第7話 最果て鍛治ギルド

路面電車が駅に着く。

「降りるわよ。」と言うアンジェリーナお姉さまの言葉に俺達家族、そしてサムが動く。


そして結構な人数が駅に降り立ち、隣に止まってる路面電車に乗り込む。


俺たちが6人もその流れに乗って乗り換える。


「すごい人でしょ。このうちの半分が同じ目的地なのよ。そして私たちも同じ場所に行くわ。」

なんと衝撃事実。

「最近金曜日から月曜日まではこの調子なのよ。最果て鍛冶ギルドのスポンサーが多くて、資金が有り余ってるみたいで。登録交通費補助とかいって鍛治スキル持ちとその家族は往復の航空券が何処からでも1人大銀貨2枚で買えるのよ。太っ腹よね。」


大銀貨2枚、2千円。4人で8千円。しかも往復。日帰りですぐに行くことになった理由がすごくわかった。


「ギルマスの弟が鍛治スキルで、それが原因でリストラされたらしいのよ。それでブチギレた兄がゲーム仲間で鍛冶スキルのためのクランを作って、同じゲームのギルドメンバーが上海とニューヨークで同じように鍛治スキルクランを作って、人口が多い鍛治スキルの人をみんな取り込んで、最強ギルドを作るってことで今のギルドになったんだよ。他にも至る所の鍛治スキルクランがみんな最果て鍛冶ギルドに入っていくもんだから、大忙しみたいだよ。」


よく内状を知ってるな。


「実は友人が最果て鍛冶ギルドのギルマスで、クランの時には私も最果て鍛冶屋だったのよ。ギルドに誘われたけど、私は鍛治スキル持ってないから断ったわ。」


「お姉さま、今は何処のギルドに入ってるの。」

妹が聞く。


「私は今はギルドに入るつもりはないわ。えーとさくらちゃんに。」


俺の名前がわからないのか、カードをアクセス端末にかざして確認するお姉さま。


「チャンくん?この最初の文字読めないわ。」

妹は「チャンくんって面白いぃぃ。」と笑う。


「もうチャンくんでいいですよ。」


「じゃ、チャンくんとさくらちゃんは何処かに入ろうと思っている?」

俺たちが2人は顔を横に振る。


「私もおんなじよ。あまりいいと思うギルドはないわ。いっそのこと、自分でギルドを作ってしまおうか考えるレベルね。」

「なにそれ、私も入りたーい。」

妹が元気よく手をあげる。「OK、作ったらさくらを誘うわ。」と笑いながら答えるお姉さま。


今日であったばかりで、この会話。これが女の子のノリなのだろうか。


そうこうしているうちに路面電車は進み続ける。

5駅くらい通し過ぎたところで、「ここよー。」とアンジェリーナお姉さまは言う。


お姉さまの言うとり、半分が降りてゾロゾロと路面電車の駅前にある大企業が本社に使うような立派なビルに入っていく。


「私たちもこのビルの用事よ。この建物一本丸ごと最果て鍛冶ギルドのギルドホームよ。」


ギルドの玄関を入ると吹き抜けの広いロビー。

天井に吊るされた液晶には“最果て鍛冶ギルドにようこそ”の文字。そして太陽を背に金床に金槌と剣がクロスした旗が大きく掲げられている。


案内看板の液晶には新規ギルド入会受付、旧クランからの移行受付、事前登録済み専用受付

エスカレーターを上がって4階。


がデカデカと書かれ、その下に普通サイズで

アクセサリー依頼、弾丸・消耗品販売 1階右奥

ギルド会員専用ロビー 1階左奥

武器製作依頼、武器強化依頼 2階

防具製作依頼、防具強化依頼 3階


その他お問い合わせ

ロビー中央 インフォメーション



俺の感想....会社かな?


