第6話 浮遊都市上陸

〈日本 関西空港〉

「AMA1329便 8時15分発 浮遊都市行は あと5分で搭乗を締め切らせていただきます。ご搭乗のお客様はお急ぎご搭乗ください。」


聞き取りやすいゆっくりとしたアナウンスが流れる中、全くゆっくりできず、家族4人そろって走る俺たち。


「お土産なんて買うからだ。そもそもお土産を買って誰がたべるだ、」

走りながら父が言う。


「だって、美味しそうじゃない、このお菓子。」

のんびりとした口調だが必死に足を動かす母


「もう、そんなことで喧嘩しないで。そんなこと言ってる暇があったら走る。」

普段から剣道で運動している妹は余裕そうに走る。


「誰だよ、発車時間に行けばいいって言ったの。」

俺は文句を言う。


「「お父さん。」」

即座に答える母と妹


すこし申し訳なさそうになる父。


AMAの係員が俺たちを見つけで、手を振って場所を押してくれる。

「急がなくても大丈夫ですよ。飛行機はお客様のご搭乗をお待ちします。」


神対応の係員、無線で連絡をする。

きっと俺たちが最後の客なんだろう。


父と母はほっとしたのか、息を切らしながら歩く。

妹は全力で走って自動販売機へ行き、ジュースを4本買う。


俺は両親ほどではないが、疲れてとてもではないが妹のような気づかいは無理だ。


「ご搭乗ありがとうございます。」

満点のスマイルで機内に案内する係員、そして機内で待つ客室乗務員に「搭乗完了です。」という。


搭乗券を確認して席の場所を教えてくれる。

「お荷物棚上に収納しましょうか。」


時間節約のお手伝い。


そうなるよね。


満席の機内、両端が通路の4列シートに並ぶ俺たち。

シートベルトの確認やら、荷物棚の確認や忙しい乗務員に対し、妹からもらったジュースを飲みながらホットする俺たち4人。


母はテーブルを出して「お客様、離陸中はテーブルを出さないでください」と怒られる。それを見て父が母に「余計なことをせずじっとしときなさい」と叱る。


なんというか、ここに来ても我が家は通常運転だと思った。


「お兄ちゃん、これ見て。」

そういいながらトントンと前の座席の下に入れたバックを足で指す。

それは妹がぶっ壊れた原因になったポーションケースだった。


「なんで持ってきたんだよ、それ。」

俺は妹だけが聞こえる小さな声で抗議する。

「浮遊都市でしょ。ゆりちゃんが、浮遊都市行くならダンジョン有名だから行ってみたら言ってたから、ダンジョン用の装備持ってきた。」


そう言われて思い出す。妹が日帰りとは思えない、ボストンバッグを持ってきていたのを。

「母さんも、実はダンジョン装備持ってきてるんだよ。昨日買ったからお父さんも知らないと思うけど。」

少しうれしそうな顔。

「向こうの空港についたら、トイレで着替えてお父さんを驚かそうと思ってるの。」

ニターといたずらっ子の顔になる。


「そのケースの中身、どうしたんだ?国際線は液体物持ち込み禁止だろ。」

あらかじめ知っていた知識を活用し、妹に聞く。


「ああ、実はダンジョン用品は浮島と浮遊都市へ行く人は持っていけるんだよ。武器と防具はさすがに預けないとだめだけど、ポーションは割れたら責任持てないから機内持ち込みできるらしいよ。確認されると思って念のため上級ポーションと全快ポーションを抜いて、中級ポーション2本に入れ替えたけど。空港係員は結構驚いてた。」

いや、そうだろう。中学生女子に低級ポーション6本、中級ポーション4本、異常状態回復ポーション2本を持たせているのだ。さぞかし驚いただろう。荷物検査だとはいえ、目の前に札束があるのと変わらない。


「持ってきたのは1ケースだけか?」

「うん、残りは私の部屋とゆりちゃんが持ってる。」

おい、秘密をしってるとは言え貸したのか。


「本当はゆりちゃんに貸さない方がいいかもしれないと思ったんだけど、昨日の夕方潜ったときに、ゆりちゃんと私怪我して、高級ポーションと全快ポーション使ったから危ないと思って。昨日は2人だったけど、今日は一人だし、念のために渡した。」


