第2話 ポーション

起きると昼過ぎだった。机に置いておいたポーションが消えている。寝ている間に落ちて割れたにだろうか。


両親共働き。妹は朝のうちに中学校に行きこの家には俺しかいない。


部屋を出てリビングに行くと置き手紙が1枚。




冷蔵庫に昼ご飯入っています。電子レンジで温めて下さい。今日は会議があるので遅くなります。


母より



書き置き通りご飯が冷蔵庫に入っていた。


俺はそれを電子レンジに入れ、ついでに棚からインスタント味噌汁を取り出し、ポットのお湯を入れて即席味噌汁を作る。そして炊き上がって4時間ほど経っている炊飯器からご飯をつぎ、テーブルに置いたところで電子レンジから音が鳴る。


1人で食べる昼飯。いつも通りの平日。


テレビをつけるとニュースキャスターが「解説本日のニュース」と言って解説を始めた。


俺は冷蔵庫から麦茶を取り出しつつ、ニュースを聞く。

「本日のニュースは〈イギリスでも管理者発見!!〉、〈スキル登録制度開始〉、〈新たなるダンジョン発見〉、〈スキルレベル発見〉5つのニュースが入っています。」


俺はグラスに無茶を注ぐ。


「今日、イギリス政府は〈北大西洋浮島管理スキル〉を持った70代女性の存在を明らかにしました。イギリス通信によりますと、名前などは匿名希望のため公開されませんが、スキル鑑定紙により既に所有が確認されているとのこと。世界連合アナザーワード委員会は現在調査中であるが、事実なら北大西洋浮島のダンジョンについてイギリス政府と協力して管理していきたいとコメントしています。」


ダンジョン管理の次は浮島管理か。


「政府は今日、スキル登録制度を開始しました。政府は先日東京ダンジョン4階層で発見されたアナザーアイテム、スキル鑑定紙による認定を開始しました。スキル鑑定紙は東京ダンジョン大阪ダンジョンどちらかも、豊富に発見されており、ダンジョン管理センターで買い取りされていました。各県庁、市役所などでスキル鑑定紙を持ち込むか、スキル鑑定紙を購入し、手続き時にスキル鑑定紙を使用。そのスキルを所有している証明カードを発行するというものです。スキルを使った経済活動が期待されているため、容易にスキルの証明が来るこの取り組みに期待が寄せられています。」


俺は味噌汁をすすり、納豆をかき混ぜる。


「今日、アメリカ政府より先日発見した浮遊都市にダンジョンが存在している事がわかりました。世界連合アナザーワード委員会は浮遊都市に本部を移す予定であることを発表し話題となった浮遊都市ですが、世界中の空を移動しているという性質上領空侵犯を常にする状態になる事から、浮遊都市はどこの国にも所属しない特別地域とする事が世界連合参加国で全会一致。今回ダンジョンが発見された事からアナザーワールド条約により、明日世界時間正午、日本時間午前3時より一般公開されることになりました。浮遊都市は都市国家扱いで、立憲をアナザーワールド委員会が、臨時政府を常任理事国5カ国が担当することになっています。羽田発浮遊都市行きの飛行機はAMA、JAMコードシェア便で今日23時に羽田空港を出発し、世界時間の正午に到着予定です。」


へー、もう規模が大きくて他人事みたいだ。


俺はスキルステータス開く。




本日の最大人口 2591人。

ダンジョン部 590人

都市部 2001人

保有ポイント 2630P(+2591P)

所有ゴールドコイン 1M(+1M/月) GC


+ルート管理(自動)

-資源管理(自動)

 +航空燃料販売ON

 +電気200V(契約)

 +飲用水道(契約)

-都市管理(一部自動)

 +破壊不可指定ON

 +臨時政府委任ON

 -流通自動管理ON

  +トレードセンター解放ON

 -個人カード管理ON

  +旅券VISA機能ON

  -ゴールドコイン銀行ATMカード機能ON

   +金貨表示

   -電子マネーON

    +2者間取引ON

   +鍵機能ON

   +トレードセンターON

   +浮遊都市外使用OFF

   +登録外使用OFF

 +自動運行路面電車ON

-ダンジョン管理(自動)

 -ダンジョンアイテム自動生成ON

  +レアアイテムボックス出現ON

 +モンスター自動生成ON

 +難易度調整機能ON

+防御と攻撃(無効)


空港建設完了(貸100K GC/月)

政府施設(管理タワー)設置(貸200K GC/月)

浮遊都市一部委任(貸700K GC/月)


メッセージ1件



なんか増えてるし。

GCってなんだよゴールドコインの略?

