北太平洋浮島編
第29話 思い付きは突然に
「北太平洋の浮島に行きたい!!」
大阪ダンジョンからギルドホールへやってきた妹が大量のパンフレットを抱えていた。
「東京ダンジョンも行ってみたいけど、やっぱり海に行きたい!!そしてついでに海で狩りもしたい。みて、このパンフレット。浮島では海にもモンスターが居て、それを狩ることができる砂浜があるみたい。」
妹がテーブルに広げたパンフレットの大きな海洋モンスターと戦っている写真を指さす。
「確かに夏休みになったのに海に行かない選択肢はないと思うわ。でも私たち高校生や中学生よ。そんな海外に出るだけの旅行費なんてあるわけないでしょ!!バイトも何もしてないのよ。」
現実主義の神山。
「アンジェリーナさんギルドで合宿を提案します。全員でギルド費で旅行に行きたいです。」
妹、助けてアンジェリーナ状態に。
「そんなお金ギルドにあるわけがないじゃない・・・。ないよね?アンジェリーナさん。」
神山がアンジェリーナの方を見る。
「あなた達がいくら稼いでると思っているの?そんなの飽きるくらい行けるくらいのお金がこのギルドにはあるわ。ダンジョンで稼いだお金を全部一旦回収して、再配布の希望があれば再配布する予定だったけど、だれも希望を出さないもの。強制にとりあえず金貨200枚ずつ配布しようか迷っていたところよ。」
アンジェリーナは神山の質問に答える。
「なら別に浮島に行っても問題ないよね?それとも神山さんは行きたくないの?」
妹が神山さんをあおる。
「行くわよ。絶対に行くわ。ただ、海外に行ったことないから不安なのよ。」
神山さん、浮遊都市も一応海外ですよ。
「神山、浮遊都市も海外だぞ。」
森が突っ込んだ。
「うるさい!!」
神山に八つ当たりされる森。
だから俺は神山に突っ込まなかったのに馬鹿だな。
「私もせっかくなので行ってみたいですね。でも海外なので父と母に許可をもらいに行かないといけないですね。」
ゆりちゃんは冷静だ。
「僕も浮島の海に行きたいです。こんな機会めったにないですし、行きましょう。鈴も行きたいよね。」
一ノ瀬の誘いにうなずく鈴。
「私も海に賛成です。お店も夏期休暇にして遊びに行きましょう。」
夏の書き入れ時の忙しい時期に夏期休暇を宣言するシェフ。ジャックの店はモンスター関係を扱う料理店として有名になり、パンフレットにも載っているくらいなのに。
「海か、俺あんまり泳げないんだよな。」
真斗は少し渋る。
「氷属性が増えたし、泳げるんじゃない?それにダンジョンの水メインのフロアで普通に泳いでいたじゃない。」
同じ変身スキル持ちの神山が言う。
「いや、あれはダンジョン内で足がつくからで、海とか波があったり足がつかなかったりすると不安で。」
「真斗はお子様か?ゆりちゃんにでも泳ぎ方教えてもらえ。ダンジョンで泳いだ時いいフォームしていたからきっとうまいと思うぞ。」
真斗の泳げない発言に森がからかう
妹が仕掛けたゆりちゃんと真斗引っ付け作戦のおかげか、すこし距離が近くなった2人。
それはからかうどころか、むしろプラスの方向だぞ。
「いいですよ、私でよければ泳ぎ方お教えします。」
意外にもゆりちゃん好印象な返事。
この返事で2人の関係に気づいたのは・・・神山と鈴か。
「関西空港から北太平洋浮島への飛行機出てなわね。羽田空港から出発ね。」
アンジェリーナがその場でいろいろと調べる。
成人の引率としてアンジェリーナ、ジャックがいるということで各家庭でOKがでた。
こうして俺たちは東京経由で北太平洋浮島に行くことになった。
ーーーーー
「皆さま、本日はスターメンバーAMA 羽田空港行 1084便をご利用いただきまして誠にありがとうございます。当機はまもなく離陸いたします。お座席のシートベルトをもう一度ご確認の上、お手荷物は前の座席の下か、頭上の物入れにお入れ下さい。お座席のリクライニング、テーブルは元の位置にお戻し下さい。」
飛行機のアナウンスが流れる。
豪華に全員がビジネスクラスだ。ファーストクラスクラスにしなかったのは全員分の席が確保できなかったかららしい。
