第36話 バルスの慢心、アイの失敗


⚫︎バルス


「貴方がバルス?」


 防衛戦が終わってから少ししてKING'Sのサタナリアさんと話をしていると背後から見知らぬプレイヤーに声を掛けられた。


「そうだけど、アンタは?」


「私はアイ。マヨイから聞いてると思うけど決闘して貰えないかしら」


 マヨイとの約束にあったボクと対戦したがっていたプレイヤーというのが目の前のアイなんだろう。こちらを値踏みするような視線はまるで最初からボクが格下だと確信しているような印象を受けた。


「いいよ、マヨイとの約束だしね。サタナリアさん、話の途中ですいませんが……」


「大丈夫。また後で話しましょ」


 サタナリアさん自身は凄い成績を残しているプロゲーマーではないが、4年くらい前に有名な格闘ゲームの公式大会連勝記録を更新中だったマードックさんに勝った事で一躍有名になった人だ。その場で求婚したマードックさんも有名だけど、それはまた別の話。


「バルスも槍使いよね、戦闘の開始位置は5mもあれば十分かしら」


「ってことはアイも槍使いなのか?」


 槍使いは希少だ。剣と槍ならば槍の方が圧倒的に有利にも関わらずVRMMOでは剣を取る人の方が多い。ファンタジーといえば剣と魔法だというイメージが定着している日本だと更にそれは顕著だ。


「そうね、槍も使うわよ。ただ近接戦は素手の方が得意だけど」


 剣道三倍段という槍と剣の使い手の実力を比較した有名な言葉がある。槍と素手では三倍段どころの差ではないはずだ。

 それなのに素手の方が得意というのは余程の自信があるんだろう。リアルで空手や柔道でもやってるのかな?


「なら開始位置は5mくらい離れればいいかな?」


「そうね、それくらいが妥当かしら」


 アイから届いた決闘申請を受託する。

 距離を取ってカウントが0になるのを待つ。


「いくぞ!」


 0になった瞬間、ボクはアイとの間合いを詰めて胴を突きに行った……はずだった。


「─────え」


 開始から5秒足らずでボクは負けた。

 確実に届いたはずの突きは《届かず》、跳ねるように間合いに入り込んで来たアイの拳がボクの顔面を捉えた……んだと思う。

 マヨイとの決闘の最後と似たような負け方なだけにとても悔しい。


「ごめんなさい、ステータス差のことを忘れてたわ」


「い、いや、ステータス差って言っても今のはボクの完敗だ」


 例えステータス差があったとしても身体を操る技術は別だ。間違いなくアイは強い。それこそアイ&ショウのアイに匹敵するんじゃないかと思うほどに。


「もう一度やりましょう。今度は私も手加減するから」


 ボクはマヨイに簡単にあしらわれた。

 あの時のマヨイは魔力弾を使っていなかった。

 つまりボクを相手にして最初から手加減していたんだ。


「いや、手加減は要らない。そもそも素手でどうやって手加減するのさ」


「それもそうね……なら私も槍を使うわ」


 槍が手加減するための道具にされる。

 それはボクにとって許容できるものではない。


…………………………………



……………………………



…………………



⚫︎アイ


 これは失敗したかもしれない。どうやら槍というのはバルスにとって相当に神聖なものだったらしい。

 ここは謝るべきだろうか。それとも試すべきだろうか。

 僅かな逡巡の間にバルスから決闘申請が送られてきた。

 まぁ……戦ってから謝るとしよう。


「………………」


 私の"緋神の祭矛"のリーチは普通の長剣より少し長い程度しかない。バルスの持つ槍の方が長いため、私が確実に攻撃を届けるには懐に入り込むしか手立てがない。

 決闘開始のカウントダウンが0になる。

 

「はぁっ!」


 開始早々、バルスは鋭い突きを放ってきた。

 先ほどと同様のパターンだ。しかし、先ほどは大雑把に私の胴を狙っていたけれど、今回は私を一撃で仕留めるために喉元を狙っているのが分かる。つまり、フェイントでないのがモロバレだ。


 私は先ほど同様に攻撃が命中する直前、突きのスピードと同じ速度で後退する。もちろん、更に踏み込んで来られても対応する余裕のある間合いを保つのは忘れない。マヨイのように突きの速度を途中で変化させられても今の私なら対応できるだろう。


「ま、またっ!?」


 その反応には私も覚えがある。

 当たるはずの攻撃が何故か届かない、バルスにはそんな風に見えてるはずだ。突きの速度と同じ速度で後退、それでいて顔の高さが変わらないのだから錯覚しても仕方ないのだ。マヨイに初めて見せられた時には私も似たような反応をした覚えがある。


 限界まで突き出した槍は引かなければならない。

 立ち回り次第では無理に槍を引かなくても良いがバルスは間違いなく引く。ここまで見てきた彼女の槍の扱いは武術のそれではなく、他のゲームで得た経験を基にしたものだろう。


「くっ」


「…………」


 バルスが槍を引くのと同時に私は更に後方、バルスが槍を届けるには3歩必要な位置まで下がる。そして私は下がった位置から1歩踏み出して"緋神の祭矛"をバルスの腰元へほうる。


「なっ……!」


 これで決まれば例え同類であっても同格ではない。

 試すつもりで放った"緋神の祭矛"をバルスは反射的に槍を払うようにして防いだ。不意打ちとも言っていい投擲への対処としては及第点と言っていい。


「甘いよ」


 更に1歩前に進んだ私は打ち払われた"緋神の祭矛"を空中で掴みながらバルスの懐に入る。バルスの失敗は投擲された"緋神の祭矛"を払う際に槍を大きく動かし過ぎたこと、そして飛来した"緋神の祭矛"の勢いを殺しただけで満足したこと、そして何よりも私の姿を一瞬とはいえ意識の中から外したことだ。


「ちくしょうっ……」


 そんな泣き言を口に出す暇があるなら回避や防御に労力を割くべきだ。結局、懐に入り込んだ私は更に1歩踏み込んでバルスのくびねた。



───────────────

1戦目の敗因:油断と慢心

2戦目の敗因:感情的になった。

実力を出し切れていないのと、アイが大人気ないせいで瞬殺でした。


あと地味にマードックさんの情報が追加。

既婚者で世界記録保持者。強いんだよ?

年齢はプロット消滅してるのでうろ覚えですが33歳。

サタナリアは19歳。


ギルティ?ノットギルティ?


話タイトルは変更するかもしれません。


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