そういえばダンジョンでは金貨や銀貨、銅貨が出てくるってネットにあったな。


1Mってひと昔前のSDメモリースティックかよ。Mってなに。

1Mって1000K、1000000ということだとすると、金貨100万毎。


そんなわけ....


俺は所有ゴールドコインを選択する。

金貨1,058,036 銀貨8.2 銅貨2.9


金貨の下2桁、銀貨、銅貨は数字が次々と変わっていく。


なんかすげーお金持ちになってるですが。


日本円でください。



しかもメッセージとか来てるし、


俺はメッセージを開く。

英語で書かれて読めない。


俺はメッセージに

「日本語でよろ」

と書いて返信した。


----

<浮遊都市>

浮遊都市管理タワー内の私室、管理端末の前でマグナ委員長は首を傾げていた。


「これは何語だろう。」

支配人宛に送ったメッセージ。その返信が来たのだ。


この浮遊都市だけで使える身分カードを端末にかざすとこの浮遊都市の管理画面が出てくる。




マグナ・フット

浮遊都市委任管理人

残高12 GC

  5.9 SC

  0.9 CC

管理タワー私室 3001号室

-水道契約(残高引落)

-電気契約(残高引落)


政府施設 全室


政府管理(700K GC/月)

+役人追加

+役人呼び出しメッセージ

+権限追加

+法の管理

+入国禁止リスト

+政府掲示板管理

+選挙システム

+税金管理


管理タワー(200K GC/月)

+会議室予約

+客室予約

+客人招待

+私室貸出

+部署設置


施設等提案フォーラム(自動判断)

通信回線(審査中)

電話回線(審査中)

ダンジョン不死設定(不可)

>>支配人のみが変更可能

使用通貨を米ドルに変更(不可)

>>浮遊都市システムを使用した取引は全てダンジョン通貨の金貨、大銀貨、小銀貨、大銅貨、小銅貨のみ使用可能。浮遊都市システムを使用しない取引については自由。


支配人メッセージ





支配人からの返信には

『日本語でよろ』

短い文章が書かれていた。


「どういう意味だ、これは。そもそもこれは何語だろう。」


日本語とは無縁のマグナは困っていた。

「中国語だろうか。最初の3文字は中国で使われている漢字に似ている気がする。」


漢字を使っている国は中国、韓国、日本くらいだろうか。


私は無線機で中国語、日本語、ハングルがわかる人通訳を私室に呼び出した。


文章は中国語やハングルではなく、日本語というのが判明した。


「この文章はどういうというのはどういう意味なんだ?」

「これですか、『日本語でよろ』ですか。簡単に言うと日本語でお願いします。という意味なんですがかなりカジュアルな書き方ですね。きっとネットの掲示板や動画のコメントのような感覚で書いたものと思います。日本語以外で書かれたり、話されたりすると意味がわからないと主張する時に使われます。」

通訳は丁寧に説明する。淡々としているが、そのおかげで判断を迷わせない。


「これを送ったのは日本人だと思うか?」

私は通訳に聞く。


「ええ、おそらくですが。インターネットをよく使う10代から40代の可能性が高いですね。」

通訳は私に更なる情報をもたらす。


「なるほど。すまぬ、少し1人にしてくれ。」

通訳は「わかりました」と一言。私に部屋を出て行く。


これは日本政府に協力をお願いすべきか。

いや、常任理事国の5カ国以外の介入は今は避けたい。

だが浮遊都市の支配人が日本人の可能性が高い以上・・・。難しい問題だな。

今のところ政府機能が使える状況だからすぐにはトラブルは起きないだろうが、支配人とやらの気分次第という状況が起きうるのも困り物だ。


明日の会議の議題が増えたな。


「さて、支配人へのメッセージでも考えるか。」


私はスーツに着替え、私室を出た。


----

<日本 大阪>

昼食を終え、部屋に帰る。


ノートパソコンを立ち上げ、通信制高校の授業動画を流す。見る気はない。その間スマホを見る。授業を受けたというアリバイが大切なのだ。授業を真面目に聞く気はない。


俺はスマホを触ろうと充電ケーブルを引っ張る。

スマホが手元に引き寄せられる。


RINE 妹

“お兄ちゃん、机に置いてあったポーション借ります。今日大阪ダンジョンに行くので保険ね。”


スマホに表示されたメッセージ。


ポーションが割れて消えたと思っていたが、妹が持っていったみたいだ。


返信をしようとRINEアプリを開く。


RINE 妹

“あのポーションってお兄ちゃんがつくったもの?少ないお小遣いでは買えないよね?”