「すごかったんだよ。お腹がパックリ割れて、血がドバドバ出て。あれはそのまま行くと絶対死んでたね。」

妹の声のトーンが興奮で上がる。


「血がドバドバって何の話だ。」

父が話に入る。


「あー、この前ゆりちゃんと見た映画の話。」

素早くそれらしい言い訳をする妹。

そして俺の方を向き、小さな声で。

「そんなわけで、あれほどお兄ちゃんに感謝したのは初めてだったよ。」

と耳元でつぶやいた。


いま浮遊都市は瀬戸内海の上を移動している。速度は台風よりも少し速いくらいで、沖縄、台湾を経由して東南アジアに向かう予定だ。ちょうど、台風とは逆進路になる。

つまりいま大阪と浮遊都市は国際線なのに東京よりも近いのだ。

浮遊都市の高度は今1万5メートル。飛行機は空気が薄いところから急激に空気の濃いところへ移る。その境の空気の壁ですこし機体が揺れる。この境目が浮遊都市領域の境目だ。


俺は浮遊都市の領域に入ったところでスキルステータスを見る。現在位置と空港のマップ。普段はこんなのを見ることはできないから少し面白い。

人口とポイントと金貨の残高ががすごい勢いで増えているが、もう見ないことにした。どうせ使っても減らないので見てもおんなじだ。


平行に並ぶ5本の滑走路のうち2本が着陸専用、1本が離陸専用、のこり2本が兼用になっているみたい。この飛行機は兼用の滑走路へとむかっているみたいだ。


設定空路内はモンスターが入ってこないように設定されてるとは言え、窓からドラゴンや風船みたいなモンスターが見えるとすこし不安になるな。


俺は着陸するその瞬間までだまってスキルステータスを見続けた。


飛行機を降り、預け荷物を受け取り、入国審査前、妹は宣言通り母とトイレに行った。

帰ってくると、妹はトンビコート姿に見え隠れする腰の刀の鞘、母はメイドに近い衣装で出てきた。


母の姿をみて驚き見つめる父、すこし恥ずかしそうな母。きっと父の趣味に新しいジャンルが開拓されたに違いない。


父へのお披露目が終わったら、妹は母に茶色のトンビコートを渡した。


「なんてそんなものを着ているんだ。」

当然の疑問をいう父

「だって、ダンジョンに行きたいもの」

怖いもの知らずの母にうれしそうな妹。


俺は ( ̄∇ ̄;)ハッハッハ と空笑いをした。



なんとなく、看板の絵から予測して道を進む俺たち。

看板と言う看板がすべて英語で表記されていて、何がどこにあるのか全く分からない。

本当は俺は全部を知っているはずなんだが、当然空港の仕様や見取り図を覚えてるはずもなく、右も左もさっぱりだ。


父と妹は多少英語ができるのか、英語のマップをみながら動こうとするが、父は全く見当違いにの方向へ行こうとする。


「えーと、なんかわからないけど、入国するにはパーソナルカード?ってのを作らないと入れないみたい。そのカードに浮遊都市で必要ないろんな機能がついてて必需品らしいよ。あと、そのカードほかの浮島とかにも使えるからなくさないようにだって。」

スマホでカンニングする妹。

海外だぞ、データローミング高いぞ。

「あと、なんかいろんな税金があるからパーソナルカードを作ったらいろいろ設定するらしい。とりあえず、あの看板に向かったらいいらしい。」


俺たちは妹に言われるがまま、だだっ広い空港をすすむ。

ただ人の流れが同じ方向に行っているので間違ってはないのだろう。


しばらく進むと大量に駅にある自動券売機のような機械が大量にあるエリアについた。

俺たちはそのうちの一台にむかう。


「えーと、この機械でパーソナルカードを作るらしい。最初の画面で言語設定できるらしいから。みんな頑張って。お母さんはゴールドコイン銀行カードがいるから注意ね。」

妹に言われるがままの俺たち。


俺はたくさん並ぶ機械のうち一台を選んで近づいた。

最初にいろんな国の国旗が書かれていて、そのうち一つに日本の旗をみつける。

それを押すと、日本語表示に変わった。


「べんりー」

思わず口から言葉が出てしまった。


“個人カードを作成しますか?”