アンジェリーナと俺は隣同士の席。仕切りが外されている。
ほかに仕切りが外されている席は鈴と一ノ瀬ペア、森と神山ペアだで、ほかのメンバーは窓側の一人席だ。
妹は飛行機の窓から外を見ている。ちょうど今は滑走路が見えている。
飛行機がエンジンを震わせて、一気に加速していく。
身体が座席に押し付けられ、地面が傾き、飛行機はゆっくりと離陸をした。
「何度乗っても離陸と着陸はなれないわ。」
アンジェリーナはそう言いながら、大量の論文をあさっている。
なれてるじゃねーか。
飛行機はどんどん地面から離れて、耳が痛くなってくる。
するとアンジェリーナが、俺に飴玉を渡してきた。
「気圧の変化で耳が痛いんでしょ?飴玉をなめてればマシになるわ。」
「ありがとう。」
俺は素直に受け取る。
しばらく飛行していると、ベルト着用サインが消えた。
「あー、やっと解放されたわ。これでゆっくり読むことができるわ。」
アンジェリーナはリクライニングシェアのように背もたれを倒す。
俺もアンジェリーナと同じようにリクライニングを倒した。
「えーと、たしか東京についたら夜まで待たないといけないんだっけ。」
俺はアンジェリーナに予定を確認する。
「そうよ。荷物はずっと預けたままでいいけど、昼にはつくからだいたい10時間くらいあるわ。急な予定だったから大阪東京間のチケットがなくて。でも、おかげで東京を観光する時間ができたわ。」
アンジェリーナは論文をよみながら言う。
そう言うならせめて東京観光のパンフレットでも広げたらいいのに。
俺は東京のガイドブックを開く。
「ああ、東京のガイドなんて見なくてもいいわよ。どうせあなたの妹のことだからダンジョンに行くことになると思うわ。」
なるほど、それもそうか。
アンジェリーナは妹の行動パターンを把握し始めているみたいだ。
「それか、個別で解散してお店を回るのもいいわね。チャンと二人っきりでデートというのもありね。」
「あー、まー、いいよ。」
なんとなく肯定してしまった。
「そうなると、楽しみになってきたわ。」
アンジェリーナはそう言いながら論文の束をカバンにしまい、東京のショッピングモールを探すためにか付箋が大量に張られたガイドブックを広げる。
アンジェリーナは実はこの旅行とても楽しみだったようだ。
羽田空港に着くと、長い距離を歩かされ、荷物受け取り場を横目に見ながら通り過ぎ、制限区域を出る。
「あーーー、東京に着いたーーー。」
妹が人の目たばからず、大きく伸びをしながら言う。
他のメンバーは知らないが、俺と妹は初東京だ。
真斗と森、神山、一ノ瀬、鈴は不安そうにキョロキョロしている。5人も初東京なのだろうか。
慣れてそうなのはイタリア人のアンジェリーナ、そして島っ子の志帆のようだ。
アンジェリーナは誰かを探しているようだ。
そして目的の人物を見つける。
「ジャック、お待たせ。今浮遊都市は地球の裏側だから飛行機長かったでしょ?」
「オーナー。やっと飛行機から出れましたよ。」
フランス風挨拶か、抱き合う2人。
挨拶と分かっているが、なんか物凄くイラッとした。
それを見たアンジェリーナ。
「ああ、えーと。これはヨーロッパの挨拶で。」
「知ってるよアンジェリーナ。」
アワアワとするアンジェリーナ。少し可愛かったので許すことにした。
うーん、恋人では無いのに許すか。
なんか違う気もする。
思春期である。
「ジャック、さっき隣にいた女性の方は?」
「ああ、今回東京を案内してくれる如月さんですよ?」
少し長めのセミロング、ロールをつけた髪の毛。白い薄手のヒラヒラワンピースを少し保護するようにコーディネートされた黒色カーディガン。
全体的にモノトーンで、シックな大人だけど美しさがある服装で現れた如月さん。
「お久しぶりです、皆さん。」
「え、如月さんって普段から女装しているんですか?」
俺はあまりにも女性らしい如月さんに思わず聞いてしまった。
「あー、そういえば、最後まで男装のまま会っていたね。私これでも女ですよ。」
そう言って俺の額あたりをなでなでするきさらぎさん。
完全子供扱い....