「ここで一旦解散よ。ギルド入会組はここまま4階へ。時間かかし、私たちは入れないから退屈なのよ。終わったらメッセージ飛ばしてよね、サム。」

妹はそれに乗っかるように「お父さんもよ。絶対この建物から出ないこと。サムさんから離れないこと。迷子になるわよ。」と言う。


娘に言われて萎える父、それを見て笑うサムとお姉さま。


「では終わったら、ここに集合ね。そういえばさくらはダンジョンに行きたいと言っていたわね。今から行く時間あるけど行くの?」

「行く、せっかくだからお姉さまも行こうよ。お母さんも行くよ。」

お姉さまは、「私は今ダンジョン装備持ってきてないのよ。」と断ろうとするが、「いいじゃん、浮遊都市に住んでるんでしょ、装備取りに行って行こうよ。ダンジョンの案内もしてよ。」


いつもの妹突撃ミサイルに押され気味だ。


「チャンくんはどうするの?」

お姉さまは少し助けてと言わんばかりに聞いてくる。

「俺はダンジョン装備ないし、せっかくだから街を見て回るよ。」

と、1抜けした。お姉さまは諦めて3人でダンジョンに行くことになったようだ。


俺はみんなと別れ、1人行動をすることになった。


大きなギルドホール

周りを見渡すと、鎧などを着ている人が4割、トンビコートやカッパを着ている人が4割、普通の服を着ているが、剣や刀などを持った人が1割、後は俺みたいになにも持っていない普通の服や、スーツの人がパラパラ。時々職人らしき人が来るが、そのまますぐに奥へと消える。


そして特徴的なのが、ロビーにいる人は大概スマホをいじっている。


壁に「WiFi 1day/1.0CC」の文字。そして近くにその販売用らしき端末。

1日大銅貨1枚、日本円で10円。日本と違いインターネット環境が悪いこの土地でこの値段なら、みんな居つくよな。


俺もその端末で1日WiFiを購入した。


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昼に近く、お腹が減ったのでギルド内にあるレストランに入った。

「お一人様はカウンターになります。」

と店に案内され、メニューの代わりに普通のタブレットを渡される。

タブレットをタッチすると、国旗マーク一覧が出てきて、日本を選択すると日本語メニューになる。


外国なのに全然困らない。


俺は注文しようと商品の写真をタップするが、注文できない。


「すいません、天津飯と餃子、あとこっちはカレーをお願いします。」

と後ろのテーブルで注文する3人組。1人が手を上げている。他の客も注文するときは手を上げているようだ。


このタブレットはメニューだけで、注文は普通に注文する店で、注文時は手をあげるのがルールらしい。


俺は手を上げて注文した。

「すいません、ネギ塩坦々麺ひとつ。」


料理はすぐにきた。


スマホを見るとRINEがきていた。


真斗 RINE

“妹ちゃんから聞いたけど、浮遊都市に行くんだって?武器とか防具ほしい!もし見たら電話して!!”


うーん、なんと言えばいいか。

パシリ?


俺は一応返信する


俺 RINE

“今ちょうど、浮遊都市にいるよ。”


3秒で帰ってくる返事


真斗RINE

“マジで、武器屋さんとかない??”


俺RINE

“今まさに武器屋さんだ。”


RINE電話がかかってくる。俺は着信拒否した。


俺RINE

“今飯食ってる。口に物が入ってるから話せん。”


真斗RINE

“ご飯食べ終わったら電話して。”


俺RINE

“おk”


少し辛めの坦々麺を味わいつつRINEを返す。

麺をすすっていたら、隣の人にすこし嫌な顔をされた。

「あなた日本人でしょ、麺類を食べるとき音をたてるのは日本人だけって聞いてたけど。本当に音を立てて食べるんだね。」

インド風の気さくそうなおじさんに絡まれる。


「は、はぁ。」

完全に押され気味の俺


「音を立てて注目されてるのに、いざ話しかけるとシャイボーイか。やっぱり日本人は変わってるね。」


失礼な!!