あのメッセージには続きがあったようだ。


RINE 俺

“勝手に人の物を持って行くな!!

そのポーションは昨日初めてスキルで作ったんだ。”


お金もない俺が2万円もするポーションを買ったとはならないだろう。とりあえず、ポーション生成スキルを持ってることにしよう。実際スキルで作ったし。


送って3秒で既読がつく。


RINE 妹

“ダンジョン通貨持ってないよね?お兄ちゃんがダンジョンに行ったと思えないし笑。ということはスキルでダンジョン通貨を使うポーションショップスキルみたいなお店系ではなく、1日生産量が決まってるポーション生成スキルとかの生産系を持ってるってこと??”


なんかすごい勢いでスキル特定が始まってるんですけど??

でも、なんか微妙に勘違いされてるし。


RINE 俺

“そそ。俺のスキル誰にも言うなよ。あまり人に知られたくないから”


とりあえず、推測が当たった事にしておこう。


RINE 妹

“ごめん、もう言っちゃった。ポーション持ってるの言ったら、何処で手に入れたか友達に聞かれて(-.-;) 今日ダンジョン一緒に行くゆりちゃんに説明が面倒だったからRINE見せてた。テヘペロ”


おい!!


RINE 妹

“ポーションのことは秘密にしときます。by由莉”


RINE 妹

“だってさ。

あと、買い物行っといて。卵とニンジン、玉ねぎ、ジャガイモは必須で。あとお菓子適当。ナスは買わないこと!!”


ああ、もういいや


RINE 俺

“おk”


3時間後くらいにスーパーに行くか。


俺はスマホで午後4時にアラームをセットする。

その間、高校の授業は垂れ流しだ。


俺は低級ポーションを一つ買おうと思いスキルステータスを開く。

購入しようとすると、ポイントで購入とゴールドコインで購入で購入方法が増えていた。


低級ポーション 1GC 1P

俺はポイント購入にした。


10センチくらいの透明のアンプルに青色の液体、容器には緑のリング。


俺は腕にできたカサブタを剥がす。血が出てくる。アンプルの先を折って開封し、低級ポーションを半分ほど傷口にかける。すると、カサブタもなく綺麗に傷が治る。


残ったポーションはしばらくすると粉々に砕け散り、跡形もなく消えた。余ったポーションも一緒に。


治る時、少し痒いがすぐに治るのか。


俺はもう一本今度は金貨で購入する。

先程と同じ10センチくらいの透明のアンプル。中には青色の液体、そして容器に黄緑色のリングが描かれている。


どちらで買っても同じ物が出てくるのか。


俺はカッターの刃を出す。それを腕に当てたが怖くなりカッターをペン立てに戻す。


俺、度胸ねーな。

と自己評価し、ポーションを開けて飲んでみた。


不味くはない。味は水なんだがほのかに甘き気がした。口から少しだけシップの匂いがする。


匂いとアンプル容器はしばらくすると消えた。


俺はさらに一本ポーションを買い、今度はわざと床にポーションを落とした。。ポーションは割れた。


ガラスの破片のようなものが飛び散る。その破片を触るとさらに壊れる。

どうやらガラスの破片とは違い、踏んだりしても危険はなさそうだ。


破片と飛び散ったポーションはしばらくすると消える。


俺はポーションを5個購入し、続けて開封して様子を見る。大体開封してから1分くらいでなくなるようだ。


なんとなくポーションの仕様がわかってきた。

割れやすい。

開封したり割れたりすると1分くらいで消える。

傷にかけると傷が回復する。

飲んでも有効かどうかは不明。


こんなにすぐ回復するならマイオクで2万で落札されるのも納得だな。


低級ポーション8本、つまり16万円を無駄にした自覚はなかった。

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