はい


“浮遊都市に入国しますか?入国する場合は滞在VISAが発行されます”

はい


“個人カードにはゴールドコイン銀行ATMカード機能が付与されています。浮遊都市では様々な税金があります。その税金の引き落としに同意しますか。同意しない場合は入国できません。税金は自動引落設定以外は引落時にメッセージが表示されます。”

同意します


“個人カードを発行します。

個人カードは顔写真、名前、所有スキルなどは表示されませんので、身分証明としてはご利用いただけません。

個人カードは本人しか使うことができません。個人カードに触れていない時は初期設定では白い無地のカードに変わります。本人以外が触れても本人が触れない限りカードは一切使用できません。

個人カードはスキルステータスと異なり他人でも見ることができます。スキルによっては個人カードと自動連動されますので注意してください。

電子マネー機能がついています。相手に払いたい金額を指定し支払い相手のカードに触れることで支払うことができます。残高は任意で表示できます。

鍵機能がついています。許可された部屋に入る場合はカードで扉に触れてください。

個人カードでトレードセンターを利用することができます。トレードセンターへのアクセスは各浮島、浮遊都市のダンジョン部以外の場所に数多く設置されていますアクセス端末をご利用ください。

個人カード再発行には金貨1枚必要です。

カード受け取り後、まずはカードをご確認ください。英語は話せない方を含め、お近くのアクセス端末で翻訳指輪を購入することをおすすめします。不要なら出国時にトレードセンターで売却もできます。”

長い長い


小さな液状画面に長々と流れる注意事項がさいごまで流れたところで、一枚の白いカードが出てきた。


それを受け取ると定期券サイズのカードは半透明になり、緑色の文字でいろいろ書かれているカードに変わる。


浮遊都市 国


本日の最大人口 94K 人。

ダンジョン部 20K 人

都市部 72K 人

入国せず 2578人

国民 0人

住人登録 48K人

保有ポイント 107KP(+94KP) 

コールドコイン銀行残高 0GC 0.0SC 0.0CC

所有ゴールドコイン 3M(+3M/月) GC


+ルート管理(自動)

-資源管理(自動)

 +航空燃料販売ON

 +電気200V(契約)

 +飲用水道(契約)

-都市管理(一部自動)

 +破壊不可指定ON

 +臨時政府委任ON

 -流通自動管理ON

  +トレードセンター解放ON

 -個人カード管理ON

  -滞在VISA機能ON

   +税金未納時剥奪

  -住人登録表示ON

  -ゴールドコイン銀行ATMカード機能ON

   +金貨表示

   +継続税金自動引落

   -電子マネーON

    +2者間取引ON

   +鍵機能ON

   +トレードセンターON

   -浮遊都市外使用ON

    +ダンジョン内使用OFF

   +登録外使用OFF

   +ギルド所属ON

   +警察権代行表示(個人)

  +浮遊都市ダンジョン内生命保証制度ON

 -自動運行路面電車ON

  +住人無料ON

 +賃貸物件落札システム(2年更新)ON

 +空港メンテナンス(施設部分のみ)ON

-ダンジョン管理(自動)

 -ダンジョンアイテム自動生成ON

  +レアアイテムボックス出現ON

 +モンスター自動生成ON

 +難易度調整機能ON

+防御と攻撃(無効)


税金設定(委託中)入金先->>>都市管理口座

ダンジョン条約締結外国民 入国税 1人5GC

住民を除く滞在税(2週間) 1人1GC

住民を除く滞在税(2週間自動更新) 1人5.0SC

ダンジョン入場料 1回1人0.5SC

ダンジョン定期 1人2週間5.0SC

ダンジョン定期 1人1年間1GC

ダンジョン定期 1ギルド1年1人5.0SC

半年住民税 1人7GC

1年住民税 1人10GC

3年住民税 1人25GC 審査あり

5年住民税 1人35GC 審査あり

10年住民税 1人50GC 審査あり

ギルド結成登録税 1回10GC(1ヶ月仮登録)

ギルド継続税 0GC〜上限無/月 ギルド実践考慮

ギルド法違反 5GC〜ギルド全財産 ギルド評価

ギルド加入税 0.1SC ギルド内審査

ギルド加入住民税 1年5GC ギルド内審査

ギルド加入住民税 5年15GC ギルド内審査

公務住民税1年 3GC

住民を除くダンジョン以外収入 20%

個人カード再発行税 1GC ギルド評価

店舗税 全商品消費税5%又は1店舗あたり5GC/月

店舗外販売登録税 1人5GC/初年 継続1人0.5SC/年

店舗外販売税 5% 店舗税・ギルド店舗適用時免除

ギルド店舗税 1店舗5GC

両替税 他通貨両替金額の1% 個人取引対象外

両替税違反摘発 100GC

両替屋以外他通貨使用摘発 10GC 入国前を除く

迷惑条例違反摘発 1GC ギルド評価

アナザーアイテム偽物製作 全財産・再入国禁止

アナザーアイテム偽物販売 100GC・入国禁止検討

ギルド名義での対優遇国輸出入関税 価値の1%

ギルド名義での輸出入関税 価値の5%

個人・会社名義での輸出入関税 物品ごとに設定

個人所有航空機発着税 700GC


空港建設完了(貸100K GC/月)