「日本人が音を立てて食べるのは美味しいと言う意味の一つの表現だって聞いたことあるけど、実際に聞いてみると面白いな。」


ずけずけと言われる俺。周囲の人やお店のオヤジさんには受けているみたいだ。


「音を立てて食べるこの食べ方だと、麺類が美味しくなるんです。俺自論ですけど!!。」


なんとなくムカついたので反論した。


「他の人は知りませんけど、この食べ方だと、スープが麺に絡まるので、麺とスープが同時に味わえるんです。」


インド風おじさんアハハと大爆笑。


「それは面白い。坦々麺ひとつ追加。」

手を上げて注文するおじさん。


「カップヌードルとか、麺が縮れてるのはその方がスープが同時に口に入るからです。」

もうやけくそ、適当理論を言う俺。


「よし、シャイボーイの言う通り音を立てて食べてみるか。」


盛り上がる店内。やってくる坦々麺。


麺をすすろうとするが、すすれないインド風おじさん。


「日本の食べ方難しいな。コツが入りそうだ。食べるのに職人技がいるぞ。」


再び店で笑いが起きる。


「シャイボーイ、すすったら美味しいと言うならその食べ方教えろ。」


俺は何度か、自分の坦々麺をすすりながらやり方を教える。

「息を吸い込むように。だけどあまり一気に吸うと、むせるので手加減して。」

「空気は肺に、それ以外は口にザルのように口の中で分けます。」

ate...



「うん、確かにこの食べ方は美味しい。だけどこんな食べ方をいちいちするのがめんどくさいな。」

インド風おじさんは言う。


「店主、後で坦々麺を音を立てて食べてみろよ。日本人が麺好きでラーメンばっかり食べている理由がよくわかるぜ。」

再び店に笑いが起きる。


俺は手を合わせて「ご馳走さん。」と言ってレジに向かった。インド風おじさんも真似して「ゴチソウサン」と言ってカウンターを離れる。


「おい、シャイボーイ。音を立てる食べ方教えてくれたお礼にここはおごるぜ。」


そう言うインド風おじさん。


「さすがに悪いですよ。自分で払います。」

俺はレジのリーダーにカードをかざす。

「うわ、ギリギリ足りた。」

思ってたよりも残高が減った。


「俺が奢ってやるつもりだったから、俺の分も入ってるんだよ。悪いな、おごって貰っちゃった。」

アハハと大爆笑インド風おじさん。


アハハじゃないよ。おい。


「代わりに俺の作った武器でも見ていけ。」

文句を言おうと思ったら。


「シャイボーイ、悪いことは言わん。ついて行け。」店主が大きな声で言った。


俺は渋々ついていく。


俺はスマホで真斗に連絡しようと取り出すと、

「おい、シャイボーイなにしてんだ。」

と怒られた。


「友達から、武器を見たいから電話してこいって言われたので。」


「あー、そんなことか。そんなもの放っておけ。適当でいいなら後で適当な武器一本やるわい。」


なんて適当なおじさんだ!!


「いいですよ。武器ではなくて、さっきの店のお代をください。」


「わしにそんなこと言ったやつは初めてだ。飯屋で面白いやつがいたら奢って、武器をやると言ったらみんなホイホイついてくるのに。しかもわしが奢る前にお金を払って、武器いらないからお代をくれって。あんた変わってるなー。」

