない?逆に考えるんだ。なら危険人物はいないから安心して働けると」


「危険人物か………。確かに俺の班にはプレイヤーといえるやつはいないし、急に暴れるようなのもいねぇから大丈夫か。だが慎士、てめぇの班には…………」


「沢木 浩二。やつがいる」


―――沢木 浩二


合否発表の日に俺達に真っ先に話しかけてきた男だ。


「あいつはプレイヤーだ。いつ襲ってきてもおかしくはないがこんな仕事場で殺り合うような馬鹿ではないだろう。今のところは多分大丈夫だ。せいぜい仲良くやるよ」


「だといいんだかな」


「んじゃ、とりあえず集合場所へ向かうかね」


俺達は集合場所もとい、グラウンドへと向かう。以前、面接の時に行ったところはあくまで会議や休憩、職員の寮とかに使う。そんな辺りだ。俺達はバイトだし、近くに住める場所もあるので利用はしない。というか、寮に住む分の金がない。


グラウンドは〔ハッピーホーム〕の裏側にある。俺達がグラウンドへ行くと、もう何人かは来ていた。


「やあ」


沢木だ。彼ももう来ていた。俺達は普段通りの挨拶をした。警戒心を見せるのは良くないと思う。


「おはよう」


「おう。朝なのに元気そうじゃねぇか」


「そこまで朝は嫌いではないんだ。ただ、起きるのが好きではないだけでちゃんと覚醒できたら気持ちの良いものだよ」


「それは分かるかもしれねぇな。ずっと布団に入っていたいけど出ちまえばなんとも思わねぇのと同じだぜ」


そんな話を適当にする。彼は意外と話題を持ち出すのが上手く、途切れることは無かった。こいつはクラスだと委員長とか議員やっていそうだな。こういうどんなやつでも相手できるのは人望とか厚いタイプ。


慎士も俺に構ってくれるようなお人好しだからな。委員長になるくらいにはクラスのやつから好まれていたと思う。メイド趣味を知ったらどうなるかは知らんが。


「よし、全員台前集合してくれー!」


班長からの招集だ。腕時計を見ると、7時になっていた。起きる時間もちょうどよかったし、明日からもこの時間にしようと思う。


「おはよう。みんな、今日からよろしくな!!」


「「「よろしくお願いします!!」」」


全員の元気のよい挨拶がグラウンドに響きわたる。


「よし、寝坊はいねぇな。よっしゃ!ならあらかじめ分けておいた班になってくれ。1班から順に右からだ」


(良かったぁぁぁ!!班のやつの名前なんか知らねぇから1人佇たたずむところだったぜ……)


次々と班ができていく。俺も班のやつに混ざっていく。こいつらが同じ班なのか。マジで知らねぇやつしかいねぇぞ。慎士は沢木と普通に話しができている。いいなあ相手がいて。こちとらそんなやついねぇのよ。


そんな俺が集団の中で1人佇んでいると、隣から何かが話しかけてきた。まさに救いの手!救世主!


「やあ、おはよう。僕の名前は笹森ささもり 透也とうや。今日からよろしく頼むよ」


俺に話しかけてきたやつは名乗った。俺は急に話しかけてきた知らないやつは疑うことにしている。笹森という男は眼鏡に割と高い身長。慎士と同じくらいだろうか。雰囲気は慎士に似ているが全員とかかわる委員長タイプというより、趣味に関しては特に喋ることが出来る4人くらいのメンバーで普段過ごす陽と陰の真ん中という平和的ポジションのやつ。


こいつはプレイヤーなのか?制服ではないし、腕時計が見えない。だが制服なんか着替えればいいし、腕時計も取り外せばいいからな。昨日の時点ではこんなやつがいるのも知らなかった。そもそも俺が昨日相手にしたのは沢木しかいない。


ただのAIなのかそれとも隠れプレイヤーなのか。


まあ、そんなのどうでもいいか。今は知るよしもないからな。俺は彼に応答する。


「おう。俺は荒井 龍。よろしくな」


挨拶を交わす。適当な会話をしようとしたその時、班長からの言葉がかかる。


「集まれたようだな!んじゃ、それぞれの班の担当を言っていくぞ!まず1班は木造建築のために伐採作業だ。2班は伐採された木を運ぶ。3班は土地の整地時に出てきた土を運ぶ。細かいことは俺が回りながら教えるから待っていてくれ。では、1、2班はついて来てくれ。3班は後でな」


把握。俺達は1班だから伐採作業か。斧とか振るのだろうか。実際に振ったことがないからどんな風にやるのか分からないな。ほとんどのやつがそうだろうけど。


「あ………そういやぁ、作業服忘れてたな。ちと取ってくるわ!」


班長が〔ハッピーホーム〕本体の中へと入っていく。制服で作業とかとんでもねぇよ。班長が思い出してくれて助かった……。


待っていると班長が大きなカゴを荷台に乗せてグラウンドへ来る。カゴの中には服が多く入っている。作業服だろう。てかこの人数分の作業服とか荷台あっても重すぎないか?班長はどれだけの力があるんだよ……。


「1班から順番に持っていってくれ。着替えは〔ハッピーホーム〕の中に更衣室があるからそこで頼むわ。では」


次々と手渡される作業服。更衣室へと向かい、俺達は着替える。鏡があったので自分の姿を見てみると、大工とかそういうのではなく清掃員に見える。なんか違うんだよなあ。


着替えが終わった者からまたグラウンドへと集まる。5分程待っていたら全員が揃った。班長が今度こそ誘導を始める。


「よし、気を取り直して行こうか」


班長を先頭に俺達は続く。この辺りの森といったら最初に鈴木と戦った森ぐらいだろうな。良くも悪くもいい思い出だ。


10分程歩くと例の森へ着いた。やはり鈴木戦のあった場所だ。奥へと進み、止まるなり班長が話し始める。


「1班~。お前らはここに置いてある斧を使って伐採してくれ。斧を使ったことのあるやつはいるか?」


「「「………………………………」」」


沈黙。


「そうか、誰も分からないのか。…なら、今から手本を見せるからしっかりと見とけよ」


班長が、置いてある箱から斧を1本取り出り出し、手身近な木の横に立つ。そして斧を振る。


「オラァ!!」


班長が振った斧が木に深く刺さっていた。そしてすぐに抜き、構え直す。これを何回か繰り返した。


「こんな感じでやるんだ。正直これは感覚で覚えてくれ。頑張ってな」


今のを真似しよう思ってももやっぱり分からないぜ………。班長の言う通りに感覚で覚えるしかないか。


「んじゃ、次は2班だ。2班は言った通りそのままだ。運び作業をやってくれ。木はグラウンドの隅にでも置いておいてくれ。とりあえず木を切り倒すまで待っていてな」



班長が簡単な説明を終えた。そして後ろを向き、


「俺は3班の方行くからあとは頼んだぜ。まあ、初日だし大変と感じるかもしれないが頑張ってくれや」


歩いてこの場から去るのだった。


(さて、やれるだけやってみるか)


俺達1班は斧を持って木の前へとそれぞれ立つのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る