後ろを振り返ると驚きで口をパクパクしてマヌケな顔をした真斗、森、アンジェリーナ、志帆、一ノ瀬が立っている。
「お兄ちゃん、さすがに失礼だよ。」
「そうですよ、お兄さん、失礼ですよ。」
妹とゆりちゃんに怒られてしまった。
「2人は気づいていたの?」
俺は妹たちに聞く。
「もちろん。」
「確かにわかりにくかったですけど、声のトーンなどでわかりました。」
探偵ですか?2人は。
「ちなみに私も気付いていたわよ。」
鈴が主張する。
そうですか、探偵は3人いましたか。
「男性と勘違いしてくれる人がこんなにいるなって。男装しがいがあってお姉さん嬉しいな。」
如月さんは少し嬉しそうだった。
俺たちは如月さんの後をついていく。
羽田空港は関西空港よりも大きいはずだが、空港のスケールは正直大きすぎてどれくらい大きいかはわからない。
だけど、到着ロビーから地下深くまで続く長いエスカレーターに乗った時は、さすがに東京。スケールが違うと感じた。
「電車でも行けるけど、東京環状線に乗りたいから、モノレールに乗るわ。みんな大阪で使っていた交通系ICカード持ってるよね?基本東京の電車は全部使えるから。」
長いエスカレーターに乗りながら説明する如月さん。
もはや地下何階かわからないくらい地下に降りると、モノレールの看板と電車の看板があった。そしてそれと並ぶように両替屋とゴールドコイン銀行ATMが設置されている。そしてその隣にはダンジョン通貨専用と書かれた普通のATMもあった。
俺がダンジョン通貨専用ATMを眺めているのを見た如月さんが説明してくれる。
「大阪にはまだ無いでしょ?その専用ATM。東京ダンジョンの入り口と人が多いところに設置され始めたんだけど、ダンジョン通貨で生活する人が増えたから、大手銀行が8月から日本円だけじゃなくてダンジョン通貨も扱うようになったのよ。裏の目的は政府や自治体がダンジョン通貨が必要な時に、銀行から貸付できるようだけどね。」
おいおい、それ言っていいのか?
「大丈夫よ、そんな不安そうな顔しなくても。私でなくても知ってる人は多いわ。」
さすが公安。人の表情をよく読む。
「レート低いわね。」
アンジェリーナが両替屋のレートを見て言う。
「まぁね。やっぱりダンジョン裏の両替屋の方が良いレートしているけど。
でも最近は政府が積極的にダンジョン通貨を買っているから、ダンジョン通貨から日本円は比較的変わらないか、空港の方が安い時のあるくらい。おかげで今、海外からの人が多いわ。」
アンジェリーナさんと如月さん会話内容が別言語に聞こえる俺。
「今は東京の秋葉原と京都が人気観光地ね。秋葉原は無駄に凝った特殊装備パーツとかの聖地、京都は歴史と大阪ダンジョン入り口両方があるから。」
なるほど。
「俺、秋葉原に行ってみたい!!」
ロマン武器持ちの森は興味があるらしい。
「私も行ってみたいです。」
ちょっと恥ずかしそうにいうゆりちゃん。
妹が、少し頭を抱える。
「ゆりちゃん、今日は我慢した方がいいよ。」
妹がゆりちゃんに忠告する。
「目的は同じ秋葉原なんでしょ?一緒に行けばいいじゃない?」
神山さんの意見に賛成だ。
「いや、なんというか。目的はダンジョン装備では無いと思うし。」
妹の一言に俺は察した。
ゆりちゃん、オタクだったのか。
真斗と森、鈴、アンジェリーナは頭にクエッションマークが浮かんでいるようだ。
アンジェリーナはともかく、お前らはオタクの人間とは無縁の生活だからな。きっとアニメルトとかいうお店も知らないのだろうな。
俺はあまり詳しくは無いが、妹に勧められて高校1年の暇な時代にアニメを見ていたので、少しは知っている。
鬼の妹のアニメは面白かったな。
「時間もあることだし、秋葉原で一旦観光する?集合場所を決めて個人でお店を巡ったら好きな武器のお店とか自由に行けるよ?」