俺はすぐさま突っ込む。

「いや、変わってるのはおじさんの方だよ。」


「違いない!!」

と言いながら大爆笑。


「ほれシャイボーイ、カードを出せ。」

俺は個人カードを出すと、おじさんがカードを重ねる。

「大銀貨3枚も有れば、飯代足りるだろう。」

むしろ黒字です。


「ああ、お釣り返すとか言うなよ。めんどくさいからな。」


話しながら歩いているとセキュリティゲートの前に着いた。


「おい、悪いけどこいつ通してくれねーか。俺の鍛冶場に連れて行きたいんだが。」

ゲートにいる受付のダンディなお兄さんに言うおじさん。

「アルナブさん、いくらあなたの頼みでも無理です。」

「いいじゃねーか。前回は俺が譲歩しただろ。」

「規則は規則です。」

おお、ダンディなお兄さんカッコいい。


「いつもなら、ここで「こめんなまた今度」って言うところなんだが」

と困り顔のインド風おじさん改め、アルナブおじさん。


「大丈夫ですよ。また今度お願いします。」

ちょっと面倒になってきた俺。


「いや、おい。受付で専属登録すれば鍛冶場に連れて行けるよな。」

「行けますけど、本気で言ってるんですか。」

今度はダンディお兄さんが困り顔。


「おい、シャイボーイ。お前ダンジョンに行ったことあるか。」

「ないです。」

「なら、武器持ってないよな。」

「はい。」

「おーい、こいつ武器がないそうだから。武器を作ってやりたいんだ。だけど専属登録忘れてて連れて行けねーんだ。すぐに登録してくれねーか。」

明らかに演技、大袈裟すぎて俺は笑ってしまった。笑ってる俺を見て笑うアルブナおじさん。


「わかりましたよ。インフォメーションに連絡しておくのでそちらで手続きしてください。」

もう投げやりのダンディお兄さん。

なんか申し訳無くなって、俺は離れるとき。振り返って一礼した。


インフォメーションに着くと「お話は伺っています」と言ってすこし大きな端末を操作するお姉さん。

「アルナブさん、こちらにカードを。」

おじさんはカードをかざす。

「ご依頼者様はこちらにカードをお願いします。」

依頼者と言われたのにすこし疑問を持つが、おじさんが早くかざせと言わんばかりに視線を向けるのでかざす。

「アルナブさん、来場許可はどのようにしますか。」

「フリーパスでいい。いちいち来るたびに許可出すのめんどくさい。問題があればそちらで専属抹消してもいい。」

「わかりました。そのように登録させていただきます。」と言いながら端末を操作するお姉さん。

しばらくすると

「手続き完了です。よければ連絡先交換もした方が良いのでは?」

なんとなく状況を理解しているのか、そう言うインフォメーションお姉さん。


アクセス端末で連絡先を交換する。

「なんだこれ、こんなの読めん。日本語は難解じゃ。他の呼び方ないのか。」

「そういえば今日チャンくんで呼ばれましたね。」

「なら、チャンクンで。こっちの方が覚えやすい。わしの方はアルでいいぞ。」

あだ名にもう名前の原型はない。

「ならアルおじさんで。」

「親戚みたいで面白いな。それで呼んでくれ。」


とこんな感じで連絡先交換は終わった。


工房に入ると、火がゴウゴウと音を立てて燃え、鍛治道具や金型、金床、もういろんなものがそこら中に置かれていた。


壁には厨二病には堪らなさそうなある意味カッコいい武器が所狭しと置かれている。


「あの、壁にかかってる武器。全部アルおじさんが作ったもので?」

「全部ではないが、半分は俺が作ったものだ。俺の最高のコレクションたちだぞ。」

そう言われると気になって武器を見て回る。


「どれか気になるにあるか、触ってもいいぞ。」

俺は一本太い大剣を握った。持ち上がらないと思って思いっきり持ち上げたが、ものすごく軽かった。

正直片手で持てる。


「なんですか、この大剣。めちゃめちゃ軽いですね。」

「そうだろう。女性でも持てる。子供でも振れる。しかも刃こぼれしない。」


すごい。


「ほれ、振ってみろ。壊しても文句は言わん。」


俺は恐る恐る振ってみる。壊してもと言われたけど、壊さないように遠慮しがちだ。


「こんな大剣、作るのものすごく苦労するんじゃないですか。」

「ああ、その剣はギルドのトップ10の職人全員で本気でアイディア絞って考えたんだ。なかなかだろう?」