政府施設(管理タワー)設置(貸200K GC/月)

浮遊都市一部委任(貸700K GC/月)

賃貸物件(合計 貸 60k GC/月)50K人まで対応

賃貸物件2 建設中





たしかに、ゴールドコイン銀行残高が増えてる。

しかも、所持金からゴールドコイン銀行にお金を自由に移せそうだ。


俺は試しに1KGCをカードに移す。


カード残高 1000GC 0.0SC 0.0CC


今レートが 1GC=1万円くらいだから、このカードには1000万円はいってるのと同じか。


なんとも恐ろしい残高だ。


「みんなカードつくれた?」

妹が元気よく言う。

そして俺のカードをのぞき込もうとする。

俺は慌ててカード残高を0GCにした。


「お兄ちゃんはちゃんとできてるね。」

そういって両親の方へ向かう妹。今のはかなり心臓に悪い。


「うん、お父さんもお母さんも問題ないね。」

ソウダネ!


「じゃーこっからかかるお金を説明するよ。まず、入国時の滞在税金貨1枚、私とお母さんはダンジョンに行くから1人小銀貨5枚。お父さんはギルド登録をするから、ギルド加入税で小銀貨1枚。あと、翻訳指輪が一つ2GCで4つで8GC。お父さん覚悟してよ。合計金貨12枚と大銀貨1枚、小銀貨1枚最低限必要です。」

父の顔が引きつった


日本円で大体12万1100円だ。一日いるだけでこの金額だと、そりゃ顔も引きつるよな。


「あと、連絡手段だけど、ここはWIFIが繋がってるから大丈夫だけど、空港を出るとスマホは一切繋がらなくなります。連絡手段がないから、絶対にはぐれないように。特にお父さん。絶対1人になったらダメだよ。」


母は妹に教わりながら、妹のカードにいくらかお金を渡した。妹はそのお金で翻訳指輪を買いに行く。ついでに母の手元から十数枚の金貨が消える。さすが人間ATM。


「じゃー、2人にもお金渡すわね。」

そういいながら俺に金貨1枚と大銀貨5枚、お父さんに金貨5枚をカードを重ねて渡す。


妹がアクセス端末から買ってきた翻訳指輪をくれた。

妹は左の小指にはめる。俺は左の人差し指にはめた。指輪は自動で縮み、ちょうどいい大きさになる。


「魔法の指輪みたい」という母。

「いや、魔法の指輪だよ。」と突っ込む妹

何度も指輪をはめたり外したりを繰り返す父

3人の様子をちょっと離れたところで見る俺。


これが妹の「よし、じゃー出発しよう」というまで続いた。


自動入国審査機はまるで自動改札機みたいだった。


違いはゲートが扉になっていること。入ると入り口の扉が閉まり、個人カードを扉にかざしてくださいというメッセージと、入国には金貨1枚が必要です。というメッセージが連続して表示されること。


俺は入った方とは別の扉に個人カードをかざす。

扉はいともなく簡単に開き、これで入国完了だ。


パスポート、ハンコ?なにそれ美味しいの?


そして面白いのが先程まで日本語なんて全く聞こえなかったのに指輪をした途端、看板とかは英語なのにみんな日本語を話していること。金髪の人も、中国系の人も、アラブ系の人も、ブラジル系の人も、全員が日本語。たまに別の言語も聞こえるが、ほぼ99%日本語だ。


「お兄ちゃん、これあげる。」

妹はそう言って、金貨2枚渡してきた。


「私のダンジョン探索の成果だよ。あのぽ...小瓶のお礼ね。」

俺はなんとも言えない顔になっているだろう。

嬉しいのだが、金貨2枚もいらない。なんなら財源は果てしなくある。しかしここで受け取らないと俺は妹目線、ほぼ一文なしということになる。

考えた結果。


「1枚は返すよ。なにも高いものを買う予定ないし。欲しいものがあったら、安い小瓶でも売るよ。ここならあまり目立たなそうだし。」


そう言って金貨を1枚返した。


入国ゲートを過ぎると空港内に線路が引かれていた。


チンチンチンと鐘を鳴らしながら、赤色の路面電車がやってくる。空港を走る電車に常識が崩れる。そしてこの電車、新幹線よりも大きな車両の12両編成で長いし大きい。たくさんの客を載せた路面電車はそのまま右から左へと通り過ぎる。しかも結構早い。