オタクの事を隠して秋葉原にいく事を提案する、如月さん。
マジ有能。
嬉しそうなゆりちゃんと森。
俺たちはモノレールの改札を入った。
さらに地下へ降りる階段が続き、ホームに着く。
「地下にモノレールが走ってるって珍しいわね。初めてみたわ。」
アンジェリーナは物珍しそうにホーム柵から体を乗り出して、モノレール特有の太いコンクリートのレールを見る。
「そうかな。もう見慣れてるからあまりそうは感じないけど。アンジェリーナがいうならきっと珍しいのかな。」
如月さんも流石にそこまでは詳しくは無いらしい。
「確かに言われてみれば、珍しいな。大阪のモノレールは全部地上しか走ってなかったな。」
大阪の北部にもよく足を伸ばす真斗が言った。
モノレールが案内放送とともにホームにやってくる。
大阪の地下鉄はホームに入る時強い風が来るので、ちょっと気を張ったが風は全くこなかった。
地下モノレールは風がこないらしい。
俺たちは特急モノレールに乗る。空港を出てたら全く止まらずに終点まで行くらしい。
俺たちは便利だけど沿線の人は不便そうだな。
「ラッキーね、一番前の席が全部空いているわ。」
そう言って何も見えない真っ暗な展望席にいく一行
ただ運転席はなぜかカーテンが閉められていた。
扉が閉まり、モノレールは走り出す。
電車ではよく経験する駅の通過だが、モノレールが駅を通過するのはなんだか少し新鮮だった。
「お兄ちゃん、初東京楽しみだね。」
妹はちょっと興奮気味た。
「シャレーにコークにルエビトンとかも行ってみたい。」
ちょっと待て、妹。それ全部超高級ブランドだろ。
「せっかくだから高級な鞄とか欲しいな。」
「自分で買え。」
「えー、初めて空港に行った時、お小遣いあげたでしょ。そのお返しと思ってね。」
あの時、ポーションのお礼とか言ってなかったか妹よ。
ゆずる気が無い俺をみて妹がアンジェリーナに提案した。
「アンジェリーナさん、私ギルドの報酬分配を希望します!!」
モノレールでいきなり言い出した妹。
「それはいいけど、金貨100枚くらいでいい?」
アンジェリーナ、いきなり中学生に100万を渡そうとする。
「アンジェリーナ、やりすぎだ。そんなお金もらっても管理できないだろう?それに渡したら危ないし。」
俺はアンジェリーナを止める。
「と、とりあえず、金貨5枚くらいあればいいと思います。」
ゆりちゃん、今回の予算は5万円なのね。
「なら、余裕を持って全員に金貨10枚配るわ。」
そう言って鞄からコインケースを出して10人全員に金貨10枚を配り、自分の財布に金貨10枚を入れるアンジェリーナ。
「あと、ギルド経費になるものはこのクレジットカードで切って頂戴ね。武器とか装備とか、ダンジョンに関連するものはなんでも経費にしていいから。」
そう言って高校生中学生相手にクレジットカードを渡すアンジェリーナ。
俺は受け取ったカードを見る。
俺の名前がローマ字で書かれている。
黒色のデザインのカード。なんとなく高級感があるような気がした。
「アンジェリーナのことだから、ゴールドのクレジットカード渡すかと思ったよ。このカードならデザインかっこいいし、普通のカードで安心したよ。」
正直、高校生の身分でゴールドカードを持った日には怖くて持てないところだった。
「それはよかったわ。ギルドは割と今お金があるからちゃんとした武器や装備を揃えて欲しいから、ケチってはダメよ。買うなら失敗してもいいから一番いいと思ったものを買いなさい。」
アンジェリーナは俺たちにアドバイスをする。
なお、金貨を出したあたりで如月さんは固まっていた。
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