拷問式アカデミーへGO!

ちびまるフォイ

拷問されている人

「こ、ここはいったい……!?」


目を覚ましたときにはすでに体は謎の器具に固定されていた。

周囲は壁に囲まれて脱出もできそうにない。


すると、目の前にあるモニターの電源がついた。


『目が覚めたようだな』


「お前は誰だ! ここはどこなんだ!

 一体何が目的で……アビャビャビャビャ!!」


全部いい切る前に体全体に電流が走った。


『これで話を聞く気になったかな?』


「……」


あまりの痛みに声も出せなくなった。


『質問に答えよう。ここは拷問アカデミー。

 絶望的な成績を出し続けている君を見かねて

 君の両親がここへ入れた』


「拷問アカデミーって……そんなばかな」


『人間の一番深い部分の記憶は痛み、だ。

 痛みの記憶は頭だけでなく体にも残る』


「ま、まさか……」


嫌な予感しかしなかった。

直後に電流と高校数学の基礎問題が表示された。


「う゛あ゛あ゛あ゛ーー!!!」


『はい! ここはこうして分解することで

 こういう形式で解くことが出来ます!!』


「いいから電流止めてくれーー!!!」


講義が終わると電流が止まる。


「はぁ……はぁ……こんなの覚えられるわけない……。

 痛みに耐えることで精一杯だよ……!」


『では次の拷問へ』

「えっ?」


やっと電流に慣れてきたと思ったら次は別の拷問器具へと連れて行かれた。


今度は机の上に1枚の用紙がある。


「こ、今度は普通の勉強みたいだな……」


『用紙の問題を解いてください』


「最初から普通にしてくれよ……って熱っつ!!!」


用意されてた椅子に腰掛けると鉄板のような熱さに飛び上がった。

ズボンのおしりがブスブスと煙を上げている。


「ちょっ……こういう嫌がらせはやめろよ!!」


『椅子に座らないと筆記用具は机から射出されません』


「えええ!?」


遠目から用紙に書かれている問題を見る。

どれも記述式ばかりで、すぐに答えがわかるタイプではない。


覚悟を決めて、息を整えて、椅子に座る。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!! あ゛つ゛い゛ーー!!」


机に空いている穴から鉄の筆記用具が出てきた。

手に取るやまた熱さで落としてしまう。


「筆記用具も鉄板なのかよ!? 皮膚ただれるって!!」


『痛みに耐えてこそ人は深いところで記憶するのです』


「勉強以前に心が耐えられないよ!」


『カリキュラムを終えるまでは出られません』


「わ、わかったよこのやろーー!!」


歯を食いしばり痛みに耐えながら問題を解いていく。

間違えてしまえばまたカリキュラムが増えるということで必死だ。


今まで使ったこともないほど脳はフル回転し問題をとき終わった。

椅子から転げ落ちて必死に手と尻を冷やした。


『お疲れさまでした。では次のカリキュラムへ……』


「もういい加減にしてくれ! なんでいちいち違う拷問器具を用意するんだよ!」


『同じ刺激を繰り返しては慣れてしまい定着しなくなります』


「鬼だ……」


その後も続く拷問を必死に耐えしのいだ。

体も頭もボロボロになってしまった。


『これでテスト範囲は終了しました』


ドアの鍵が開いた。


「こんなの……効果あるわけない……」


拷問部屋から解放されてから勉強する気になれなかった。

問題を見てあの経験が思い出されそうで怖かった。


ついに期末テストの日が訪れた。


「では試験をはじめてください」


テストの問題用紙を見るなり、瞬間的に頭の中で答えがうかんだ。

まるで手足を動かすように無意識のことだった。


「すごい……! 全部覚えてる……!」


拷問からテストまで期間があったにもかかわらず、

あの痛烈な記憶は体に焼き付けられて忘れることは出来ない。


これまで最下層の成績をとっていた自分が

学年トップの成績へと返り咲いたことで教員は一斉にカンニングを疑うほどだった。

生徒たちからは尊敬の眼差しを注がれた。


「ずっと授業で寝てたお前がトップなんて!」

「テスト前も全然勉強してなかったじゃない!」

「いったいどんな魔法を使ったの!?」


「実は……拷問アカデミーに通ってたんだ」


羨望の眼差しを向けるクラスメートに拷問のことを全部話した。

みんなはたとえ拷問を受けたとしても、成果の出ない自主勉強よりは良いと誰もが参加した。


学内で拷問アカデミーをしなかった人はもうだれもいなくなった。

通わないと成績格差が大きく開いてしまうからだ。


拷問を受けずに必死に覚えるにはあまりに量が多いし時間もかかる。

辛い拷問と一緒に記憶したほうがずっと効率的。


すっかり拷問がメジャーになった頃、次の期末試験が近づいてきた。


「ようし、そろそろ拷問アカデミーで詰め込んでおくかな」


拷問後の病院を予約し、心の準備を済ませていく。

どんな拷問を受ける覚悟がなければ終わらない。


「次はどんな拷問が待っているんだろう……」


次の新鮮な拷問に怖さと楽しみを半分ずつ抱えながら、

拷問アカデミー用の昏睡送迎バスで連れて行かれた。


次に目を覚ましたときにはどこかの事務所だった。


『目が覚めたようだな』


「拷問アカデミーがはじまったのか……!」


『さすがに二度目とも慣れば理解が早いようだな』


「それで、今度の拷問はなにをさせる気なんだ!

 この事務所でいったいどんな拷問をさせられるんだ!」


見たところどう見ても普通の事務所。

事務机が置かれていて、筆記用具がおいてある。

ところどころには設計図や企画書らしきものもある。


「ハッ……! まさかこの椅子に座ると電流が……!?」

『ちがう』


「自分の指の爪をはがさないと問題を解けないとか!?」

『ちがう』


「実は俺の頭に取り付けられた器具が、徐々に頭蓋骨を締め上げていくとか!?」

『ちがう』


「じゃあなんなんだよ!! いったいどんな拷問をするつもりなんだ!!」


備え付けられていたモニターから拷問講師の姿が消えた。

事務所のドアが開くと、疲れ切った拷問講師がやってきた。



「お前の拷問は、大量に入会してくる生徒に対して

 毎回新しい拷問方法と問題用紙を作るという拷問だ……」



その拷問はこれまでのどの拷問よりも辛く厳しいものだった。

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