常識を超えた光景に唖然とする。


そしてしばらくすると左から黄色の路面電車がやってきて少し離れたところに停車した。

停車したところをよく見ると、黄色の線が引かれて停車位置をしてしていた。目の前の線路には緑色。そして矢印と色で他にも赤、白、青、紫の線がそれぞれの停止位置まで伸びている。


「やっぱり外国はスケールが違うな。」

父は少し感動するかのように話す。


「お父さんが行く予定のギルド、赤色の路面電車に乗ればいけるらしいよ。」

聞き込み上手な妹が、ヨーロッパ系の若夫婦に道を聞いて戻ってきた。


「同じ場所に行くからついてくるか?って言われた。早く行こう。」

知らない人について行ったらダメですよ。

と言いたいが、背に腹は変えられん。ということで家族全員で赤色の路面電車にヨーロッパ系の若夫婦と乗り込んだ。


窓まで赤いので気がつかなかったが、この路面電車、2階があるみたいだ。液晶画面に2階は指定席と書かれている。


「面白いでしょ。この島の液晶画面の看板は個人カードで登録された言語で見れるようになってるんだよ。」

30代くらいだろうか、若いお姉さんというには少し無理があるが、少し落ち着いた感じのお姉さんが解説してくれる。


「こんな機能がある看板なら、全部これにしたら便利そうですね。」

俺はとりあえず看板の話題を続行する。少し緊張して普段通りには離せない。


「あー、空港内ね。あそこは個人カード持ってる人は一回使ってるから迷わないし、カード持ってない人はどうせ液晶つけても読めないからつけても意味がないって聞いたことあるわ。」

さらりと疑問に答えてくれる若マザー。


電車は空港内をゆっくりと進んでいたが、空港を出ると一気に加速する。


片側車2車線、路面1車線の道を物凄い速度で走る。新幹線ほどではないが、100キロは超えているだろう。ちらりと見える車用の制限速度は140と書いてあった。


「この路面電車面白いでしょ。高速道路では路面電車は道路の端っこ側なのよ。街中に降りると道路の中央を走るんだけどね。」

大阪で路面電車を見かけないからその違和感はありませんでした。大阪で路面電車に乗る人は少ないだろう。


「お兄ちゃん、二階電車グリーンみたいだったよ。3列3列で車内販売もしてた。」

いつのまにか2階に探検に行っていた妹。液晶画面の指定席の文字は見えなかったのか。


「2階は長距離乗る人が予約して乗る席よ。空いていたら、扉に個人カードかざすと誘導されて座れるわよ。」

「え、かざしちゃった。」

さすが妹。

「いくつか席空いてたでしょ。座ったら区間ごとに1.0SCお金かかるよ。座らなかったらお金かかってないから大丈夫よ。」

ホッと「良かった、座らなくて。」と妹が言う。


空港を出て10分くらいしただろうか、電車が急に横に揺れて減速し始める。


「この駅では降りないぞ。」

と注意する父。夫婦の片割れと何やら楽しそうに話している。刀や火入れとか鍛治関連の話をしているので、あの若ダディも鍛治スキル持ちなんだろうか。


何人か人が降りて、向かい側に止まっていた今度は普通サイズの3両の路面電車に乗り込んでいき、向こうからもこっちの電車に何人か乗り込み発車する。


高速道路に路面電車の駅。なかなか珍しい気がする。

「この駅ね、乗り換え専用駅だからあの電車に乗らないと地上に行けないのよ。そこが不便なところね。」

地元ならではの愚痴をこぼす。


「なんか慣れていらっしゃいますね。」

最近公開でまだ日にちたってないぞ。


「ああ、私は仕事でここの島にちょっと長くいるのよ。路面電車も作られてすぐ乗ったわ。あっちにいるのは弟のサムで、貴方達と同じで最果て鍛冶ギルドに行くところよ。家族揃ってみんな鍛冶屋なの?」