「はい、この剣なら持っても疲れないし、いいと思います。俺は剣を握ったことないですが、とてつもなくいいものというのはわかります。」

アルおじさんは嬉しそうだ。


「よし、そこにわら人形があるから試し斬りしてみろ。」

「いいんですか?」

俺は念のために確認する。

「いいぞ。目を見開いてしっかり剣を振れよ。」


俺は言われるがまましっかりと剣の軌道見ながら、思いっきりわら人形剣を振る。


剣はわら人形直前でひん曲がり、大きなわら人形を剣が避ける。そしてフリ終わる頃には元大剣に戻っていた。


「なんだこれは。」

俺は叫ぶ。大爆笑のアルおじさん。


「いいだろう、最高だろ。ギリギリまでなにも変化しない。けど剣が曲がって絶対に物体に触れない。物質感知と軽量化、そして安全性まで兼ね備えた最高傑作。」


「なんだよ、その技術の無駄遣い。」

突っ込む俺。


「いいだろ、ギルドになって作った初無駄遣い。あっちにかけてるのはクラン時代最後につくった銃。あの銃は弾丸はポーションとエリクサ専用。打ち出すときに割れないで、相手に当たると割れる。撃てば打つほど相手が回復する面白銃。しかもセミオートとフルオートの切り替え付き。弾倉を替えるだけで次のポーションを選択できる優れもの!」

楽しそうなアルおじさん。


「そんなの作ってるから、兄さんが呆れるんだよ。」

そう言いながら日本人職人が入ってくる。


「おお、ガッツじゃねーか。」

「カツトシです。」

「ガッツも面白がって作ってたからいいじゃないか。」

「確かにあの無意味さが堪らなかったです。」

楽しそうに話す2人。


「ポーション自動小銃があるなら、ポーション剣とかあっても面白いですね。」

ポーションを聞いて、言ってみる俺。


「ポーション自動小銃は味方に打てば、素早く回復できると言う利点があります。これは優秀な武器。」

「「おー。」」


「だけど、もしもポーション剣...ポーション刀があったとしましょう。斬っても斬れない。まさに無意味。」

「「面白い。」」

「刀って血に濡れると斬れやすくなるらしいですが、それと同じようにポーションで刀を濡らして岩は切れるが、モンスターは斬れない。ポーションがないとただのなまくら刀。」


調子良くなってきた。


「それこそ、剣の持ち手にポーションとエリクサ両方入れて、全回復刀とか?斬っても斬れなくて、けど切れるってどうですか。藁人形はすっぱり人間とモンスターは無傷。この技術の無駄遣い。」


「おい、ガッツ。職人集めてこい。」

「はい。」


あ、やっちゃたかも。


「刀の手持ちの中にポーション入れると、割れるのでポーションケースと同じように耐振動対策が入りますね。」

「刀だけど、そのまま作るとポーション1本では少なすぎて抵抗が減らないぞ。」

「ポーションとエリクサを混ぜるんだろ。どうせならダブルポーションとかトリプルポーションとか出来たら面白いですわよね。」

「ポーションで液体の膜を作って切ると切れ味上がりそうだな。ついでには先から液体が出るようにする。モンスターを切った時に逆流しないように工夫が必要だな。」

「刀はメンテナンスが必須ですが、昨日完成した87A軽量金属ならゴリラが振っても折れないし、軽いです。」

「刀を降ってる時に重さが変わるようにしよう。そうすると軽いのに切れ味が上がる。」


俺は蚊帳の外になってしまった。

ドンカンドンカンと、試作がどんどん作られる。その度にどこがダメかを言い合い、また試作が作られるの繰り返し。


途中で新規ギルド入会の見学がきたが、「ごめん、今忙しい。」のアルおじさんの一言で次の見学へ。

お父さんは俺には気づかなかったが、俺は気づいた。あとサムさんは俺に気づいたみたいだが、他人の空似かと思ったのか、スルーだ。


「おい、チャンクン。ポーションもらってこい。エリクサもだ。1ダースずつ。」

アルおじさんが叫ぶ。


俺は鍛冶場を出て歩いているひとに「すいません、アルナブさんに頼まれたのですが、ポーションとエリクサってどこに行けばもらえますか。」と聞き、別の職人が「アルナブさんがまた何か作ってるのか。ポーションとエリクサだ。1ダースは足りない。2ケースずつ持っていけ。」といい荷台に山盛りのポーションとエリクサを積んでもらった。