どうやら俺が勝手に夫婦と思っていただけで、姉弟だったみたいだ。


「いえ違います。妹と母はダンジョン目的です。僕は強制連行されただけですね。父が方向音痴なので離れないようにと。」

なんとなく状況を察するお姉さま。


「それで家族全員で移動してるのね。」

おお姉さまは二階に行く階段の横にあるアクセス端末に個人カードをかざす。そして何かを操作する。


「なんだよ、姉さん。こっち見ろって。」

急に弟の方のサムが声を上げた。


「なんでもなわ。ちょっと実験してみたかっただけ。」

なんだよもう、と言いながら父との会話に戻るサム。


「こんなふうに事前に登録しておけば、近くのアクセス端末からメッセージを送れるわよ。送ったメッセージは相手のスキルステータスを通じて見れるわ。私もこの機能を知らないときは苦労したわ。この島スマホの類いが全く使えないから。唯一使えるのは家のインターネットと管理タワー内くらいだし。スマホが使えないのってこんなに不便なんだときたときは思ったわ。」 


なんとこんな使い方があったのか。

「お互いに登録しないと使えないから、変な人から連絡こないし。私なんて上司の連絡先消したし。」

上司可愛そう笑


「これ、どうやって登録するんですか。」

「それはね、アクセス端末でカードをかざして連絡先登録をするのよ。カードを端末にかざして見て。」


カードをかざすと、メニューが表示される。

「そのうちの連絡をタッチして、新規登録を押すのよ。」

俺は言われるがまま操作する。

すると登録のカードをかざしてください。アクセス端末に表示される。

お姉さまが自分のカードをかざした。そして何かを入力する。

画面を見ると、Angelienaと書かれた白いカードが表示される。


「こんなふうに相手にカードと名前を入れてもらって、他にも同時に登録したいときはこの時にカードをかざすのよ。そして登録したい相手に入れてもらったら、右下のOKボタンを押して。」

OKボタンを押す。

画面に登録用の名前を入れてくださいと出る。

「その画面で、相手に登録する名前を入れれば完了よ。本名じゃなくてもあだ名でも大丈夫よ。」

俺は松ちゃんと入力し、OKボタンを押した。


「これで登録完了よ。私の方にも同時に登録されてるわ。さっきの連絡の画面に行ってみて。」

俺は言われるがまま、カードをかざし連絡を押すと新規登録のボタン以外にもAngelienaと言う表示が増えていた。


「私の名前を押してみて。」

Angelienaを押すと、メッセージ送信、名前編集、削除の三つが出てきた。


「あとは書いてある通りよ。名前編集は相手には通知されないから好きに変更しても大丈夫よ。例えば私はアンジェリーナって言うけど、多分日本人にはスペルで書かれると読みにくいだろうし。」

なるほど。


「ちなみに上司の名前は何にしてたんですか。」

「“うるさい無能”」

俺はちょっと笑った。


「気をつけないといけないのが、メッセージは翻訳されないことと、この浮遊都市を離れると使えないことね。一方的な送信になっちゃうから。」


なるほど。


「ギルドに入ってたらもっと便利よ。ギルドホームにはギルド端末というのがあって、それを使えばメッセージだけならスキルステータス内だけでギルド端末相手限定だけど相互メッセージ交換できるし、ギルドメンバーだけだけど、ホームページや掲示板みたいなもの作れるわ。しかもギルド機能はスキルステータスしか使わないから、浮遊都市の外でも使える。」

それ、ギルドを進めてきたお姉さんが言うところの秘密の通信方法じゃないのか。


「それ言っていいんですか?」

「別にいいわよ。私が最果て鍛冶ギルドのギルマスに教えたもの。あまり広めないでくれって言われたけど。私に守る義務ないもの。」

お姉さま、実は偉い人?


「浮遊都市以外を本拠地にしているギルド多いけど、彼らの気が知れないわ。浮遊都市以外でも浮島ならギルド結成解散メンバー追加できるけど、ギルド端末が作られるのは浮遊都市に本拠点を置くギルドのホーム内だけよ。ギルド内専用トレードだけが目的なら別にいいんだけどね。きっと浮遊都市に本拠点を持つギルドがサブ拠点の浮島のギルドホーム内でギルド端末使ってるのをみて勘違いしたのか、それかそもそもギルド端末の存在を知らないのかな。」


辛口なお姉さま。

「そうだ、忘れてたわ。もうすぐ駅に着くわ。その前に家族で連絡交換しちゃいなさい。」


家族全員で連絡交換する。俺はついでに“Angeliena”を“アンジェリーナお姉さま”に名前を変更した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る