荷台を押して鍛冶場に戻ると、「こんなに持ってきたのか、気が利くじゃねーか。」とアルおじさん。どんどんエリクサとポーションを下ろすガッツさん。何本かの刀に早速装填し、試し斬りをする職人たち。


エリクサもポーションも遠慮なしにどんどん減っていく。たまに中級ポーションも混じってるけど気にしない。


そしてまた試作が作られる繰り返し。


本当の刀鍛治なら1日に何本も作れないだろうが、さすがは鍛治スキルと言ったところだろうか。早い仕上げでも綺麗に仕上がっている。


ウトウトし始めたとき、

「おい、チャンクン。みろ。完成したぞ。」


そう言ってピノキオになりそうな顔で刀を見せるアルおじさん。


刃は黒色の日本刀。

「見とけよ。」


そう言ってわら人形に振り下ろすが、半分くらいで止まってしまう。


「この切れ味の悪さ。そして。」

刀の持ち手を半分ずらしてポーションを6本入れる。

そして元に戻して俺に渡すアルおじさん。


「根本を軽く捻るとポーションが装填される。」

言われるままに軽く回すとカチっと聞こえるか聞こえないか分からないくらい小さな音がした。


「その状態でわら人形を切ってみろ。」

俺は言われるままに切る。すーっと豆腐を切るように斬れるわら人形。

「おおー、。」


「次にあそこの金属の棒を斬ってみろ。」

俺は棒を切る。簡単なお仕事だ。


「よし、次は2つ分装填してあの分厚い金属板を斬ってみろ。二回カチカチとならせ。」


俺は2回カチカチと鳴るまでひねり、金属板に向かって振り抜いた。


真っ二つに斬れるとゴンとものすごい音と共に地面に落ちる。


「最高だ。よし。最後にガッツを斬ってみろ。」

「えー、それは無理ですよ。危ないです。」

俺は流石に反対した。


アルおじさんは俺から刀を奪うと3回カチカチとひねりガッツさんを思いっきり斬った。


ガッツさんが着ていたシャツ半分がぱさりと落ちるが、ガッツさんは斬れていない。


「「「うぉーー。」」」


大興奮の職人たち。


「この技術の無駄遣いの結晶を作れたのはここにいるチャンクンのおかげた。俺はこのチャンクンに刀の名を決めてもらいたい。」

俺に視線が集まる。もうやけくそだ。

「ポーション刀。」

「この刀はポーショントウだ。ポーション小銃と並ぶポーションシリーズの完成だ!」


めっちゃ楽しそうだけど、おれはちょっと疲れてきていた。


「ポーションシリーズの武器二本。これをチャンクンに渡そうと思う。異議のない奴は足をならせ。」


どんどんと全員が、足で地面を叩く。


「よし、これはチャンクンの物だ。」


「「うぉーーー」」


「チャンクン、お前の名前をここにかけ、お前の名前とここにいる全員の名前、あと刀の名を彫るから。」そう言って紙を俺に渡すガッツさん。


刀のみねにはここにいる全員分の名前、小銃には俺の名前とアルおじさんの名前が入れられる。小銃のマガジンは50本もあった。


「おい、ちょっと悪いな。」そう言って俺の腕を掴み小刀で刺すアルおじさん。急なことで痛さよりもびっくりが大きい。

「あーあ、もう。」と言いながらポーションを腕にかけるガッツさん。


「すまん。昔昨日ちょっとした事件があって、俺たちが作るオーダーメイド武器は所有者しか使えないようにセキュリティかけるのが決まりになったんだ。血を取ってそれを仕込むんだ。本当はどこに仕掛けをしてるかわからないようにするんだけど、あー、アルナブさん。堂々とやってるよ。」


「よし、これでできあがりだ。」そう言って俺のベルトに金具つけて刀を左の腰につけてくれる。小銃のマガジンが大量に入るベストをつけ、小銃を肩からかける。


うんうん。とうなずくアルおじさん。そしてその上から武器が全部隠れる羽織りマントをくれるが、ガッツさんがこっちの方がいいだろうと言って、短めのトンビコートをくれたこちらの方が刀に干渉せず歩きやすい。だが銃はしっかり隠れる。


「こっちの小銃ケースに残りのマガジン入れておくぞ。と言ってもマガジンの中身は全部空だが。」

ハハハとみんなが笑う。

「ポーションが入ってるのもその小銃についているマガジンだけだ。もちろん、エリクサも入れれるぞ。」


なんか侍のようなガンマンのような不思議な格好だ。

「そのトンビコートだけどな。最果て鍛治ギルドの最高級品だぜ。防御力もあるからそのままダンジョンで使えよ。ついでだから、ジーンズもセットにしよう。」

そう言って黒色ジーンズを小銃ケースに入れる。

小銃ケースにも、ジーンズにもよく見たら最果て鍛治ギルドの旗がロゴとして入っている。


そうしているうちに。

「おい、職人総出で新しい武器開発してるって本当か。」

そう言って入ってきたのはひょろひょろのガッツさん。

「おー、ギルマス。完成して今それを引き渡したところだ。」

嬉しそうな職人10人。


「引き渡すって、この子にこの装備を売ったのか。いくら分の素材を使ったんだ。」

一斉に口笛を吹く職人


大きくため息を吐くギルマス。


「すまない、君に職人たちが渡した武器は売ることができない。」


「そう、まさに売ることができない。」そう言って前に出るアルおじさん。


「この俺たちが力を合わせて作った最高の技術の無駄遣いの刀。そう言って俺の腰から刀を抜くアルおじさん。」

「わら人形を斬っても半分しか切れないなまくら。」

そう言ってわら人形を中途半端に切る。


「だけど、ポーションを装填すると。」

そう言ってポーションを補充し、再びわら人形を切る。

「歴代最強の斬れ味。」

「おおー」

思わず声を上げるギルマス。


「だけどな。」

そう言ってガッツを再び切るアルおじさん。


慌てるギルマス。平然な顔のガッツさん。


「人やモンスターは斬れない。」


「はぁ?。」

ギルマスの本音が出た。

そうなるよね。


「素晴らしい技術の無駄遣いだろう?そしてこの無駄遣いポーションシリーズの完成を見届けてくれたこのチャンクンに大作2つ、ポーション刀とポーション小銃を送ろうと言うわけだ。」


呆れてものが言えなくなっているギルマス。


「...なんというか、迷惑をかけたね。チャンクンさん。あまり役に立つとは思えないけど、そのポーションシリーズをもらってはくれないか。その商品を公表したら、いろいろと怒らせそうだ。」

「いえいえ、是非とも思い出にいただきたいです。頑張って有効活用します。」

「是非お願いします。なにか有効な使い方がわかれば是非お教えください。」

そう言ってギルマスは頭を下げた。


「壊れたら、俺のところに持ってこいよ。」とアルおじさん。ギルマスに睨まれて小さくなる。


その時、お父さんからメッセージが届いた。

「ギルドホール1階で待っている。」


「すいません、待ち合わせがあるのですが。」

「お?送ろう。」


それを止めるギルマス。

「いえ大丈夫です。1人でも帰れます。」


「すいません、今からちょっと職人たちとお話があるので。」

「はい、失礼します。」


俺は増えた荷物を抱えて鍛冶場出て行く。聞こえてくる怒鳴り声。


俺は聞こえないフリして父が待つギルドホールへと急いだ。

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